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第二章 七不思議の中のマンドラゴラ

044.バトルしてますね

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 ガキンッ!

 剣と拳が激突する音が響いてくる。
 刃が肉を斬り裂いた音じゃない。
 硬い物と硬い物が激突した音だ。
 拳には手甲か何かを着けているのだろう。

 ガギンッ!!

 再び衝突音が響いてくる。
 さっきよりも激しい音だ。
 剣で攻撃している側が優勢らしい。
 拳で防いだ側が耐えきれずに後ろに下がる。

「バトルしてますね」
「そんなこと言っている場合か!ヤバくないか、これ?」

 のんきな感想を言うメイとは違い、俺は身の危険を感じていた。
 争っている人影との距離は離れている。
 夜だからということもあるが、顔が分からないくらいの距離だ。
 しかし、激しい動きで争っているのだ。
 何かの拍子にこちらに近づいて来てもおかしくない。
 もしそんなことになれば、俺とメイが巻き込まれるのは容易に予想できる。
 たとえ巻き込まれなかったとしても、こちらの顔を見られるのもマズい。
 夜の学校で争っているような連中だ。
 目撃者は消すなんてことを言い出しても不思議じゃない。

「おい、メイ・・・」

 気付かれないうちに逃げるぞ。
 そう言おうとした瞬間、事態に変化が訪れる。

 ガシャンッ!!!

「あっ!」

 拳で戦っていた側が廊下の壁に激突する。
 その衝撃で窓ガラスが割れたのだ。
 拳で戦っていた側は、そのままへたり込み動かない。
 気は失っていないようだが、ダメージが大き過ぎて動けないのだろう。
 剣で戦っていた側は、それを見てゆっくりと近づく。
 そして、とどめを刺すべく剣を振りかぶる。
 マズいな。
 決着がついてしまったら、俺とメイが逃げるタイミングを失う。
 そのまま立ち去ってくれたらいいが、証拠を残さないために周囲を確認する可能性がある。
 そうしたら見つかる可能性も高まってしまう。
 こっそり逃げるなら今が最後のチャンスだろう。
 俺はそれをメイに伝えようとするが、先にメイが行動を起こす。
 しかし、行動の意味が分からない。
 無防備に美術室から廊下に出たのだ。

「お、おい!なに考えてる!」
「こういうときは、負けている方を颯爽と助けるのが、お約束ですよね」
「それはチート能力がある場合の話だ!」

 唐突に現れたメイに、振り上げられた剣が止まる。
 間違いなく、こちらを認識されてしまった。
 もう、こっそり逃げるなんてことはできない。
 逃げるなら、すぐに反対を向いて全力疾走するべきだ。
 それなのに、メイは余裕の表情で剣を持つ人影に近づいて行く。

「ケイ、私は魔女ですよ。剣を持った相手なんか、魔術でけちょんけちょんにしてやります」
「マッチじゃムリだって!早く逃げろ!」
「マッチじゃないですよぅ」

 俺がメイのためを思って逃げるように勧めているというのに、メイは不満そうに口を尖らせる。
 俺とメイがそんな言い争いをしている間に、剣を持った人影はこちらを敵と認識したらしい。
 とどめを刺すのを中断して、剣を持ったまま、こちらを向く。

「前回は火の魔術でしたけど、今回は雷の魔術を見せてあげます」

 そう宣言すると、メイは剣を持った人影に向かって走り出す。

「近づく時点で魔術の利点が無いじゃん!」
「雷の魔術は近づかないと使えないんですよ」

 剣を持った人影は、突然走って近づいてきたメイに驚いた様子だったが、すぐに油断なく剣を構える。
 どう見ても、メイにどうこうできる相手には見えない。
 力づくでメイを止めたいところだけど、俺の小さな身体ではそうすることはできない。
 それどころか、胸元に座っている俺も同時に近づくことになり、自分だけ逃げるということもできない。

「行きますよ~」

 メイは走りながらローブに手を入れると、棒状のものを取り出す。
 そして、そのまま剣を持つ相手に振り下ろす。

 ガキンッ!

「えいっ」

 バチンッ!

 メイの持つ棒と剣が鍔迫り合いになった瞬間、二種類の音がした。
 最初の音は、棒と剣が激突する音。
 次の音は、実体験として聴いたことはないけど、テレビなんかで聴いたことがある音だった。
 具体的に言うと、落雷の映像なんかで聴く音だ。

 ガチャンッ!

 一瞬遅れて、剣を持った人影が床に倒れる音が響く。

「どうです、ケイ?雷の魔術は凄いでしょう?」

 メイがどや顔で感想を求めてくる。
 確かに凄かった。
 人影がビクンッと震えたかと思ったら、そのまま床に倒れたのだ。
 おそらく、雷が身体に流れた衝撃で倒れたのだろう。
 凄い威力だと思う。
 凄い威力だと思うのだが、

「スタンガンじゃん!」

 それが感想だった。
 メイの持つ棒は、どう見ても、警棒型のスタンガンだった。
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