たまゆら ――婚外カノジョの掟

あまの あき

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真実

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 目を開けると、知らない天井が見えた。
 どのくらい眠っていたのだろう。頭も体もやけに重い。
「一……宝生さん大丈夫?」
 一番初めに見えたのは碧川さんの心配そうな顔だった。
 もう会社の外で会うこともなかったから、急なことに心臓が縮んだ気がした。
「もう心配ないよ。ここは病院だから。大変な目にあったね。まさか、あいつがあんなことするなんて。信じられないよ。今は警察署にいるから安心したらいいよ」
 ぼんやりとした頭で記憶を辿る。警察ってどういうことだろう。もしかして、奥さんが? 碧川さんも奥さんがしたことを知ってしまったということか。私が眠っている間に奥さんは警察に連れて行かれたのだろう。
 今、碧川さんがどんな気持ちなのかと思うと、胸が痛い。
 そこまで大事《おおごと》にする気はなかったのに。
「あら、一葉さん。目が覚めたのね。よかったわ」
 穏やかな空気を破るように、奥さんが碧川さんの背後から顔を出して微笑みかけてきた。
 碧川夫人の存在に、一瞬にして体が強張った。
 どうしてここに奥さんが? 警察に捕まったんじゃ?
 思わず声を上げそうになった瞬間、声が出ないことに気がついた。
 え……? なんで? 私、どうしてしゃべれないの?
 あ、あ、と口を開けて必死に声を出そうとするけれど、息が出るだけで声が出ない。
「一葉さんたら、もしかして声が出ないの?」
 心配そうな顔で近づいてきた奥さんに、体が震え出す。拒否反応を起こしているみたいに、怖くて堪らない。
「あいつに襲われたのがよっぽどショックだったんだね。許せないなぁ。口ではおれに散々偉そうなこと言ってたくせに、自分はあんなことするなんてさ」
 碧川さんは一体誰のことを言っているの? もしかして……警察に連れて行かれたのは小山内くん?
 違うと言いたくて、力いっぱい首を振った。そんな私を見て、碧川さんは頭を下げた。
「ごめん。あいつの話をするなんて無神経だったね。今、先生呼んで来るから」
 待って。行かないで、碧川さん! 奥さんと二人きりにしないで!
 病室を出て行く碧川さんの背中に声をかけたかったけれど、できなかった。
 苛立ちと悔しさともどかしさに涙が溢れてくる。
「大丈夫よ。もう心配いらないわ。一葉さんが気を失った後ね。彼は私を縛り上げて、一葉さんに乱暴しようとしたのよ。正義の味方ぶってたけど、あの子も所詮は男なのよね。裸同然のあなたを見てムラムラしちゃったみたい。そこへちょうど警察が来て、彼のことを現行犯で連れて行ったってわけ」
 ガタガタと震える私の頭を優しく撫でながら、奥さんは事の顛末を教えてくれた。
 嘘だ……まさかそんな。小山内くんは私を助けに来てくれたはず。
 思い出そうとしても、頭の中に靄がかかって肝心な部分が曖昧だ。
 だけど、記憶がなくても分かる。小山内くんは二人きりでラブホテルに泊まっても何もしなかったのに、奥さんが見ている前で乱暴なんかするわけがない。
 怖そうな見た目と愛想の悪さで誤解されがちだけど、小山内くんは決して悪い人じゃない。
「運良く近所の人が通報してくれてたみたいなの。柄の悪い関西弁の大男が四階で暴れてるって。お陰で助かったわね、私も一葉さんも」
 白々しく笑う奥さんに寒気がした。
 彼女の笑顔を見るだけでも怖くてどうにかなってしまいそう。
 吐き気まで催してきた。
 あの時の記憶が鮮明ではなくても、彼女が危険人物だということは本能が告げている。
 痛む頭で必死に思い出す。小山内くんは確かに玄関のドアを激しく叩いたり蹴ったりしていたと思う。外から大きな声で奥さんを罵ったりもしていたはず。部屋の中では奥さんのことを縛っていたし、私もほぼ裸だった。
 そこから先の記憶が不明瞭で、今はまだ上手く説明できそうにはないけれど、どうにかして彼の無実を証明しなければ。
 声が出ないのなら、警察署に行って筆談でもするしかない。
