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急接近
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あまり外を出歩かないようにと言われてしまったら旅館で過ごすしかないけれど、温泉も二度入れば十分だし、旅館で時間を潰せるものなんて卓球とカラオケぐらしかない。
昼間からラウンジに行って飲むのも気が引ける。上層部のおじさまたちがいたら嫌だし。せめて來未や聡子がいてくれたら、部屋でおしゃべりでもできるのにそれもできない。
同部屋になった加藤さんは同じ部署に仲の良いお友達がいるので、その人たちのところへ行ってしまい、私はずっと一人。
宿泊する階が違うので碧川さんとどこかですれ違ったりしないかな、なんて想像もするだけ無駄。
仕方がないので、持ってきたタブレットで映画でも観ることに。これじゃあ、家での休日と変わらない。
以前から気になっていた恋愛モノを観賞……と思いきやがっつり不倫モノだった。きゅんきゅんできるものがよかったのに、終始もやもやした。昔なら即停止していたけれど、結局なんだかんだ言いながら最後まで観てしまった。
不倫はいけないことだし、バッドエンドの結末にもある意味では納得だけど、実際はこうはいかないんだろうなと思う。
ここ数年、不倫をする芸能人や有名人が叩かれて仕事にも影響が出ているケースが多いけど、報道されているのはきっと氷山の一角に過ぎなくて、本当はもっとたくさん不倫している人はいるんだろうと思う。現にうちの会社でも不倫している、されている噂がある人は結構いる。
一般人ならニュースやSNSで叩かれることもないし、子どものために離婚せず踏み止まる人も多いと聞く。サレ妻さんやサレ夫さんが望むような制裁は与えられないのが現実のようだ。
ただ――。
結婚後に運命の人と出会うっていうストーリーには、少し希望を持ってしまった。もし、こんなことをSNSで発信したら私も袋叩きだろうけど。
不倫したいわけではないし、碧川さんの家庭を壊したいわけでもないけれど、万が一、碧川さんの運命の相手が私だったら……と想像せずにはいられなかった。映画なんて美化されている部分が大半だし、現実は奥さんや子どもさんを傷つける最低の行為だ。
例え、頭の中だけでもこんな不埒な想像をする私にはいつかきっと天罰が下るんだろうな。人の旦那さんに恋をする、こと自体が罪深いのだから。
夕食は一応、宴会場を借りて全員揃って食べたけど、席をひとつ開けて座り、会話も最初の挨拶以外はほぼナシ。黙食とまでは言わないけれど、昔のようにカラオケしたりお酌して回ったりも禁止。お酌しなくていいのはありがたいし、変なセクハラも心配しなくて済むけれど、楽しく盛り上がれないのは少し寂しい。せっかくの美味しい料理もなんだか味気ない。
またまた碧川さんが遠いのは残念だけど、遠くからでも浴衣が似合っていることは分かる。少し開《はだ》けた胸元に目がいってしまう自分が恥ずかしい。
碧川さんはお酒が弱いわけではないのに、飲むとすぐに顔が赤くなる。かわいい。かなり年上なのに、母性本能を擽られる。
罪な人だな……結婚しているくせに。明日目が覚めたら、碧川さんが素敵に見えない目になっていればいいのにといつも思う。
「これから出かけるの?」
食事を終えて部屋に戻ると、加藤さんが浴衣を脱いで着替え始めた。
「だってまだ8時だよ? 寝るには早いし、もう温泉も飽きたし、せっかく来たんだからおいしいお酒でも飲みたいじゃん。よかったら宝生ちゃんも来る?」
「でも、出歩くのはダメだって……」
「真面目だねぇ。アタシは不真面目だから行くね。起こすの悪いから今日は奈世《なよ》たちの部屋で寝るから、宝生ちゃんは一人で優雅に寝てね。じゃあおやすみ~」
もともと仲が良いわけじゃないのでさほどショックでもないけど、同じ部屋だというのに今日初めてまともに会話した。慰安旅行こそ仲良くなるチャンスだろうに、鮮やかに機会を逃した。
