冒険者「ボクっ娘三姉妹」が征く!

みなはらつかさ

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「やあやあ。実に南国! って感じだねぇ」

 長女、ビアンカが羽根付き帽子を脱ぐと、水色のハンサムショートが、潮風になびく。

 眼前には、いかにも南国といった、藁葺きの家々が軒を連ね、地面も見渡す限りの砂地。

 カンカン照りの太陽が、肌を刺す。

「持つべきものは、日焼け止めのポーションだね」

 スレンダーな長身と、イケメンフェイス。南国の港町に赴いているゆえ軽装だが、男装の麗人といった風体。腰に帯びた、レピアーが得物であろう。年齢・二十歳。

「やー、潮の香りなんて久々だぁ! 美味しい海産物が、た~くさん待ってるんだろうなぁ~! 早く、食事にしようよ、二人とも!」

 お腹をさすりながら、同行者に提言する、次女・サファイア。通称・サフィー。

 胸は慎ましいが、ボーイッシュな雰囲気に、それがむしろ、よく合っている。

 麦わら帽子を被っているが、彼女も水色のショートカットである。十五歳。

「悪いけど、妹連れでナンパはちょっとね。というわけで、ギルドに顔を出したら、僕は単独行動だ」

「じゃあ、オクト、一緒にご飯しよ!」

 サフィーに声をかけられた幼女、三女・オクタヴィア。通称・オクトがかぶりを振る。

「悪いけど、ちぃ姉ちゃ一人で食べて。ぼくは、ギルドに許可取ったら、露店開くから」

 そんな、つれない返事をするオクトの格好は、軽装に魔女らしい三角帽子という妙なもの。

 普段は萌え袖に、裾を引きずるようなローブ姿だが、南国でそれはさすがに辛く、こんなアンバランスな格好になっている。

 髪は、水色の二本おさげ。十歳。

 三人は実の姉妹だが、長子と末子が十歳差とは、ご両親、ちと頑張り過ぎである。それはさておき。

「しゃーない。結局、ボクは毎度お馴染み、一人飯かあ! さっさとギルド、行ーきましょ!」

 サフィーが先頭になり、ギルド所在地へ向かって、砂地をぎゅっぎゅっと進んで行く。

 この三人、冒険者なのだが、いずれも一人称が「ボク」であるため、「ボクっ娘三姉妹」などと呼ばれているのであった。


 ◆ ◆ ◆


「ギルドカードを拝見します」

 小麦色の肌に、金髪が映える受付嬢が、カードと帳簿を見比べる。

「ええっ!?」

 思わず、変な声を上げる受付嬢。

「しーっ。僕らはただ、観光旅行に来ただけさ。そういうことに、してくれないかい?」

 ウィンクで目配せするビアンカ。

「はあ……。わかりました」

「ところで、君の髪、美しいね。その小麦色の肌が、また魅惑的だ。そろそろ、昼休みの時間だろう? どうだい、僕と食事でも」

 彼女の手を取り、提案するビアンカ。

「あはは……。お誘い、ありがとうございます。でも私、既婚者でして。しかも、お弁当なんです」

 困った表情を浮かべる、受付嬢。ビアンカに、衝撃走る!

