シンデレラストーリーは悪魔の契約に基づいて

かみゅG

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第十四章 ヘンゼルとグレーテル

226.ヘンゼルとグレーテル(その7)

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 宿を出たわたしとお兄さまは、街を歩きます。

「グレーテル、何をして遊ぶの?」

 お兄さまが質問してきます。
 わたしはそれに答えます。

「かくれんぼをしましょう」
「かくれんぼかい?」

 わたしの提案にお兄さまは考えます。
 そして、わたしに言います。

「知らない街だよ。迷子にならないかな?」

 お兄さまは迷子になるのが心配なようです。
 わたしはお兄さまに安心してもらうために言います。

「二人で行けば大丈夫ですよ」
「二人で?」

 お兄さまは、また考えます。
 そして、わたしに言います。

「かくれんぼだよね?二人で行ったら、かくれんぼにならないんじゃないかな?」

 普通、かくれんぼは、隠れる側と捜す側に分かれます。
 隠れる側が見つからなければ隠れる側の勝ち、捜す側が見つけることができれば捜す側の勝ちです。
 でも、せっかくお兄さまと遊ぶのに、一緒にいられないなんてあり得ません。
 だから、これからおこなうかくれんぼは、そうじゃないのです。

「大丈夫です。お兄さまとわたしが隠れる側、お父さまが捜す側です」
「え?お父さま?」

 お兄さまが首を傾げます。

「お父さまは、宿で温泉に入っているんじゃないかな?」

 その通りです。
 わたしがそう言ったからです。
 ですが、それでいいのです。

「かくれんぼのときは、隠れる側が隠れるまで、捜す側は待たなければいけませんよね。その時間が退屈だと思いましたので、お父さまには温泉に入ってもらったのです」
「でも、お父さまには、かくれんぼをするって言っていないよね?」

 お兄さまは不思議そうにしていますが、それに対する回答も考えてあります。

「お兄さま、これはサプライズなのです。内緒でお父さまと遊んでさしあげるのです。きっと喜びます」
「サプライズ・・・」

 お兄さまは、お優しいのです。
 お父さまが喜ぶと言ったら、きっと賛成してくれます。

「わかったよ。お父さまが見つけられなかったら、宿に戻ればいいしね」

 お兄さまは少し迷ったようでしたが、最終的には賛成してくれました。
 計画通りです。

「それじゃあ、一緒に行きましょう」

 わたしはお兄さまの手を握って、目的の場所に向かって歩き出しました。

 *****

 目的の場所と言っても、そう遠い場所ではありません。

「ここに隠れましょう」

 その場所に着いて、わたしはお兄さまに言います。

「ここ?」

 お兄さまは、わたしが指さした場所を見て、首を傾げます。

「勝手に入ったら怒られるんじゃないかな?それに、ぼくたち二人が入る隙間はなさそうだよ?」
「お兄さま、大丈夫です。こうすればいいのです」

 隠れることができないというお兄さまの目の前で、わたしはいくつかの箱を外に出します。
 そして、どうだ、という顔でお兄さまに教えてあげます。

「ほら、入る隙間ができました」

 箱がなくなったことでできた隙間は、ちょうどお兄さまとわたしが入ることができる隙間です。
 もっと箱を外に出せば、隙間に余裕ができて、広々とするはずです。
 ですが、そうはしません。
 きゅうくつなのがよいのです。
 身動きができないほど、お兄さまとくっつくのがよいのです。

「うーん・・・箱を外に出しただけだし、もし怒られたら謝ればいいかな」

 わたしが作った隙間を見てお兄さまは迷いましたが、最後には一緒に隠れてくれることになりました。

「それじゃあ、隠れましょう」
「そうだね、グレーテル」

 お兄さまとわたしは隙間に入ります。
 ぎゅうぎゅうです。
 むぎゅむぎゅです。
 頬ずりするように、お兄さまとわたしはくっつきます。
 最高です。

「グレーテル、狭くない?」
「狭いのがいいのです」
「狭いのが?」

 いけません。
 お兄さまが不思議そうな顔をしています。
 わたしは用意していた理由を口にします。

「かくれんぼなのですから、隠れることができなさそうな場所に隠れるのがいいのです」
「なるほど、そうなんだ」

 お兄さまは、まだ不思議そうにしていましたが、納得してくれます。
 あぶないあぶない。
 わたしはお兄さまとくっついているだけで幸せなのですが、お兄さまは違うかも知れません。
 本当の理由を言ってくっついてくれなくなることは、避けなければなりません。