自分では特別真面目な性格だとは思っていない。マスク警察でも自粛警察でもない。もう外出自粛だって解除されているし、遊びに行くのは罪じゃない。分かっているけれど、会社から言われていることは守らなきゃって思ってしまう。
頭が固いのかな、私って。つまんねえ女って感じだよね。一緒に出かけることができたら、新しい出会いでもあったかもしれないのに。
独身の素敵な男性に恋をするのが一番いいのは重々分かっているのだけど。
することもないし、もう一度温泉に入ることにした。夜の露天風呂は最高に気持ちが良い。でも、さすがに一日に二度も三度も入ったらありがたみも薄れてしまう。スーパー銭湯のように色んな種類のお風呂があるわけじゃないし。
部屋に戻るとビールを飲みながら、もう一本映画を観ることに。やめればいいのに、苦手なホラーをチョイスしてめちゃくちゃ後悔。最後まで観るのは無理だったので途中で消して布団に潜り込んだ、こういう時は寝るに限る。目を閉じて一生懸命寝る努力をしていたら、コンコンとドアをノックする音がした。
「わー!」
タイミングの悪さに思わず声が出た。
こんな時間に誰だろう……って加藤さんしかいないか。そう簡単に幽霊や呪いの人形が来たりはしない。何か忘れものでもしたのかな。
深く考えもせず引き戸を開けると、そこにはなぜか碧川さんが立っていた。
「わー!」違う意味で驚いて再び声が出てしまった。
「あれ? 林は? なんで宝生さんがいるの? あ! もしかして、林とそういう関係? おい、林。何やってんだよぉ」
部長たちに付き合わされたのか、ニヤニヤしている碧川さんはひどく酔っているらしく、アルコールのにおいを纏い覚束ない足取りで部屋の中に入ってきた。どうやら、私の部屋を自分の部屋だと勘違いしているらしい。碧川さんの部屋は真下の二〇六だったのかな。
「あ、あの! ここ、私に部屋です。男性社員の部屋はこの下の二階ですよ」
「……え? うそ。ここ三階? 一緒にエレベター乗った人がここで降りたから、一緒に降りちゃった。うわぁ、ごめんね」
真っ赤な顔で頭を下げる碧川さんを見ながら、バカみたいに本当のことを言うんじゃなかったと舌打ちしたい気持ちになった。相手は泥酔しているんだし、どうぞどうぞと言えばここで寝てくれたかもしれない。
「大丈夫ですよ。気にしないでください」
「ほんとにごめん。わざとじゃないから、セクハラで訴えたりしないでね」
「そんなことしないですよ」
訴えるどころか、本当のことを話すんじゃなかったと後悔しているぐらいなのに。
こういうとこ、融通が利かないというか機転が利かないというか、千載一遇のチャンスを棒に振ってしまうなんて。
心底がっかりしたけど、これでいいんだよね。碧川さんとどうにかなろうなんて考えてはいけない。融通が利かないくらいでちょうどいい。
「じゃあ、お邪魔しました。おやすみ」
「……おやすみ、なさい」
名残惜しくても、現実は映画のような展開にはならない。好きな人が目の前にいても何もできずに見送るだけ。
ふらふらと歩く彼を支える妄想だけはするけれど、体は動かない。堂々と彼に触れることができる理由があるというのに、私は頭も心も固い。
千鳥足でドアに向かった碧川さんは、玄関の段差に躓いて派手に転んだ。
「痛ぇ!」
「え、大丈夫ですか?」
転ぶ姿を見たら余計なことを考える余裕もなく、慌てて駆け寄って抱き起こしていた。
「あはは。大丈夫、大丈夫。こんな段差に躓くなんて、年取るとダメだね。情けないよ」
苦笑する彼との近すぎる距離に自分が一番驚いた。思わぬ接近戦に息が止まり、体中の機能が停止しているみたいだ。
どうしよう……もうすっぴんだし、ブラも外している。早く離れなきゃいけないのに、いつもは見上げている碧川さんの顔がすぐ目の前にあって、ここぞとばかりにじっと見つめてしまった。胸の奥からどくんどくんと聞いたことのないような大きな音がしている。ジェットコースターが落下する直前の心拍数に近いかもしれない。
