シンデレラストーリーは悪魔の契約に基づいて

かみゅG

文字の大きさ
65 / 240
第四章 塔の上

065.解毒

しおりを挟む
 身体が痺れてきたように感じたけど、どうやら違うようだ。
 全身の肌が敏感になっていて、触れると痺れるような感覚が響く。
 脈が打つだけで、指先から淡い痺れが広がっていく。

「アーサー王子に頼めって・・・・・こういう事っ!」

 アダム王子の言葉を思い出して、吐き捨てるように呟く。
 熱を持った頭で、うなされるように歩きながら、自室に入り鍵を閉める。
 そのまま火照った身体をベッドに投げ出すと、冷たいシーツが気持ちいい。
 下着が湿っているのだけが、少し不快だ。
 手を伸ばしかけたところで声がかかる。

「おや、お帰りですかな」
「メフィ」

 そうか。
 メフィが居たんだった。
 辛うじて自制が働き、手を止めることができた。
 危なかった。
 手で触れていたら、そのまま止めることができなかったかも知れない。

「メフィ、ちょっと私を縛ってくれない?」
「ふむ?」

 自分を縛って欲しいと告げる私に、メフィが怪訝そうにする。

「お相手をするのは、やぶさかではありませんが、そういうことはアーサー王子に頼んだ方がよろしいのではないでしょうかな?」
「緊縛プレイをして欲しいって言っているわけじゃないわよっ!薬を抜く間、平静を保てないかも知れないから、動けないようにしてって言っているだけっ!」

 こうしている間にも、火照りや痺れが広がっていっている。
 甘い痺れが、王妃のところで飲んだお茶を思い起こさせる。
 間違いなく、アレが原因だ。
 時間がもったいないので、部屋に置いてあった布を使い、自分で片手をベッドの端に縛り付ける。
 足を縛る必要はないだろう。
 もう片方の手だけ、メフィに縛ってもらうことにする。
 そんな私の様子を見ていたメフィは、私に近づいてくると、首筋の匂いを嗅いでくる。
 あまり嗅いで欲しくないんだけど、それを言う余裕も無くなってきた。

「なるほど。催淫作用のある薬でも盛られましたかな?」

 汗の匂いで分かるものなのだろうか。
 あるいは下着を濡らす体液の匂いが漂っているのだろうか。
 自分では判断できない。

「悪いけど、今夜は別の部屋で寝てくれる?あと、明日の朝、ほどきに来てくれると助かるんだけど」
「かしこまりました。ですが、無理をせずとも、アーサー王子に処理してもらえばよろしいのでは?そのたぐいの薬は、一度解消すれば、ずいぶんと楽になるものですよ」
「頼めるわけないでしょっ!」

 ダメだ。
 熱にうなされた頭では、気の利いた言葉も返せない。
 八つ当たりに近い返事を返してしまう。
 しかし、メフィは気を悪くした様子も無く、私がお願いしたとおりに部屋を出ていく。

「今夜は、親しくさせていただいているメイドの方のところにでも、ご厄介になるとしましょう」

 とんだ女たらしの台詞だけど、見た目が子供だから、まあ大丈夫だろう。
 小さい子供が年上の女性に甘えに来たと思われるくらいだろう。

「悪いわね。部屋の鍵は閉めていって」

 ガチャリ。

 メフィを見送り、鍵の閉まる音を聞いて、ようやく気を抜くことができる。
 とはいえ、心も身体も落ち着いてはくれない。
 なんだか、むずむずする。
 それから逃れるように身体を動かすと、服が擦れてさらにむずむずする。
 あとは、その繰り返しだ。
 けど、同じじゃない。
 次第に甘い痺れが溜まっていくような感じがする。
 それに伴い、ぞわぞわと毛穴が開いて、汗が染み出しているような気がする。
 染み出しているのは汗だけじゃないかも知れないけど。

「今夜は一晩中、悶えることになりそうね」

 だんだん、頭が真っ白になってきた。
 私は熱い吐息を吐き出して、考えることを放棄した。

 *****

 眠れたのは朝方だったと思うけど、目覚めは思いの外、すっきりしていた。
 けど、ひどく喉が渇いている。
 軽い脱水症状になっているのかも知れない。
 喉を潤したいが両手が縛られているので、水を飲みに行くことができない。

 ガチャリ。

 そんなことを考えていたところで、ちょうど鍵の開く音が聞こえてくる。

「メフィ?」

 頼んでいたとおり、ほどきに来てくれたようだ。
 そう思ったのだけど、部屋に入ってきた相手は、別の人物だった。

「おはようございます」
「お、おはよう?」

 その人物は何も言わず、ベッドに縛られている両手をほどいてくれる。
 私は一晩中縛られていた両手をほぐしながら、気まずいながらも、その人物に声をかける。

「えーっと・・・メアリー?」
「早朝ですが、お風呂に湯を張ってあります。水分を摂られてから入った方がよろしいでしょう」
「えっと、ありがとう」
「朝食は身を清められてからでよろしいでしょうか?」
「あ、うん」

 なんだろう。
 この、秘め事を母親に見つかったときのような感じは。
 気付いているけど、突っ込んで来ないというか。
 それがありがたいけど、逆に申し訳ないというか。
 そんなことを考えていると、メアリーが話しかけてきた。

「王子も同じ状態になったことがありますから、事情はわかっております。そのときよりはマシですから、気になさらないでください」

 気にするなと言われても、流石に気にしてしまう。
 昨晩、私がどんな状態だったかバレバレのようで気まずい。
 けど、今はその言葉に甘えさせてもらおう。
 こんなときに、どういう態度を取ればいいのか、経験がないから分からないし。