「・・・・・」
「・・・・・」

 幸せな時間が流れます。
 けど、お兄さまはキョロキョロとまわりを見回して、落ち着かない様子です。

「お兄さま、音を立てたら見つかってしまいます」
「ああ、ごめん」

 ぴとっ。

 ふたたび幸せな時間が流れます。
 外からかすかに街の賑わいが聴こえてきますが、それだけです。
 この空間には、お兄さまとわたししかいません。
 世界に二人きりになったみたいです。
 以前質問したとき、お兄さまはわたしと結婚してくれないと言いました。
 でも、世界に二人きりしかいないのなら、お兄さまはわたしと結婚するしかありません。
 ずっと、こうしていたいです。
 夢のような気分に浸りながら、わたしはいつしか夢の世界に旅立っていました。

 *****

 がたんっ!

 身体を揺り動かされたような気がして、わたしは目を覚まします。
 いつの間にか眠ってしまっていたようです。
 わたしは慌てて隣を見ます。
 確認するまでもなく、お兄さまがいました。
 お兄さまの体温がぽかぽかして気持ちいいです。
 ひなたぼっこしているみたいです。
 そのせいで眠ってしまったようです。

 がたんっ!

 また揺れました。
 そのはずみでお兄さまが目を覚まします。
 お兄さまもわたしと一緒で眠ってしまっていたのです。
 ですが、今の揺れで目を覚ましました。
 お兄さまがキョロキョロとまわりを見回します。
 そして、お兄さまが驚いた声を出します。

「え!?馬車が動いている!?」

 揺れと音で気付いたようです。
 その通りです。
 お兄さまとわたしが隠れるために乗り込んだ馬車は、眠っている間に動き出したのです。

「お兄さま、落ち着いてください」
「落ち着いていられないよ!?だって、馬車が動いているんだよ!?すぐに止めてもらわないと!?」

 馬車が動いているという状況に動揺したお兄さまが、馬車を止めようとします。
 大声を出せば、御者の人に声が届くでしょう。
 ですが、それは都合が悪いです。

「お兄さま、大丈夫です。行き先はわかっていますから」

 だから、わたしはお兄さまに優しく声をかけます。

「ほんとう?」
「ほんとうです」

 そして、わたしはお兄さまに優しく微笑みます。
 お兄さまはまだ不安そうでしたが、馬車を止めようとするのは、やめてくれました。
 代わりに、わたしに質問してきます。

「この馬車はどこに向かっているの?」
「着いてのお楽しみです」

 普段ならお兄さまからの質問には全て答えるのですが、今は答えを口にしません。
 少なくとも、歩いて戻れない距離まで進むまでは、答えを口にするわけにはいかないのです。

「お兄さま、宿で温泉まんじゅうをもらってきました。一緒に食べましょう」

 わたしは、ドレスの隠しポケットから温泉まんじゅうを取り出し、お兄さまに渡します。
 この赤いドレスには、ところどころ謎の隠しポケットがあるのです。
 便利なのですが、普通のドレスにはポケットなんてありませんから、少し不思議です。
 きっと、このお古のドレスを着ていた叔母にあたる人は、お転婆だったのだと思います。
 ドレス姿で森の中でも走り回っていたのでしょう。

「ありがとう。もらうよ」

 お兄さまは、わたしが渡したお饅頭に、ぱくりと噛り付きます。
 わたしもお饅頭にぱくりと噛り付きます。
 ケーキとは違った甘さが、口の中に広がります。
 ケーキよりもしっかりとした食感で、お腹にたまりそうです。

「おいしいね、グレーテル」
「そうですね、お兄さま」

 お兄さまとわたしは、お饅頭を食べ終わると、再び夢の世界に旅立ちました。
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