「ありがと。優しいんだね、宝生さんって」
酔いを含んだ笑みが妙に色っぽく見えた。吸い寄せられるように、私は碧川さんに口づけしていた。どうせ結ばれないのなら一生の思い出がほしい――願ってもいなかった急接近に、図々しいことが頭を過ったのだ。
「……ごめんなさい」
謝って済むことじゃないけれど、唇を離すとすぐに頭を下げた。身勝手な自分に辟易としながらも、微かに触れた唇の甘い余韻に溶けてしまいそうだった。
「知ってると思うけど、おれには奥さんも子どもも……」
「分かってます! 碧川さんの家庭を壊す気はありません。ただ、一生の思い出がほしかっただけです」
家族のことは百も承知だし、聞きたくなくて遮った。
略奪しようなんて大それたことを思っているわけじゃない。私はさっき観た不倫モノの映画のヒロインのようにはなれないし、なりたくもない。
「それ……どういう意味?」
意表を突く言葉だったのか、碧川さんは眉を顰めた。
この五年間、彼への気持ちは仲の良い友達にも話したことはなかったし、本人にも気づかれないように細心の注意を払ってきた。一生隠し通すつもりだったけど、唇を奪った正当な理由が咄嗟には思いつかなかった。
「ごめんなさい。私……ずっと碧川さんのことが好きだったんです」
望みのない告白をした私に同情したのか、碧川さんの長い腕が伸びてきて抱きしめられた。五感が狂ったみたいに、すべての感覚が鈍くなった。自分の身に何が起きているのか把握しきれない。
「そんな風に想っててくれたなんて全然知らなかったよ」
驚きと喜びが綯い交ぜになって、堪え切れずに泣いてしまった。
「……泣いてるの?」
鼻を啜ったせいで泣いていることがバレてしまった。顔を覗き込まれ、少し寿命が縮んだ。
「……嬉しくて……つい」
流れる涙を指で拭うと、碧川さんの顔がゆっくりと近づいてきた。思わず息を止めた瞬間、彼の唇が触れた。
もうダメだと思った。
理性なんてものは世界の果てまで飛んでいってしまった。
理屈じゃない。私……碧川さんが好きだ。
ただ、もう夢中で口づけを交わした。
アルコールのにおいがする吐息の隙間から舌を入れそうになって我に返った。
「ごめんなさい……」
今夜はこのまま……そう思った途端に彼が既婚者であることを思い出したのだ。
「おれの方こそごめん……」
気まずさにうっとりした気持ちが急速に冷めた。
ふらつきながら帰って行く碧川さんの背中が徐々に霞んでいく。
引き留めたい気持ちと取り返しのつかないことをしてしまった自責の念とがせめぎ合う。
奥さんが今夜のことを知ったら激怒するだろう。
碧川さんがもっと不誠実な人で、妻子持ちである現実を忘れさせてくれたらいいのに。でも、不誠実じゃないからこそ惹かれるんだなと改めて思った。
その夜は脳内の興奮が冷めやらず、外が明るくなるまで眠れなかった。
あの時もし、私が唇を離さなければどうなっていたのだろうと思うと、体が芯から震えた。
前よりもっと碧川さんのことを好きになってしまった――。
罪悪感に襲われたのは、旅行が終わって出社した朝だった。
同じチームの米原さんは自分のデスクに家族写真を飾っている。それがちらりと目に入った瞬間、どうしようもない気持ちになってトイレに逃げ込んだ。
私がしたことは、あの幸せそうな家族を粉々に砕くことだ。浮気や不倫の線引きは人それぞれだけど、それでもどんなに寛容なパートナーでもキスはアウトだろう。私が奥さんの立場なら絶対にアウトだ。自分の旦那さんが職場の部下にキスをされたと知ったら激昂するはずだ。会社に密告の電話とかかけて、部下の女を辞めさせるように仕向けるかも。
決して許されないことを私はしたのだ。