 勢いよくベッドから起き上がると、足元がふらついてへたり込んでしまった。
「まだダメよ、じっとしてなきゃ」
 慌てて駆け寄って来て体を支えようとした奥さんに、体が痙攣し始めた。
 叫び声は出ないけれど、呼吸が荒くなっているのは分かった。
 四つん這いで逃げようとしていた時、ちょうど碧川さんが先生を連れて戻って来た。
「ちょっと、宝生さん何してるの? 大丈夫?」
 碧川さんに手を借りて立ち上がり、振り返る。
 少し後ろで奥さんは意味ありげに妖艶な笑みを浮かべていた。
 一度目をつけられたら最後、この人からはもう逃げられないのかもしれないと思った。 
 生まれて初めて生きている人間に戦慄した。

 医師からは『心因性失声症』と診断された。
 仕組みは解明されていないそうだけど、ストレスや心的外傷が原因でなるそうだ。二十歳から四十歳の女性に多い病気で、声が出ない以外に吐き気や倦怠感を伴うこともあるという。一部の記憶を失くすこともあると聞いて、納得がいった。それでところどころ思い出せないのだと。
 すごく怖い思いをした気はするけれど、まさか声を失うほどだったなんて。
 このまま一生声が出なかったらどうしようかと不安だったけれど、声帯に異常はないので症状は一時的なものだろうとのことだった。ほとんどの場合は一週間ほどで元に戻るらしい。
 とはいえ、病気の症状には個人差があって、絶対に一週間で治ると決まっているわけではない。人によっては長引くこともあると説明を受けた。焦ったり、過度に心配したりすると余計にストレスがかかるので、回復を急ぎ過ぎないようにと念を押された。
 先生が仰る意味は分かるけれど、一週間もしゃべれずにいたら小山内くんはどうなってしまうのだろう。
 一刻も早く、彼は悪くないと伝えなければいけないのに。
 あぁ、どうしよう。私のせいで小山内くんの人生を狂わせてしまうかもしれない。
 この状況でストレスを感じないなんて、無理だよ……。
 営業がしゃべれないのでは仕事にならないし、精神的なショックもあるだろうから声が出るまで仕事は休んだらいいと碧川さんが言ってくれた。会社に電話もできないし、直属の上司がそばにいて助かった。
 もれなく奥さんも一緒なのが恐ろしいけれど。奥さんに不利になることをしゃべらないか、見張られているみたいだ。
 声が出ない以外に特に症状はないので、退院して自宅へ帰れることになった。
 家に帰ってスマホを充電すると真っ先に小山内くんにLINEを送ってみた。こんな時に電話ができないなんて。
 まだ警察署にいるのか、既読はつかない。
 仕方がないので碧川さんにLINEをして、どこの警察署にいるのか教えてもらった。
 小山内くんが悪いんじゃないことだけは伝えたかったけれど、隣に奥さんがいるのなら何を吹き込まれるか分からないので、とりあえずまだ伝えないことにした。無実を証明する証拠もないし。
 着信履歴が十件以上あって、そのほとんどはパオちゃんだった。小山内くんが行方不明で相当心配しているのだろう。
 すぐにでも折り返したいけど、電話はできない。日本語の文章をパオちゃんがどこまで理解できるのかは分からないけれど、声が出ないので電話できないことと、小山内くんは警察にいることを書いて送った。漢字なら伝わるかも。
『声出ない? 大丈夫か?』
『うん。ありがとう。大丈夫だよ』
『大和警察? Fighting? Murderer?』
 すぐに返事がきた。やっぱり心配してたんだよね。申し訳ないな。
 っていうか、Fightingはケンカ? Murdererは確か殺人? さすがにそれは飛躍し過ぎだ。
『違うよ! 小山内くんは悪くない。間違いで警察に行ったんだよ』
哎呀アイヤー。 大和顔悪いだから』
 一瞬、え? って思ったけど、人相が悪いって意味だよね、きっと。
 確かに、人相が良いとは言えないけれど、だからって警察に連れて行かれるのはおかしい。
 早く警察に行って、彼は悪くないと伝えなければ。
 しゃべれないので、言いたいことを紙に書いて家を出た。
 弁護士さんのサイトで色々知らべてみたけど、誤認逮捕されたとしても無実で釈放されるとは限らないらしい。有名な冤罪事件もある。