 それにしても、王子というのがアダム王子とアーサー王子のどちらを指しているのは分からないが、あの王妃は自分の息子にもアレを盛ったのか。
 生粋の淫乱らしい。
 メアリーが対応したらしいから、親子で一線は越えていないようだけど。
 しかし、メアリーが対応か。
 なんとなく、彼女を見る。

「・・・心配ならさなくても、アーサー王子は童貞です」

 私の視線に気づいたのか、メアリーがそんなことを言ってくる。
 いや、別に何も聞いていないけど。

「ふーん」

 適当に返事を返すが、それがよくなかったらしい。
 私が疑っているとでも思ったのか、メアリーがさらに情報を追加してくる。

「本当ですよ。ちょっとお手伝いしただけです」
「ああ、うん。そうなんだ」

 その情報を聞いて、私はどんな反応をすればいいんだろう。
 微妙な相槌を打つしかない。

「具体的に言いますと・・・」
「言わなくていいから」

 それ以上は情報過多だ。
 役に立たないどころか、害になる。
 主に、次にアーサー王子に会ったときに、その話を思い出して気まずくなりそうだという意味で。

「よろしければ、アーサー王子の弱点を教えて差し上げますが」
「いらない。お風呂に行ってくるわ」

 弱点というのが、弱みという意味なら興味がなくもないけど、おそらく違うだろう。
 刺激に弱くて悦ぶポイントなんて、知っても困る。
 私はそのまま部屋を出て、お風呂へ向かう。
 メアリーには悪いけど、自分の色々な体液が染み込んだシーツの後始末をするところを見ているのは気まずいから、後は任せてしまおう。

 *****

「ふぅ」

 染み渡るお湯の温度を感じながら息を吐く。
 昨晩のように、自分の中から発せられる熱を吐き出す息じゃない。
 身体が火照っているのは同じだけど、こういう気持ちよさなら受け入れるのに躊躇いはない。

「朝からお風呂っていうのも、気持ちいいわね」

 ランタンの灯りじゃない、陽の光に照らされた浴室は、いつもとは別の景色のようにも見える。
 お湯に浸かっている自分の裸体もよく見える。
 明るい場所で自分の裸体を見る機会というのは、意外に少ない。
 川で水浴びをしているときは見ているはずだけど、ああいうときは周囲にも気を配っているから、あまり覚えていない。

「・・・一応、女っぽい身体よね」

 今日はなぜか、いつもより、じっくりと自分の身体を眺めてしまう。
 昨晩の影響だろうか。

「胸も人並にはあるし」

 両手で胸を押すと、ふにふにと形を変える。
 指が埋まるほどではないけど、弾力は感じる。

「女としての反応もするみたいだし・・・」

 ばしゃっ!

 昨日のことを詳細に思い出しそうになって、顔にお湯をかける。
 身体の芯から疼くような感覚は治まっているけど、詳細に思い出すと変な気分になってくる。
 あまり、ああいう欲求を感じたことはないけど、強制的に感じさせられると、どうしていいか分からなかった。

 昨日は油断した。
 肉体的な苦痛や精神的な苦痛には、ある程度、耐性があるつもりだ。
 毒の対処方法も、師匠から教わったから、知っている。
 けど、ああいう方面で来られることは予想していなかった。
 予想していたら、もう少しマシな対処ができたはずだ。
 それ以前に、アダム王子の護衛なんか引き受けなかったと思う。
 せいぜい、王妃と王子が人の道を踏み外す程度だろう。
 私には関係のないことだ。

「師匠も危ないところに近づかないのが、いい軍師だって言っていたしね」

 もう、あの王妃には近づかないでおこう。
 そんなことを考えながら、私は湯船から上がった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

完結 シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣

織部
ファンタジー
 ノルドは、古き風の島、正式名称シシルナ・アエリア・エルダで育った。母セラと二人きりで暮らし。  背は低く猫背で、隻眼で、両手は動くものの、左腕は上がらず、左足もほとんど動かない、生まれつき障害を抱えていた。  母セラもまた、頭に毒薬を浴びたような痣がある。彼女はスカーフで頭を覆い、人目を避けてひっそりと暮らしていた。  セラ親子がシシルナ島に渡ってきたのは、ノルドがわずか2歳の時だった。  彼の中で最も古い記憶。船のデッキで、母セラに抱かれながら、この新たな島がゆっくりと近づいてくるのを見つめた瞬間だ。  セラの腕の中で、ぽつりと一言、彼がつぶやく。 「セラ、ウミ」 「ええ、そうよ。海」 ノルドの成長譚と冒険譚の物語が開幕します! カクヨム様 小説家になろう様でも掲載しております。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

ボンクラ王子の側近を任されました

里見知美
ファンタジー
「任されてくれるな?」  王宮にある宰相の執務室で、俺は頭を下げたまま脂汗を流していた。  人の良い弟である現国王を煽てあげ国の頂点へと導き出し、王国騎士団も魔術師団も視線一つで操ると噂の恐ろしい影の実力者。  そんな人に呼び出され開口一番、シンファエル殿下の側近になれと言われた。  義妹が婚約破棄を叩きつけた相手である。  王子16歳、俺26歳。側近てのは、年の近い家格のしっかりしたヤツがなるんじゃねえの?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~

杵築しゅん
ファンタジー
 戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。  3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。  家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。  そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。  こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。  身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

処理中です...