当然のことだけどミーティングなどのどうしようもない場合は除き、あれから碧川さんのことは極力避けるようにしている。顔を見たら思わずにやにやとしてしまう自分が気持ち悪い。誰かを不幸にして笑うなんてサイテーだ。もしかしたら、碧川さんだって私のことを心の中では軽蔑しているかもしれない。もし、そうだとしても面と向かって言われるのはダメージが大きいから、しばらくは距離を置こうと決めた。
避けている時に限って接点が生じたりするのは、神の意地悪あるあると言える。
私たちのように美容室やエステサロンを相手にしていると、訪問する時間は担当しているサロンの営業時間に左右されることが多い。
混む時間を避けるとお昼前後や閉店間際という場合も結構ある。オーナーさんが一人で回しているお店などは特に、来客中は避けた方が無難だ。新人の頃、確認不足で混んでいる時間に訪問してしまい後日お叱りを受けたこともあったっけ。
午後七時、私が初めて飛び込み営業で契約したエステサロンを訪問し、美人で品の良いオーナーさんに在庫の確認と新商品の紹介が済んだ後、帰ってご飯作るのはしんどいなと思いながら歩いていると偶然目の前の美容室から碧川さんが出てきた。
「あ……」気づかないフリもできず、固まってしまった。
「お疲れ様。宝生さんも今帰り?」
「お疲れ様です。はい、そうです」
二人きりになるのはとてつもなく気まずい。
もともと口下手だけど慰安旅行でのことがあってから、余計に何をしゃべったらいいのか分からなくなった。
「腹減ったなぁ」と呟く碧川さんに「そうですね」と返しながらも、内心ではどうせ家に帰れば奥さんの手料理が待ってるんでしょって皮肉を言ったりしていた。
毎日家に碧川さんが帰って来るのってどんな気分なんだろう。一緒に生活していれば嫌な面も見えるのだろうけど、今はそれさえ羨ましい。
「せっかくだし、なんか食って帰る?」
「え!?」驚き過ぎて変な声を上げてしまった。
「もしかして、こういうのもセクハラとかパワハラになる?」
「いえ、全然。でも、いいんですか? お、奥さんがもうご飯用意してるんじゃ……」
本当は想像もしたくないけど、思い切って訊いてみた。
「実はね、さっき今日は習い事の帰りに息子がどうしてもお寿司が食べたいって言うから食べて帰るって連絡があったんだ。だから、外で食べて帰るって言ったら助かるんじゃないかな」
「そうなんですね」
奥さんや子どもさんの話しをする時は心なしか柔らかい表情をしているように見えて、胃袋がきゅっと縮んだ気がした。
比較的新しい感じの洋食屋さんに行き、エビカツ定食を食べた。味は並みだけど、実際の三倍は美味しく感じた。碧川さんと二人きりでご飯が食べられるなんて最高じゃないか。
「今の時代ってこうして部下の子と一緒にご飯食べるのも難しいよね。プライベートなことは訊いちゃいけないんでしょ? どんな話題がアウトなのか、おれみたいな世代には分かんなくて」
「ああ、確かにそうですね。今は面接の時にも家族構成とか趣味とか訊いちゃいけないことが多いみたいですもんね。話題に困っちゃいますよね。まあ、私は別に何訊かれても平気ですけど」
何気ない会話だけど、さらっと「部下の子」と言われてしまうあたり、そういう目でしか見られていないんだなって勝手に凹んでしまう。
「ほんとに? 今ね、そろそろ帰らなきゃって思ったんだけど、宝生さんは帰り電車? とかどの辺に住んでるの? とか訊いたらやっぱマズいんだろうなって思ってさ。別に変な意味ないのに、意識すると変な意味みたいだよね」
「ふふっ。碧川さんって案外気にしいなんですね。私、そんなことでいちいちセクハラされたーって騒いだりしませんよ」
私の言葉に安心したのか、碧川さんは「じゃあ、家の近くまで送って行くよ」と言ってくれた。断るべきなのかもしれないけれど、考えるより先にお礼を言っている自分がいた。
昼間からラウンジに行って飲むのも気が引ける。上層部のおじさまたちがいたら嫌だし。せめて來未や聡子がいてくれたら、部屋でおしゃべりでもできるのにそれもできない。