 私は被害届なんて出すつもりはないけど、奥さんはどうなんだろう。
 彼が警察に身柄を拘束されたということは、奥さんが真実を話さなかったということだ。
 知らない男が無理やり家に押し入ってきました、体を縛られました、目の前で女性が乱暴されそうになりました、なんて言われてしまったら、小山内くんにはかなり不利だ。
 ちゃんとした理由はあるけれど、強引に家に入ったことと奥さんを縛ったことは事実だ。
 私は下着姿だったし、事情を知らない人には乱暴するように見えたのかもしれない。
 乱暴に関しては私が否定すれば済むだろうけど、それ以外のことはどうなんだろう。
 まさか、自白を強要されて、なんてことにはならないよね? 有罪になったりしたら取り返しがつかない。
 昨日の今日だけどもう親御さんにも連絡はいっているだろうし、巻き込み事故みたいなことになって本当に申し訳ない。
 床に頭をつけて謝罪したい気持ちはあるのに、こんな大事な時に声が出ないなんて情けない。
 警察署に着いて受付で小山内くんのことを訊こうと思ったところで、ここでも紙と鉛筆がいるのかと気がついた。普段、当たり前に声を出していることがどれほどありがたいことなのかと思い知らされる。
「小山内大和さんですね。身内の方ですか?」
『違います もしかしたら私が被害者ということになってるかもしれません』
 パソコンやスマホを使うことがほとんとで文字を書くこと自体あまりしないので、慣れないことに戸惑ってしまう。咄嗟に『小山内』の漢字を忘れたり。
「被害者の方? 少々お待ちください」
 いや、被害者ではないのですよと思いながらも、呼び止めることはできず。
 刑事さんに伝えたいことは手紙に書いてきたので、とりあえず見せるしかない。 
「被害者の宝生さんですね」
 女性の刑事さんが来てくれたので、用意してきた手紙をお渡しした。
「もう一人の被害者の方と言ってることが若干違いますね。でも、被疑者の言ってることとは一致してますね」
 刑事さんはうーんという複雑な顔をしていた。
 というか、小山内くんが被疑者と呼ばれてしまっていることに、ショックを隠せなかった。
 現行犯って奥さんが言っていたから、仕方ないのかもしれないけれど。
「碧川さんの方は被害届を出されると仰ってたんですけど、宝生さんは被害届は出されないということですかね?」
 待っていたとばかりに私は大きく頷いた。
「そうですか。気絶されてたみたいなんで覚えてないかもしれないんですけど、被疑者が宝生さんに馬乗りになってるところを駆けつけた巡査が見てるんですよね。そこは、碧川さんの証言と一致してるんでね。準強制わいせつ(※)か準強制性交等罪(※)の未遂かなというところです」
(※準強制わいせつ罪……人の心神喪失または抗拒不能に乗じ、または心身を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、わいせつな行為をした場合に成立する犯罪。)
(※準強制性交等罪……人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、性器を被害者の性器、肛門又は口腔へ挿入する行為をすることで成立する犯罪。)
 恐ろしい罪名に思い切り首を振った。そして、持参した紙に『違います!』と大きく書いた。
『彼は私の無事を確認したか、服を着せようとしていたんだと思います』と。
 自分でもいつからこんなに小山内くんのことを信用しているのか不思議だったけど、正直それしか考えられなかった。
 病院から渡された荷物の中に小山内くんのものと思しき大きめのカーディガンが入っていたのが、その証拠だと私は思っている。
 彼に邪な気持ちがあったのなら、私はとっくに襲われていただろう。機会はいくらでもあったのだから。
 私は今思つく限りの言葉を書き連ねて小山内くんの無実を訴えたけれど、奥さんに被害届を出されてしまったらどうしようもない。
 ドアを壊してはいないから器物損壊罪には当たらないけど、強引に家に入ったのは強要罪か住居侵入罪に問われる可能性があり、奥さんを縛ったことは暴行罪に問われる可能性があると、その刑事さんから説明を受けた。
