森の中のマンドラゴラ~異世界は平和だったので、おっぱいとたわむれることにする~

かみゅG

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第二章 七不思議の中のマンドラゴラ

046.コンプリートしたくなりませんか?

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 ザクッ!

 聴こえてきたのは、そんな音だった。
 勢いよく起き上がった人影が、こちらに向かって腕を振るったのだ。
 その手には何も持っていない。
 それなのに、ナイフのような斬れ味。
 間近で見ていたから、その理由が分かった。
 爪だ。
 長く伸びた爪が、刃のように斬り裂いてきたのだ。
 狙ってきたのは、メイの胸元。
 心臓の部分だ。
 深く斬られた傷口から血が、

「・・・・・?」

 噴き出すことは無かった。

「大丈夫か、メイ?」
「ケイ!?そっちこそ大丈夫ですか?」

 メイの状態を確認すると、彼女は大丈夫そうだ。
 高級ソファーには傷一つ付いていない。
 それに対して、俺の胴体は皮一枚で繋がっているような状態だ。
 とは言っても、俺の身体は植物の根っこだ。
 致命傷というわけじゃない。
 俺が胸元にいて盾になったおかげで、爪がメイの肌に傷をつけることはなかった。
 けど逆に、俺がいなかったら傷をつけていたということになる。
 目の前のこいつは危険人物確定だ。

「ケイにこんなことをするなんて許せません!」

 メイがスタンガンを構える。
 危険人物と戦うつもりのようだ。
 しかし、いくらなんでも無謀過ぎる。

「バカ!逃げるんだよ!」
「でも、せっかくケイのために用意したぬいぐるみも破かれちゃったんですよ!」

 確かに、俺が着こんでいたメイが用意してくれたぬいぐるみは、先ほど斬られたときに破れてしまっている。
 だけど、ぬいぐるみと自分達の身の安全では、釣り合わないだろう。

「いいから、逃げろ!」
「でもでもっ!」

 メイは頑固だ。
 状況が分かっているんだろうか。
 逃げるように言う俺と、それを拒否するメイ。
 俺達が言い争っている間に、危険人物が再びこちらに跳びかかってくる。

「ふうっ!!!」

 獣のような唸り声を上げて、爪を振りかぶる。

「このっ!」

 俺はそれに対して、紙の包みを投げつける。
 紙の包みは、ぬいぐるみを着込んだときの隙間を埋めるために、たまたま持っていたものだ。
 ぬいぐるみが破れたことで、取り出すことができた。
 そんなものがダメージになるとは思っていないけど、狙いは別にある。
 危険人物の顔に当たった紙の包みは、中に包まれていた粉末を撒き散らす。

「きゃいんっ!」

 情けない声を上げて、危険人物がこちらへの攻撃を中断する。

「けほっけほっ!」

 粉末が気管にでも入ったのだろうか。
 危険人物が激しく咳き込む。

「ほら、俺が仕返ししてやったから、さっさと逃げるぞ!」
「うぅ、わかりましたよぅ」

 メイが悔しそうにしながらも、今度は俺の言葉に従ってくれる。
 斬られた俺が自分の手で仕返ししたからだろう。
 廊下を駆け抜け、階段を駆け降り、校舎を出て、学校から離れたところで、ようやく一息つく。

「はぁはぁはぁはぁ」
「お疲れ」

 全力疾走して息が切れているメイが呼吸を整える。
 ここまで来れば大丈夫だろう。
 後ろを見ても、追いかけてきている気配はない。

「しかし、何だったんだろうな、あいつは」

 爪で攻撃してきたこともそうだけど、動きも獣のようだった。
 そこで思い出すのは七不思議だ。
 七不思議には『六、夜な夜な出没する殺人鬼』というものがあった。

「まさか、あいつが殺人鬼なのか?」

 爪が届いていたら、メイが大怪我をしていたのは間違いない。
 俺の胴体が真っ二つになるような攻撃だ。
 命に関わっていた可能性もある。

「そうかも知れませんね」

 呼吸が整ったのだろう。
 俺の呟きにメイが相槌を打つ。

「これで残りは二個ですよ。どうします?戻って調べますか?」
「勘弁してくれ」
「でも、残りここまできたら、コンプリートしたくなりませんか?」
「ならない」

 無事に逃げてこれたのに戻ろうとするわけがない。
 俺とメイは冒険を終えて家に帰った。
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