同部屋になった加藤さんは同じ部署に仲の良いお友達がいるので、その人たちのところへ行ってしまい、私はずっと一人。
宿泊する階が違うので碧川さんとどこかですれ違ったりしないかな、なんて想像もするだけ無駄。
仕方がないので、持ってきたタブレットで映画でも観ることに。これじゃあ、家での休日と変わらない。
以前から気になっていた恋愛モノを観賞……と思いきやがっつり不倫モノだった。きゅんきゅんできるものがよかったのに、終始もやもやした。昔なら即停止していたけれど、結局なんだかんだ言いながら最後まで観てしまった。
不倫はいけないことだし、バッドエンドの結末にもある意味では納得だけど、実際はこうはいかないんだろうなと思う。
ここ数年、不倫をする芸能人や有名人が叩かれて仕事にも影響が出ているケースが多いけど、報道されているのはきっと氷山の一角に過ぎなくて、本当はもっとたくさん不倫している人はいるんだろうと思う。現にうちの会社でも不倫している、されている噂がある人は結構いる。
一般人ならニュースやSNSで叩かれることもないし、子どものために離婚せず踏み止まる人も多いと聞く。サレ妻さんやサレ夫さんが望むような制裁は与えられないのが現実のようだ。
ただ――。
結婚後に運命の人と出会うっていうストーリーには、少し希望を持ってしまった。もし、こんなことをSNSで発信したら私も袋叩きだろうけど。
不倫したいわけではないし、碧川さんの家庭を壊したいわけでもないけれど、万が一、碧川さんの運命の相手が私だったら……と想像せずにはいられなかった。映画なんて美化されている部分が大半だし、現実は奥さんや子どもさんを傷つける最低の行為だ。
例え、頭の中だけでもこんな不埒な想像をする私にはいつかきっと天罰が下るんだろうな。人の旦那さんに恋をする、こと自体が罪深いのだから。
夕食は一応、宴会場を借りて全員揃って食べたけど、席をひとつ開けて座り、会話も最初の挨拶以外はほぼナシ。黙食とまでは言わないけれど、昔のようにカラオケしたりお酌して回ったりも禁止。お酌しなくていいのはありがたいし、変なセクハラも心配しなくて済むけれど、楽しく盛り上がれないのは少し寂しい。せっかくの美味しい料理もなんだか味気ない。
またまた碧川さんが遠いのは残念だけど、遠くからでも浴衣が似合っていることは分かる。少し開《はだ》けた胸元に目がいってしまう自分が恥ずかしい。
碧川さんはお酒が弱いわけではないのに、飲むとすぐに顔が赤くなる。かわいい。かなり年上なのに、母性本能を擽られる。
罪な人だな……結婚しているくせに。明日目が覚めたら、碧川さんが素敵に見えない目になっていればいいのにといつも思う。
「これから出かけるの?」
食事を終えて部屋に戻ると、加藤さんが浴衣を脱いで着替え始めた。
「だってまだ8時だよ? 寝るには早いし、もう温泉も飽きたし、せっかく来たんだからおいしいお酒でも飲みたいじゃん。よかったら宝生ちゃんも来る?」
「でも、出歩くのはダメだって……」
「真面目だねぇ。アタシは不真面目だから行くね。起こすの悪いから今日は奈世《なよ》たちの部屋で寝るから、宝生ちゃんは一人で優雅に寝てね。じゃあおやすみ~」
もともと仲が良いわけじゃないのでさほどショックでもないけど、同じ部屋だというのに今日初めてまともに会話した。慰安旅行こそ仲良くなるチャンスだろうに、鮮やかに機会を逃した。
自分では特別真面目な性格だとは思っていない。マスク警察でも自粛警察でもない。もう外出自粛だって解除されているし、遊びに行くのは罪じゃない。分かっているけれど、会社から言われていることは守らなきゃって思ってしまう。
頭が固いのかな、私って。つまんねえ女って感じだよね。一緒に出かけることができたら、新しい出会いでもあったかもしれないのに。
独身の素敵な男性に恋をするのが一番いいのは重々分かっているのだけど。