「ああ……。神は、なんて残酷なんだ……。こんなに美しいアンジェリーナ天使を、僕から奪ったのか!」

 上方を仰ぎ、涙を流しながら、左手は胸に当て、右手は斜め上に差し伸べるビアンカ。

「あー、まーた姉ちゃの悪い癖が、始まった」

 「妹連れでナンパはちょっとね」と言った矢先から、これである。

「ああなったら、ほっとくしかない。ぼくは露店を開きたいので、手数料を」

 帽子を脱ぎ、銀貨袋を取り出すオクト。カウンターに置くと、どちゃっと、中身の詰まった音を鳴らす。

 摩訶不思議。何でも入る、魔法の帽子である。

 ビアンカの奇行から我に返ると、さっそく勘定する受付嬢。

「確かに、いただきました。では、ここに必要事項を……」

 開業手続きを進める二人。

「やれやれ。二人とも、別ベクトルに忙しそうだね。ボクは、食事に行ってくるよ~」

 手をひらひらと振り、退出するサフィーであった。


 ◆ ◆ ◆


「お? ロブスター!? この店、ロブスター出すの!?」

 街をうろついてると、ロブスターが大描きされた看板に、ビビッときた、サフィー。

「新鮮なロブスター……! ヨダレが出るなあ!」

 俗に、エビ・カニ独特の匂いと呼ばれるものは、実は腐敗臭である。この港町なら、穫れ穫れのロブスターが味わえそうだ。

 もはや、サフィーはロブスターの舌と腹。

 迷うことなく、入店するのであった。


 ◆ ◆ ◆


「うひょー! 美味そー!!」

 おっきなロブスターを前に、舌なめずり。焼き牡蠣もおすすめだと女将が言うので、それと、さらにストローが刺さった、丸のココナツも頼んだ。

「いただっきまーす!」

 ロブスターを手づかみし、殻ごとバリボリと食べる。どういう歯をしているのか。

美味うまーっ!」

 シャウトしながら、噛み砕いていく。なんと、殻ごとすべて平らげてしまった。

「ロブスター、おかわりー!」

 焼き牡蠣をかき込みながら、追加を頼む。こちらも、肉厚でジューシィ。海のミルクといわれる所以を、堪能する。

「あいすみません。品不足で、それ以上、お出しできませんで……」

 女将が、恐縮する。

「えー? じゃあ、牡蠣をおかわりで!」

「まことに、あいすみません。そちらも……」

「ええー!? これしか食べられないの!? ボク、まだ、腹五分ぐらいだよ~!」

「そうですねえ……。小魚なら手に入りやすいので、そちらでいかがでしょう?」

「食べで、ある?」

 美味しい? ではなく、こう尋ねるあたりが、実にサフィー。

「はい。数はお出しできますから」

「じゃあ、それで!」

「はい。ご注文、賜りました」

 奥の厨房に、オーダーを伝える女将。

「ところでさ。不漁かなんかなの? あれもない、これもない。ボクのカンが、ちょっとただ事じゃあないと、告げているんだなあ~」

 ココナツのジュースをやりながら、そう尋ねるサフィーの青い瞳には、ただの食い意地や好奇心ではない、何かが宿っていた。


 ◆ ◆ ◆


「ハーイ、そこのバンビーナ小鹿ちゃんたち」

 失恋から、立ち直ったのであろう。浜辺でサングラスを外しながら、水遊びしてる美女二人に、声を掛けるビアンカ。

「なんでしょう?」

 二人が水遊びをやめ、ビアンカに問う。

「運命というのは、あるんだね。どうだい? 僕とそこのお洒落なバーで、運命の出会いに、乾杯というのは。もちろん、おごりさ」

 ウィンクを飛ばす。

「ええ……? あの、あなた、女性ですよね?」

「よく、男と、間違われがちだけどね。でもね。確かな愛の前には、些細なことさ。僕は、君たちに惚れ込んでしまったんだよ。ああ、この胸を打つ熱情の律動、どう抑えたらいいのだ、神よ!」