 強制性交等罪がまだ強姦罪と呼ばれていた頃は、親告罪だったので私が被害届を出さなければ罪には問われなかったみたいだけど、今は非親告罪なので現場に踏み込んだ巡査と奥さんの証言があれば彼はとんでもない凶悪犯にされてしまう。
 部屋を知らないはずの彼がどうして助けに来てくれたのかは分からないけれど、せっかくの善意が水の泡になってしまった。この事件の一番の被害者は間違いなく彼だ。本当にどうお詫びしたらいいのか……。
 もう二度と会いたくはないけれど、奥さんに会って警察で真実を話すよう説得するしかないのかな。説得といっても声が出ないので上手くいく気はしないけど、このままじっと指をくわえて見ていることなんてできない。小山内くんのために私にできることはしなければ。
『今回の件について、二人でお話しできませんか? まだ声は出ないので私は筆談になってしまいますが』
 恐る恐る碧川さんにLINEでメッセージを送ってみた。奥さんに直談判する前に碧川さんに真相を聞いてもらうことにした。
 碧川さんがどこまで知っているのかは不明だけど、躊躇している暇はない。
 会社に小山内くんのことを報告されたら困るし、本来なら警察に取り調べをされなければいけないのは奥さんなのだ。
 記憶は曖昧だけど、奥さんが私を薬で眠らせて襲おうとしていたことは確かだと思う。
 病院では恐らく検査していないだろうから、私が薬を盛られた証拠はもうないだろう。奥さんに卑猥なことをされた証拠もない。
 男性に乱暴されたり、それこそ玩具を使われたりしたら体に傷が残っているかもしれないけれど、病院の検査でも異常はなかったようだ。撫でられただけでは大した罪には問われないんじゃないかと思う。
 世間的には私は碧川環さんの夫を寝取った憎き愛人だし、難しいことは分からないけれど情状酌量されたりするのではないだろうか。
 まだ小学生の息子さんだっているし、碧川さんの立場もある。何が何でも奥さんを有罪にして刑務所に入れてやろうなんて思わないけれど、せめて小山内くんの無実は証明してもらわなければ困る。
『おれは構わないけど、安静にしてなくて大丈夫?』
 LINEの返事に身の引き締まる思いがした。
 この状況で暢気に寝てなんかいられない。
 もう二人きりで会うことはないと思っていたのに、また会うことになってしまった。
 本当はあのマンションに行って、奥さんが私たちのことを盗撮していた証拠を見せたいけれど、もしかしたらもう奥さんが処分してしまったかもしれない。
 彼女はいつだって用意周到なのだ。
 今にして思えば、奥さんの視線や態度には初めから違和感があった。
『想像の何倍も可愛くて、私までドキドキしてる』
 ホテルで初めて会った日の言葉は、夫の愛人に会う緊張からきているもので、可愛いと言ったのはあくまでもお世辞だと思っていた。私を上から下まで舐めるように見ていたのも、夫の愛人を値踏みしているだけだと思っていた。
 でも――。あの時から彼女は私を特別な目で見ていたのかもしれない。
 私と碧川さんに部屋を提供してくれたのは善意ではなく、盗撮するため。行為を見せて欲しいと言ったのは、寝取られの趣味があるのではなく三人で愛し合いたかったから。
 婚外恋愛を認めているにしても、あまりに積極的過ぎる言動にはすべて裏の意味があったのだ。
 今さらながら、私は震えている。 
 私と碧川さんは奥さんの手の上で踊らされていたに過ぎなかった。
 今だってそうだ。悔しいことに、小山内くんの運命は奥さんが握っている。それから、私の運命も。
 本当だったら目が覚めた時点で私が色々と証言するはずだったのに、彼女に都合良く声まで出なくなるなんて、どこまで運が良い人なんだろう。
 だけど、これ以上彼女に振り回されるのはたくさんだ。
 できることならば碧川さんにはこっちの味方になってもらって、一緒に奥さんを説得してほしい。
 個室のあるカフェを予約して、そこに来てもらうことにした。くれぐれも奥さんにはバレないように一人で来てほしいと釘を刺せるだけ刺して。
 今日ですべて終わらせるんだという強い決意と共に、待ち合わせ場所へと向かった。 



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