することもないし、もう一度温泉に入ることにした。夜の露天風呂は最高に気持ちが良い。でも、さすがに一日に二度も三度も入ったらありがたみも薄れてしまう。スーパー銭湯のように色んな種類のお風呂があるわけじゃないし。
部屋に戻るとビールを飲みながら、もう一本映画を観ることに。やめればいいのに、苦手なホラーをチョイスしてめちゃくちゃ後悔。最後まで観るのは無理だったので途中で消して布団に潜り込んだ、こういう時は寝るに限る。目を閉じて一生懸命寝る努力をしていたら、コンコンとドアをノックする音がした。
「わー!」
タイミングの悪さに思わず声が出た。
こんな時間に誰だろう……って加藤さんしかいないか。そう簡単に幽霊や呪いの人形が来たりはしない。何か忘れものでもしたのかな。
深く考えもせず引き戸を開けると、そこにはなぜか碧川さんが立っていた。
「わー!」違う意味で驚いて再び声が出てしまった。
「あれ? 林は? なんで宝生さんがいるの? あ! もしかして、林とそういう関係? おい、林。何やってんだよぉ」
部長たちに付き合わされたのか、ニヤニヤしている碧川さんはひどく酔っているらしく、アルコールのにおいを纏い覚束ない足取りで部屋の中に入ってきた。どうやら、私の部屋を自分の部屋だと勘違いしているらしい。碧川さんの部屋は真下の二〇六だったのかな。
「あ、あの! ここ、私に部屋です。男性社員の部屋はこの下の二階ですよ」
「……え? うそ。ここ三階? 一緒にエレベター乗った人がここで降りたから、一緒に降りちゃった。うわぁ、ごめんね」
真っ赤な顔で頭を下げる碧川さんを見ながら、バカみたいに本当のことを言うんじゃなかったと舌打ちしたい気持ちになった。相手は泥酔しているんだし、どうぞどうぞと言えばここで寝てくれたかもしれない。
「大丈夫ですよ。気にしないでください」
「ほんとにごめん。わざとじゃないから、セクハラで訴えたりしないでね」
「そんなことしないですよ」
訴えるどころか、本当のことを話すんじゃなかったと後悔しているぐらいなのに。
こういうとこ、融通が利かないというか機転が利かないというか、千載一遇のチャンスを棒に振ってしまうなんて。
心底がっかりしたけど、これでいいんだよね。碧川さんとどうにかなろうなんて考えてはいけない。融通が利かないくらいでちょうどいい。
「じゃあ、お邪魔しました。おやすみ」
「……おやすみ、なさい」
名残惜しくても、現実は映画のような展開にはならない。好きな人が目の前にいても何もできずに見送るだけ。
ふらふらと歩く彼を支える妄想だけはするけれど、体は動かない。堂々と彼に触れることができる理由があるというのに、私は頭も心も固い。
千鳥足でドアに向かった碧川さんは、玄関の段差に躓いて派手に転んだ。
「痛ぇ!」
「え、大丈夫ですか?」
転ぶ姿を見たら余計なことを考える余裕もなく、慌てて駆け寄って抱き起こしていた。
「あはは。大丈夫、大丈夫。こんな段差に躓くなんて、年取るとダメだね。情けないよ」
苦笑する彼との近すぎる距離に自分が一番驚いた。思わぬ接近戦に息が止まり、体中の機能が停止しているみたいだ。
どうしよう……もうすっぴんだし、ブラも外している。早く離れなきゃいけないのに、いつもは見上げている碧川さんの顔がすぐ目の前にあって、ここぞとばかりにじっと見つめてしまった。胸の奥からどくんどくんと聞いたことのないような大きな音がしている。ジェットコースターが落下する直前の心拍数に近いかもしれない。
「ありがと。優しいんだね、宝生さんって」
酔いを含んだ笑みが妙に色っぽく見えた。吸い寄せられるように、私は碧川さんに口づけしていた。どうせ結ばれないのなら一生の思い出がほしい――願ってもいなかった急接近に、図々しいことが頭を過ったのだ。
「……ごめんなさい」
謝って済むことじゃないけれど、唇を離すとすぐに頭を下げた。身勝手な自分に辟易としながらも、微かに触れた唇の甘い余韻に溶けてしまいそうだった。
