ボク、女の子に生まれ変わったけど、元気です!

みなはらつかさ

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第三十六話 九月二十四日(日) シャロン

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「今日も一日、疲れましたよ~っと」

 お風呂上がり、牛乳をコップに注いでぐいっとやっていると、「アユムちゃん」と、ソファのほうから声がかかる。おばあちゃんだ。

「なーに?」

「ちょっと、その格好はどうかしらねえ?」

 タンクトップ一丁に、下はショートパンツ。

「えー? そんなに変?」

「少し、はしたないんじゃないかしら。やっぱり、前世が男の子だったらしいからかしらねえ?」

「らしい、は余計だよ。でも、前世は実際、関係あると思うよ」

 ボクは、いまいち女の子の自覚に欠けるというか、女の子になりきれないときがある。たとえば、ファッションセンス。ガーリーやフェミニンとか、絶対着る気が起きない。

 店のウェイトレス服も、ズボンにしてもらっている。学校の制服は、さすがに慣れたけどね。

「逆にさー、おばあちゃん」

 隣に腰掛ける。

「女らしいって、イマドキそんな重要?」

 今は、価値観多様化の時代なのです。

「うーん、そうねえ。おばあちゃん、最近の世間の流れに、ついていけないときがあるわ」

「おいおい。しっかりしてくれよ、マエへさん。オレたち、まだ六十前だぜ? 老け込む歳じゃねェよ」

 テレビを一緒に見ていたおじいちゃんが、話に混ざってきた。

「じゃあ、アユムちゃんの格好、どう思います?」

「まあ、その……いささか、けしからんな」

 おほんと咳払いして、目を背ける。

「でもまァ、若い娘が肌晒すのも、そういうご時世だしなあ。お隣さんでも、そういう服が売れてるらしいし。時代に置いていかれたとは、思いたくねェな」

 天井を仰ぎ見て、ため息を吐くおじいちゃん。幸せが、逃げますよー。


 ◆ ◆ ◆


「なーんてやり取りが、さっきあってね」

 バーシと電話中。

「へー。マエへさんたちの世代だと、そう感じるんだねえ」

 おしゃれなバーシは、もちろんファッションは自由である派。

「バーシんとこの、おじいちゃん、おばあちゃんはその辺、どんな感じなの?」

 バーシの家も、二世帯住まいだ。

「ウチは理解あるよ? 家業が家業だからね」

「うらやましいなー」

「ほっほっほっ。お姉ちゃんと、本当の姉妹になるかい? うちの子におなり~」

 変な勧誘、しないでよ。

「それはそうと、バーシムレさん」

「改まってなんでしょう、アユムさん」

「ボク、バーシのオカルト趣味に付き合って、教会行ったよね?」

 電話じゃ見えないけど、すごくいい笑顔を作る。

「うん、うん! まさか、幽霊とお友達になれるとは思わなかったよー!」

 幸せそうな、バーシの声。

「そ~れ~じゃ~……今度は、ボクの健康趣味に、付き合ってもらおうかなぁ~?」

 ひっひっひっと、不気味に笑う。

「ちょ、ノリが怖いよ! まあ、いいですよ。持ちつ、持たれつですもんねえ」

「ですです。今日、お客さんが話してたんだけどね。隣の市に、おっきなレジャー系室内プールが、出来たらしいんだよ。一緒にどう?」

「それを先に言ってよ! ジム行こう~とか、そんな話かと思ったじゃない。プールなら、大歓迎だよ!」

 ふふふ。食いつきのいいことで。

「じゃあ、ククたちにも声かけとくから。次の土曜か日曜、空けといて」

 今のレーベルト家と、何も知らないバーシを話させるのは気まずい。

「りょーかーい! たーのしみー!」

 というわけで、バーシとは通話終了。ククにダイヤルする。

「こんばんは。アユムです。クク、いますか?」

「あーら、こんばんは! いつも仲良くしてくれて、ありがとうねえ! ちょっと待ってね」

 おばさんの声だ。「ククー! アユムちゃんからー!」という、くぐもった小声が聞こえる。

「ばんわー、どしたん?」

「バーシと、来週の土日どっちかに、プール行こうって話になった。都合つく?」

「つくつく! やっべ、楽しみすぎんだけど! でも、確か、かなーり遠いとこだよな?」

「それがねー。隣の市に、新しく出来たんだよ~」

 詳しい場所を伝える。

「シャロンは、あたしから誘ったほうがいいよな?」

 昨日のやり取りが、気にかかってるらしい。

「ううん。ボクが電話するよ。いつまでも気まずいままじゃ、良くないでしょ?」

「まあ、そりゃそーだな。変な言い方だけど、気ィつけてな」

「ありがと。それじゃあ」

 今度は、レーベルト家にダイヤル。

「もしもし。どちら様でしょう?」

 おばさんの声だ。

「こんばんは。昨日はどうも。アユムです」

「あっ……その、様々のこと、本当にすみませんでした。こんばんは」

「いえ! ボクもおじいちゃんも、もう、全然気にしてないので! あまり、引きずらないでいただけると。それより、シャロン出れますか?」

「わかりました。呼んできますね」

 受話器が置かれる音がする。声の届かない所にいるのだろう。

「ども。こんばんはっす。昨日、一昨日と、ご迷惑をおかけしたっす」

「もー、シャロンまで~。引きずらないで! いつものノリ、いつものノリ! でね……」

 プールの話をする。

「夕飯までには、帰れるっすかね?」

「隣の市だから、そんな遅い時間にならないと思うよ?」

「じゃあ、行かせていただくっす。あの、アユムっち」

 ちょっと、神妙な声。

「なーに?」

「あのあと、パパとママと、うちでシチュー作って、一緒に食べたっす。おいしかったっす。嬉しかったっす……」

 声が、涙ぐんでいる。

「今朝、ククから軽く聞いたよ。やったね! 一歩前進だ!」

「うん、うん……。ありがとうっす……。ほんと、ありがとうっす……」

 明らかに泣いていた。彼女が泣き止むまで、優しく相槌を打ちながら、耳を傾けることしばし。

「ごめんっす。ひたすら泣き声、聞かせちゃって」

「ううん。むしろシャロンの嬉し涙が、とても嬉しかったよ」

「ほんとに、アユムっちは優しいっすね。もっと話してたいっすけど、ママが呼んでるんで、切るっすね」

「うん。親子、仲良くね。じゃあ、また明日、学校で!」

 通話終了。レーベルト家の歯車が、いい方向に回り始めたようで、一安心かな。やっぱり、直接電話して良かった。

 さーて、宿題終わらせますかー!
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