 手を差し伸べるビアンカに、思わず吹いてしまう二人。

「あなた、面白いね。楽しい話ができそう。あんたもどう?」

「そうだね。見たところ、異国の人だ。地元の話を聞かせてもらおうかな」

「ああ、ありがとう! 天も、この出会いを祝福しているようだ」

 大鯨が潮を吹き、空に虹がかかる。

「さあ、お手をどうぞ」

 手を差し伸べると、それぞれが手を掴み、海から上がる。

「では、参りましょうか。お姫様方」

 二人をエスコートし、目をつけたバーへと向かうのであった。


 ◆ ◆ ◆


 酒の席は、ビアンカのキザでありながらも、知的であったり、かと思えばユーモラスなトークで盛り上がった。

「あはは! ビアンカさん、上手ーい!」

 ビアンカの必殺ギャグに、抱腹絶倒の片割れ。

「はー、笑った笑った。でも、もう飲めないな。お開きかな」

 もう片方も笑いがやっと引き、深酒したせいか、ゆらゆら揺れている。

「あたしも~。じゃあ、ビアンカさん、また会ったら……」

「おいおい。寂しいことを言わないでおくれよ、薔薇バラの乙女たち。もっと、楽しいことをしようじゃないか」

「え? それって……」

 顔を見合わせて、酔って紅い頬を、さらに紅くする二人。

「女同士は初めてかい? いいものだよ。互いに柔らかく、とろけるような感覚に包まれる。試してみないかい?」

 蠱惑的な、ビアンカの微笑みに見入り、ごくりと喉を鳴らす、二人であった。


 ◆ ◆ ◆


 しばし後、宿の一室にて、果てた二人を、優しく愛撫するビアンカ。三人とも、ベッドの上でネイキッドになり、大きな薄布から、肩口から上だけが覗いている。

「はぁ~……。ビアンカさん、スゴイ……」

「こんなの、初めて……」

 とろけている二人。

「お褒めに預かり、光栄だよ。僕の手と、この口は、女性に天国を垣間見せるために、あるからね」

「ねえ、もう一回……」

 指を咥え、おねだりする片割れ。

「もちろん、いいとも。女同士に、終わりはないからね」

 こうして、しめやかに二回戦が始まった。


 ◆ ◆ ◆


「よっと」

 魔法の帽子から、自動で扇いでくれる扇、商品棚と商品、椅子。そして、冷たいトロピカルフルーツジュースを出して、開店準備するオクト。

「いらっしゃーい! マジックアイテムの露店だよ~! 幸運のペンダントとか、いかがですか~?」

 呼び込みをすると、道行く女性二人が、足を止める。

「おお。お客さん、運がいい。第一号だ。おまけしちゃうよ」

「だって。へー、アクセ系が多いね?」

「ぼくの専門は、お守りチャームだからね」

「『ぼく』だって。かわい~」

「これは、どんな効果があるの?」

 クリスタルがはまった、ペンダントを手に取る片割れ。

「それは、ささやかな幸運が訪れる。試しに着けて、ちょっと歩き回ってみて」

「どれどれ……?」

 ペンダントを首にかけ、そのへんをぐるりと歩くと……。

「ん?」

 サンダル越しの足底に、何やら固い感触を覚えたので、少し掘ってみると、銅貨が一枚現れた。

「あら、ラッキー。へ~、こりゃホンモノだね!」

 ペンダントを見つめる女性。

 実はこの銅貨、オクトがあらかじめ埋めておいた、仕込み・・・なのだが、ペンダントの効果自体は本物で、実際に、小さな幸運を運んでくれる。

 ただ、こうしてさっそく、ご利益があることを示すことで、信用度を高めたのだ。この十歳児、やり手である。

「ねね、これちょーだい!」

「まいどあり。銀貨十枚になります……というところを、お客さん第一号ということで、九枚にサービス」

「これまたラッキー! はい、どーぞ」

 ちゃりんと、小気味よい音が鳴る。

「すっご。マジモンかー。私に、なんかおすすめある?」

「お姉さん、漁師でしょ」

「え? わかるん!?」

「ぼく、占い師でもあるからね。水晶玉を使えば、もっときちんとした占いもできるよ」

 実際には、手のタコから、推定したのだが。占い師の、常套テクニックである。

 しかし、オクトの占いはこれまた本物で、本格的に占うには。水晶玉が必要。ただ、それは今、帽子の中だ。

「んー、そっちも気になるけど……。このお守り、呪いに勝てるぐらいのパワー、ある?」

「呪い?」

 首を傾げるオクト。

「その話、詳しく訊いてもいい?」

 この幼女、呪いだの霊だのに、興味津々なお年頃である。


 ◆ ◆ ◆


「ふ~。食った食った~!」

 腹を擦りながら、サフィーが気分良く、往来を歩いていると……。

「いてててててて!」

 男がぶつかってきて、勝手に転んだ。

「ああ~! 骨が、骨が折れた~! 治療代よこせよ~!」

 古式ゆかしい、当たり屋ムーブである。

「おい、嬢ちゃん。怪我したくなかったら、言う通りにした方がいいぜ」

 太った筋肉質のハゲ男がサフィーに凄む。まこと、コテコテの極み。

「はー……。いい気分が、台無しだよ。しょうがないにゃあ……。体で払うんでもいい?」

「ぐへへ。ああ、それでもいいぜえぇ~」

 ニタつく二人。

「骨が折れた割に、いい笑顔だねえ、そっちの人。ま、いいや。あっちで楽しもうよ」

 薄暗い路地を、親指で指さし、さっさと行くサフィー。ついていく二人。そして……。

 しばし後、鼻歌を歌いながら、路地からサフィー一人で出てきて、再び上機嫌で歩いて行く。

 路地裏では、先程の二人が、ボコボコにされ、気絶して転がっていた。
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