「知ってると思うけど、おれには奥さんも子どもも……」
「分かってます! 碧川さんの家庭を壊す気はありません。ただ、一生の思い出がほしかっただけです」
家族のことは百も承知だし、聞きたくなくて遮った。
略奪しようなんて大それたことを思っているわけじゃない。私はさっき観た不倫モノの映画のヒロインのようにはなれないし、なりたくもない。
「それ……どういう意味?」
意表を突く言葉だったのか、碧川さんは眉を顰めた。
この五年間、彼への気持ちは仲の良い友達にも話したことはなかったし、本人にも気づかれないように細心の注意を払ってきた。一生隠し通すつもりだったけど、唇を奪った正当な理由が咄嗟には思いつかなかった。
「ごめんなさい。私……ずっと碧川さんのことが好きだったんです」
望みのない告白をした私に同情したのか、碧川さんの長い腕が伸びてきて抱きしめられた。五感が狂ったみたいに、すべての感覚が鈍くなった。自分の身に何が起きているのか把握しきれない。
「そんな風に想っててくれたなんて全然知らなかったよ」
驚きと喜びが綯い交ぜになって、堪え切れずに泣いてしまった。
「……泣いてるの?」
鼻を啜ったせいで泣いていることがバレてしまった。顔を覗き込まれ、少し寿命が縮んだ。
「……嬉しくて……つい」
流れる涙を指で拭うと、碧川さんの顔がゆっくりと近づいてきた。思わず息を止めた瞬間、彼の唇が触れた。
もうダメだと思った。
理性なんてものは世界の果てまで飛んでいってしまった。
理屈じゃない。私……碧川さんが好きだ。
ただ、もう夢中で口づけを交わした。
アルコールのにおいがする吐息の隙間から舌を入れそうになって我に返った。
「ごめんなさい……」
今夜はこのまま……そう思った途端に彼が既婚者であることを思い出したのだ。
「おれの方こそごめん……」
気まずさにうっとりした気持ちが急速に冷めた。
ふらつきながら帰って行く碧川さんの背中が徐々に霞んでいく。
引き留めたい気持ちと取り返しのつかないことをしてしまった自責の念とがせめぎ合う。
奥さんが今夜のことを知ったら激怒するだろう。
碧川さんがもっと不誠実な人で、妻子持ちである現実を忘れさせてくれたらいいのに。でも、不誠実じゃないからこそ惹かれるんだなと改めて思った。
その夜は脳内の興奮が冷めやらず、外が明るくなるまで眠れなかった。
あの時もし、私が唇を離さなければどうなっていたのだろうと思うと、体が芯から震えた。
前よりもっと碧川さんのことを好きになってしまった――。
罪悪感に襲われたのは、旅行が終わって出社した朝だった。
同じチームの米原さんは自分のデスクに家族写真を飾っている。それがちらりと目に入った瞬間、どうしようもない気持ちになってトイレに逃げ込んだ。
私がしたことは、あの幸せそうな家族を粉々に砕くことだ。浮気や不倫の線引きは人それぞれだけど、それでもどんなに寛容なパートナーでもキスはアウトだろう。私が奥さんの立場なら絶対にアウトだ。自分の旦那さんが職場の部下にキスをされたと知ったら激昂するはずだ。会社に密告の電話とかかけて、部下の女を辞めさせるように仕向けるかも。
決して許されないことを私はしたのだ。
当然のことだけどミーティングなどのどうしようもない場合は除き、あれから碧川さんのことは極力避けるようにしている。顔を見たら思わずにやにやとしてしまう自分が気持ち悪い。誰かを不幸にして笑うなんてサイテーだ。もしかしたら、碧川さんだって私のことを心の中では軽蔑しているかもしれない。もし、そうだとしても面と向かって言われるのはダメージが大きいから、しばらくは距離を置こうと決めた。
避けている時に限って接点が生じたりするのは、神の意地悪あるあると言える。
私たちのように美容室やエステサロンを相手にしていると、訪問する時間は担当しているサロンの営業時間に左右されることが多い。
