白雪姫は処女雪を鮮血に染める

かみゅG

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017.町での生活(仕事探し)

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 次の日。
「それじゃ、ババア。行ってくるわ」
「だから、ババアって呼ぶな!」
 朝から憎まれ口を叩いたユズに続いて、私とモモも魔女さんのお店を出る。
「魔女さん、行ってきます」
「行ってきます、魔女さん」
 私とモモはババアなんて言わない。
「魔女と呼ぶなと……まあ、いいか」
 けど、服装の印象が強すぎて、魔女さんと呼ぶようになっていた。
 本当は魔女じゃないらしいけど、魔女と呼ばれるのは、それほど嫌がっていないみたいだ。
 でも、それじゃあ何をしている人なんだろう。
 ユズのお師匠様という話だから、薬師か薬屋なんだろうけど、お客が来るようなお店には見えない。
 気にはなるけど、今の私にはそれを気にしている余裕はない。
 私というよりは、私達かな。

「さあ、仕事を探すわよ」
 ユズが気合を入れるように宣言する。
 そうなのだ。
 私達は仕事を探さなければならない。
 頑張って働くつもりはある。
 けど、現在はそれ以前の状況なのだ。
 まず、働き口を見つけなければならない。
「でも、どこから探せばいいのかな?」
 モモが疑問を口にする。
 私も同じ思いだ。
 頑張ろうという気持ちはあるけど、何をしたらいいのか自体が分からない。
 しばらくは、町に来たことがあるユズに頼ることになりそうだ。
「私だけだったら、薬草を集めて薬に加工して売るっていう方法もあるけど、それじゃ足りないわ。それに、この町は森から距離があるから、効率が悪いしね」
 なるほど。

 森の孤児院にいたときは、みんなで手分けして、狩りや野草集めをして食糧を確保していた。
 ユズの薬売りは、それだけでは足りない金銭を得ていたのだろう。
 でも、食糧を手に入れる分を含めた生活費には足りない。
 何か他の仕事を探す必要があるのだ。
「私達みたいな孤児ができる仕事というと、力仕事か食堂の給仕くらいかしらね。私達は女の子だから、もう一つ選択肢はあるけど、それは最後の手段にしておきましょう。アレは色々とリスクもあるしね」
 もう一つ?
 なんだろう。
 まあ、選択肢から外すと言っているし、尋ねるのは後にしておこう。
「でも、力仕事は難しいよね。男の子の方が雇ってもらえやすいだろうし」
「そうね」
 モモの意見にユズが頷く。
「だから、食堂の給仕を探してみましょう。運がよければ、賄いを食べさせてもらえるところが、見つかるかも知れないしね」
 おそらく、最初から狙いは絞っていたのだろう。
 ユズがそう提案する。
 それが一番よいのだろう。
 私も反対するつもりはない。
 反対するつもりはないけど、もう一つ思い浮かんだ仕事があった。

「売り子とかはダメなの?お店も露店もいっぱいあるから、雇ってくれるところがないかな」
「ちっちっちっ」
 ユズが『分かってないなぁ』とでもいいたげに、目の前で人差し指を立てて左右に振る。
 なんだか、ちょっと、イラッとした。
「奴らは商人よ。自分でできることを人に頼んで余計な出費をするなんてこと、あるわけないじゃない。商人っていうのはね、お金を稼ぐためなら何でもする人種なの。それこそ、悪魔とだって契約をするわ」
「……食堂は違うの?」
 悔しかったので、そう聞いてみるけど、ユズの余裕の表情は変わらない。
「食堂の主は商人じゃなくて、料理人なの。料理人は料理を売ってお金を稼ぐけど、それは生活するためであって、お金を稼ぐことが目的じゃないわ。料理人は料理を作ること自体が目的なの」
「……まあ、なんとなく、わかったわ」
 それぞれの職業には、それぞれの目的がある。
 お金を稼ぐという点は同じでも、それはあくまで手段であって、目的は違うということだろう。
「じゃあ、片っ端から回ってみましょうか」
 ユズの言葉に私とモモは頷いた。

 それから、数時間が経過した。
 もうお昼は過ぎているだろう。
 けど、私達は昼食も取らずに歩き続けている。
「見つからないねぇ」
 モモが呟く。
 そういうことだ。
「……」
「……」
 私とユズは、モモの言葉に返事も返せずに、ぐったりしている。
 泣き言を言うつもりはないけど、歩き疲れた。
 でも、それ以上に、精神的に疲労している。
 すぐに仕事が見つかると思っていたわけじゃないけど、役に立つか試しに働かせてもらう、ということもなく、全て断られていた。
 よく考えたら、当たり前だ。
 小さな町なのだ。
 働く場所など限られている。
 そこで町の人達が働いている。
 外から来た人間の働き口が、そう簡単に見つかるわけがなかった。

 つまり、どれだけ足を棒にして歩き回っても、お金にならないばかりか、働き口が見つかる可能性は低いのだ。
 肉体的な疲労はともかく、無駄なことをしているという事実に、精神的な疲労を覚える。
「やっぱり、手分けして薬草を集めて薬に加工して売る? 住むところは確保できているから、それだけでも飢え死にすることはないと思うけど……」
 ここまで見つからないとは思っていなかったのか、ユズも少し弱気だ。
「でも、それじゃ魔女さんに部屋代を払えないよね。それに冬は大丈夫かな。冬は薬草も採れないよね」
 モモが指摘をする。
 その通りだ。
 部屋代は待ってもらうとしても、冬を越す蓄えができるとは思えない。
 つまり、ユズの言う方法では足りないのだ。
「……とりあえず、昼食を食べましょうか。どこかの食堂に入る? それとも屋台で食べる?」
 ユズが気分を変えるように、そう提案する。
 けど、それに対してモモが待ったをかける。
「お店で食べたらお金がかかるじゃない。私が作るよ」
 森の孤児院から出てくるときに、蓄えていた金銭と食料は持ってきている。
 三人で持てる量だから、それほど多くはないけど、数日分はある。

「あのね。町だと薪もタダじゃないの。火を使って料理をするためにかかるお金を考えたら、買って食べた方が安上がりよ」
「そうなんだ」
 料理ができないと聞いてモモが残念そうにするけど、こればかりはどうしようもない。
 働かせてもらえる食堂が見つかったら、モモに料理をさせてもらえないか、頼んでみるのもいいかも知れない。
 そんなことを考えていたら、ユズがこちらに笑いかけてきた。
「それに白雪姫もお店に興味があるみたいだしね」
 仕事探しが上手くいっていなくて忘れていたけど、そういえば昨日は色んなお店に興味を引かれていた。
 どうやら、ユズはそれを覚えてくれていたらしい。
 私もモモが残念そうにしている顔は見たくないし、その話に乗ることにする。
「そうね。明日からどうするかは後で考えるとして、せっかく町に来たんだから、お店で食べてみたいわ」
 私がそう言うと、ユズもモモも笑顔になった。
 我儘を言っているようで気が引けたけど、二人が笑顔になったから良しとする。
「じゃあ、白雪姫に選ばせてあげるよ」
「うん。何が食べたい?」
「そうね……」
 私は周囲を見回す。
 どれもこれも美味しそうで迷う。
 けど、私はその中で異彩を放つ店があることに気づいた。 
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