ボク、女の子に生まれ変わったけど、元気です!

みなはらつかさ

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第二十九話 九月二十二日(木) ケーキに大感激!

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「よーし! 二階や屋根が残念だけど、できるところは全部やったな!」

 ククが、額の汗を拭いながら、教会を見上げる。

「だね! 中に入って、アイちゃんに報告しよう。みんな、お疲れ様~!」

 ポンプ係バーシ、ホース係シャロン、ブラシ係ボクとククで、手分けして外壁掃除。教会が、とてもきれいになった。

「みんな、お疲れ様。お茶にしましょう」

 先生が、車から魔法瓶を取り出す。先生も、ただ見ているわけではなく、二回目以降、「荷物がかさばるでしょうから」と、車を出してくれるようになっている。

 中に入ると、アイちゃんがわくわくして待っていた。

「どんなにきれいになったんでしょう! 見たいです!」

「写真撮ったから、また今度来たとき、見せてあげるね。あ、写真といえば」

 バーシが、マイコレクションの写真を、ざーっと並べる。

 彼女のコレクションというと、オカルトチックなものが想像されるし、実際そうなんだけど、普通に街の風景や、花や動物の写真もある。

「おっきなワンちゃん!」

「これ、うちのホリンな。でかすぎて、ちょっと連れてこれねーけど」

 「おおー」と、目をくりくりさせて驚くアイちゃん。

「これは、街並みの風景。私とアユムの住まいの周辺……東商業地区が多いけど、昔と比べてどう?」

「より、賑やかになりましたね。東商業地区は、たまにシスターに連れられて行ったことがあるんですけど、ずいぶん様変わりしてます。月に一度だけ食べさせてもらえる、アイスやケーキが、それはもう、おいしくて……」

 ほっぺに両手を添え、とろんとするアイちゃん。質素な生活の中での、たまの贅沢。それはもう、嬉しかっただろうな。

「また、食べてみたいですね……。叶わぬ夢ですけど」

 一転して、うつむく彼女。悪い子じゃないんだけど、どうしても会話が暗くなりがちなのがちょっと、だねえ。

「ねー、アイちゃん。ククと、すごく波長が合うんだよね? 例えば、乗り移ったり出来ないの?」

「ええ!?」

「ひょえっ!?」

 バーシの突飛な提案に、変な声を出す当事者二人。

「試したことないですけど……」

「おいおい、バーシ~。人ごとだと思って、無茶苦茶言うな、お前~」

「でも、できたらアイちゃん、きっと自由に外へ行けるんだよ。やらせてあげたいじゃない」

 しばらく、うんうん唸るクク。

「えーい、あたしも女だ! 体、張っちゃろうじゃないの!」

 決意に、「おおー!」と拍手する一同。

「では、入りますね」

「初めてだから、優しくしてくれよな……」

 へんてこなやり取りをしながら、ククに体を重ねていくアイちゃん。やがて、姿が消える。

「……どう?」

 提案者本人バーシが、心配そうに尋ねる。

「すごい……。寒さを感じる。あの、このお茶飲んでいいですか?」

 取り憑きの成功に、一同「おお~!」と声を上げる。

「それは、ククさんのぶんですけど……実質本人が飲むんだし、いいんじゃないかしら」

 先生の勧めで、紙コップのお茶を飲む。

「熱っ! すごいすごい! 熱さも感じる……! ふー、ふー……」

 息をかけて冷ます、アイちゃん=クク。

「おいしいです! ああ……生きてるって、素晴らしいですね!」

 生きてるって素晴らしい。ボクも、強く同調する。早死にして、転生して、そして今の人生を謳歌してるボクにとっても、その言葉は、とても深く響く。

「じゃあ、ちょっとアイちゃんと、街を散策しましょうっすよ」

「いいね! 先生、どうですか?」

 指をパチンと鳴らし、シャロンに同意する。

「そうね。部活時間もあまり残っていないから、遠出はできないけど、その辺程度なら」

「ありがとうございます!」

 アイちゃん、大感謝&大興奮。しかし、ククの姿でアイちゃんムーブすると、なんか普段とのギャップで、可笑しいな。

 というわけで、移動~。

「とりあえず、このあたりで」

 教会近くにある、商業地区の駐車場に車を停め、ケーキ屋さんに向かう。

「お金なら私が出しますから、お好きなのをどうぞ」

「うわあ……。目移りしちゃいます~」

 キラキラした瞳で、ショーケースを眺めるアイちゃん。

「ありがたく、ゴチになるっす」

「それは、自分たちのお小遣いで。アイさんだから、特別に出してあげるんですからね」

 「ええ~」と、不満そうなシャロンとバーシ。

「そもそも、みんな下校前なんですから。その格好ジャージで買い食い認めているだけでも、大目に見てるんですよ」

 渋々、諦める二人。

「先生、シュークリームと、モンブランと、ショコラケーキいいですか!?」

「ええ、どうぞ」

「ありがとうございます!」

 店員さんに、注文するアイちゃん。恨めしそうに見る、バーシとシャロン。ボクも甘味は好きだけれど、どちらかというと、健康食品に、もっと心を惹かれる。

「いただきます!」

 それはもう、おいしそうに食べるアイちゃん。

「幸せです~」

 この勢いで、昇天できたらいいのだけど。

「あーもう! そんなおいしそうに食べられたら、我慢できないじゃない! 先生、私も買ってきます!」

「うちも!」

 あー、我慢できなかったかー。

 ボクは、紅茶だけ頼むことにした。


 ◆ ◆ ◆


「満足しました~」

 駐車場に向かう途中、甘みを反芻はんすうするアイちゃん。

「喜んでもらえて何よりです。では、教会に戻りましょう」

 というわけで、教会前へ。

「では、チェンバレンさんを、自由にしてあげてください」

「はい。…………?」

 どうも、様子がおかしい。

「出れません……」

 なんだってー!? 一同、衝撃!

「あの、建物の中じゃないとダメなのでは!?」

 ピンとくるバーシ。

「それだ!」

 慌てて、中へ。

「……今度はどう?」

 お、うっすらと、ククからアイちゃんの姿が……。

「出れました! お騒がせしました」

 深々と、お辞儀するアイちゃん。

「ん? あれ? あたし……」

「姉さん、どこまで覚えてるっすか?」

「んー……? 取り憑き作戦、実行しようとしたとこ。そこから、なんか記憶ないわ」

 どうやら、乗り移ってる間は、ククの意識は消えてしまうらしい。

「どーなったん?」

「作戦大成功っす!」

 サムズアップするシャロン。

「そか。役に立てたなら良かった。しょっちゅうは困るけど、また、体貸してやっかんな!」

「ありがとうございます!」

 めでたし、めでたし。

 翌朝、「少し太った……」と、落ち込みぼやく、ククでした。
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