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午後七時、私が初めて飛び込み営業で契約したエステサロンを訪問し、美人で品の良いオーナーさんに在庫の確認と新商品の紹介が済んだ後、帰ってご飯作るのはしんどいなと思いながら歩いていると偶然目の前の美容室から碧川さんが出てきた。
「あ……」気づかないフリもできず、固まってしまった。
「お疲れ様。宝生さんも今帰り?」
「お疲れ様です。はい、そうです」
二人きりになるのはとてつもなく気まずい。
もともと口下手だけど慰安旅行でのことがあってから、余計に何をしゃべったらいいのか分からなくなった。
「腹減ったなぁ」と呟く碧川さんに「そうですね」と返しながらも、内心ではどうせ家に帰れば奥さんの手料理が待ってるんでしょって皮肉を言ったりしていた。
毎日家に碧川さんが帰って来るのってどんな気分なんだろう。一緒に生活していれば嫌な面も見えるのだろうけど、今はそれさえ羨ましい。
「せっかくだし、なんか食って帰る?」
「え!?」驚き過ぎて変な声を上げてしまった。
「もしかして、こういうのもセクハラとかパワハラになる?」
「いえ、全然。でも、いいんですか? お、奥さんがもうご飯用意してるんじゃ……」
本当は想像もしたくないけど、思い切って訊いてみた。
「実はね、さっき今日は習い事の帰りに息子がどうしてもお寿司が食べたいって言うから食べて帰るって連絡があったんだ。だから、外で食べて帰るって言ったら助かるんじゃないかな」
「そうなんですね」
奥さんや子どもさんの話しをする時は心なしか柔らかい表情をしているように見えて、胃袋がきゅっと縮んだ気がした。
比較的新しい感じの洋食屋さんに行き、エビカツ定食を食べた。味は並みだけど、実際の三倍は美味しく感じた。碧川さんと二人きりでご飯が食べられるなんて最高じゃないか。
「今の時代ってこうして部下の子と一緒にご飯食べるのも難しいよね。プライベートなことは訊いちゃいけないんでしょ? どんな話題がアウトなのか、おれみたいな世代には分かんなくて」
「ああ、確かにそうですね。今は面接の時にも家族構成とか趣味とか訊いちゃいけないことが多いみたいですもんね。話題に困っちゃいますよね。まあ、私は別に何訊かれても平気ですけど」
何気ない会話だけど、さらっと「部下の子」と言われてしまうあたり、そういう目でしか見られていないんだなって勝手に凹んでしまう。
「ほんとに? 今ね、そろそろ帰らなきゃって思ったんだけど、宝生さんは帰り電車? とかどの辺に住んでるの? とか訊いたらやっぱマズいんだろうなって思ってさ。別に変な意味ないのに、意識すると変な意味みたいだよね」
「ふふっ。碧川さんって案外気にしいなんですね。私、そんなことでいちいちセクハラされたーって騒いだりしませんよ」
私の言葉に安心したのか、碧川さんは「じゃあ、家の近くまで送って行くよ」と言ってくれた。断るべきなのかもしれないけれど、考えるより先にお礼を言っている自分がいた。
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『謝らないで、覚悟はできています』
敗戦後、王位を継いだばかりの夫には私を守るだけの力はなかった。
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三年後に帰国した私を待っていたのは国王である夫の変わらない眼差し。……とその隣で微笑む側妃だった。
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◆◇◆◇◆◇◆
読んでくださり感謝いたします。
すべてフィクションです。不快に思われた方は読むのを止めて下さい。
ゆっくり更新していきます。
誤字脱字も見つけ次第直していきます。
よろしくお願いします。
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