美味しくて切なくて優しい、ちいさな恋物語

かみゅG

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スイート・ツリー

三年目の冬(その1)

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 夢を見た。
 昔の夢だ。

 初めて会ったのは、お互いに小さい頃だった。
 まだ、花を咲かせることもできない小さい頃だ。

「どっちが先に花を咲かせるか勝負よ!」
「背で勝てないからって別の勝負か? いいだろう。格の違いを思い知らせてやる」

 当時から張り合っていたのを覚えている。
 だが、今思うと可愛らしいものだ。

「背だって1センチしか違わないじゃない!」
「1センチもだ」

 せいぜい、こんな程度の張り合いなのだから。

「ふあぁ……」
「お子様ね。もう、眠いの?」
「お子様でもいいさ。寝る子は育つという言葉を知らないのか? 早く寝た方が、早く成長するということだ」
「あ、ずるい! わたしも寝る」
「Zzz……」
「ちょっと、先に寝ないでよ!」

 花を咲かせたのは、ちょうど次の年だったろうか。

「どうだ。こっちの勝ちだ」
「ちょっと早いだけじゃない! わたしだって蕾ができているわよ」

 そもそも種族が違う。
 当然、花を咲かせる時期も異なる。
 ただ、それだけのことだ。
 だが、当時はそんなことでも一喜一憂していたものだ。

「花の可愛さは、わたしの方が上なんだから!」
「せいぜい、楽しみにしているさ」
「むきー!」

 先に花を咲かせたのは自分。
 そんな余裕も彼女の花を見るまでだった。

「どう!」
「……」
「可愛いでしょ!」
「……」
「ちょっと、なにか言いなさいよ」
「……まあまあだな」

 そんな憎まれ口を叩くのが精一杯だった。

「まあまあってなによ! 可愛いって言いなさいよ!」
「あー……まあ、可愛いんじゃないか」
「なんだか言い方が気に入らないけど、まあいいわ! 今、機嫌がいいから!」

 彼女は浮かれていた。
 だから、気づかれなかったと思う。
 こちらが見とれていたなんてことは。

 ピンク色の大きな花びら。
 目を奪われた。
 心を奪われた。
 女性らしい可憐な姿に魅了された。

「花は引き分けね! 次はどっちが先に実をつけるか勝負よ!」
「あ、ああ」

 正直、もう勝負はどうでもよかった。
 ずっと、彼女を見ていたい。
 そう思った。
 そして、この勝負が最後の勝負になった。

「わたしの勝ちね!」

 初めて実をつけた年、彼女はそう言った。

「来年は、あなたも実をつけられるわよ」

 二回目に実をつけた年、彼女はそう言った。

「花はあなたの勝ちでいいわ。人間たちも、あなたで花見をしているもの」

 三回目に実をつけた年、彼女はそう言った。
 気を遣われているのは分かっていた。
 彼女は実をつけることができて、自分は実をつけることができなかったのだから。
 そして、その原因は成長の早さ遅さではない。
 種族の違いだ。

 それ以来、張り合うことは無くなった。
 自分から勝負を持ちかけることも無かったし、彼女から勝負を持ちかけることも無かった。
 種族が違うのだから。
 それぞれが特徴があるのは当たり前だ。

「今年も人間たちが吾輩で花見をしているぞ」
「本当ねー。わたしも頑張って実をつけなきゃ」

 そんなことを語り合いながら、長い年月を二人で過ごしてきた。
 退屈だが平穏な日常。
 それで満足していた。
 そのはずだった。

 だが、自分でも気づいていなかった本心を、見抜かれていたのだろう。
 吾輩は彼女が羨ましかった。

☆★☆★☆★☆★☆★

 吾輩たちの寿命は長い。
 人間よりも長い。

 だが、脆い。
 一度根を生やせば、自力でそこから動くことはできない。
 襲われたら助からない。
 襲う相手は動物のこともあれば、自然災害のこともある。

 だから、子孫を残すというのは、大切なことだ。
 彼女は子孫を残すことができる。
 吾輩は子孫を残すことができない。
 種族が違うのだから、それぞれが特徴があるのは当たり前だ。
 そう納得していた。
 つもりだった。

「あのっ! はじめましてっ!」

 そんな状況を変えたのは小娘だ。

 吾輩と種族は違う。
 だが、近い。
 子供が作れるくらいには近い。

 花を咲かせる時期も違う。
 だが、近い。
 咲いている期間の一部が重なるくらいには近い。

 だから、子供を作ることができる。

「じゃあじゃあ、一緒に赤ちゃんを作ってくれますか?」

 それでも最初は躊躇いがあった。
 歳も離れていたし、本当に子供を作れるか不安だった。
 そんな背中を押してくれたのは彼女だった。

「それで、どうするのー? ウメさん」

 そんなふうに煽られて、最終的には小娘と子供を作ることとなった。

「でも、ウメさんも手が早いわよねー。親子くらい歳の離れている年下の子を孕ませるなんてー」

 煽った本人は、そうからかってきたが、喜んでくれていることは分かった。
 小娘に子供ができたこと。
 吾輩に子供ができたこと。
 それが分かるくらいには、長い付き合いだった。

「モモ……」

☆★☆★☆★☆★☆★

 夢から覚めた。

「……おはようございます。ウメ兄さん」

 挨拶をしてくる小娘。

「おはよう、スモモ」

 こちらも挨拶を返す。
 もう一人からの挨拶はない。
 そこには、眠る前と同じ光景。
 ぽつんと切り株があるだけだった。

「あの……」

 小娘がこちらを伺うように声をかけてくる。
 だが、続く言葉はない。
 どう声をかけていいか迷っている。
 そんな感じだ。

 眠る前のことを思い出す。
 どうやら、ずいぶんと心配をかけてしまったようだ。

「今年は昨年よりも多くの実をつけないとな。モモの分まで」

 吾輩と小娘の子供ができたことを喜んでくれた彼女。
 その彼女はもう子供を作ることはできないが、吾輩と小娘の子供ができれば喜んでくれるだろう。

「ウメ兄さん……はいっ!」

 小娘も元気に返事を返してくれる。
 眠る前に見せた醜態について、聞いてくることも言ってくることも無かった。
 そのことに感謝しつつ、今年も吾輩は小娘と子作りに励んだ。
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