冒険者「ボクっ娘三姉妹」が征く!

みなはらつかさ

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「たっだいまー! って、振られた人の目の前で、そーゆーコトする、ふつー?」

 サフィーがギルドに戻ると、ビアンカがテーブルで、先ほどしとねを共にした、新たな恋人たちを、左右に侍らせ、いちゃついていた。

 受付嬢は、後方で苦笑気味。

「僕は、愛の狩人なんだ。美しいバンビーナ仔鹿ちゃんたちがそこにいれば、ハートを射止めずにはおれないのさ」

 長女のきざったらしいセリフに、きゃーっと、嬌声を上げる恋人たち。

 やれやれと首を振りながら、サフィーも着席する。

「もうかりまっか?」

「ぼちぼちでんな」

 一方オクトは、今日の売上を勘定中。

「姉ちゃたちも、ちゃんと働いて」

「明日から本気出す」

 ダメ人間丸出しな事を言いながら、さっそく、軽食を頼むサフィー。

「そういえばさ。ボク、別なレストランでお昼したわけだけど、最近、近海で魚介の大量死が相次いでるらしくて」

 一同の耳目が、サフィーに集まる。

「ぼくも、それ系の話聞いたよ。ここの特産品はパールなんだけど、養殖場が軒並みやられて、呪いだと、地元の人は恐れてるみたい」

 今度は、オクトが注目の的に。

「ここでは、知られた話なのかい?」

 ビアンカが恋人たちに問うと、肯定の頷きが返ってくる。

「どうぞ。ハムサンドとジュースになります」

「ありがとー!」

 さっそくがっつく、サフィー。

「ねえ、アンジェリーナ天使。急に景気が良くなった人物とか、いたりするかい?」

 怪訝な表情を、一同から頂戴するビアンカ。

「誰かが損してるってことは、他方で誰かが得してるってことだよ。世の中、そういう風にできている。で、どうだろう?」

「うーん……。もともと豪商であった、フゴーさんぐらいでしょうか?」

「へえ。ちょっと、詳しく訊きたいね」

 受付嬢の語るところによると、呪いで被害が広がる中、フゴーの持つパールの養殖場だけが被害を免れ、莫大な利益を上げているらしい。

「臭うね」

「まさか! フゴーさんは、不漁に苦しむ人たちに、色々と恵んでくださっているお方なんですよ?」

 ビアンカの恋人たちも、頷く。

「なるほどね。おかげで、疑惑が確信に変わったよ。僕は、ロマンチストだけど、リアリストでもあってね。近海の海流図って、手に入らないかな?」

「それなら、書庫にあるはずですが……」

「ありがとう。すまないね、バンビーナたち。ちょっと失礼するよ」

「一緒に行きます!」

 それぞれの頬にキスして、中座しかけたビアンカの手を取り、ついていく二人。

「ぼくも、ピンときたよ。ちょっと、行ってくる」

 金勘定を中断し、帽子に財布を収めると、オクトも書庫に向かう。

「え? わかってないの、ボクだけ!? どうしよう?」

「私に訊かれましても……」

 困った笑みを浮かべる、受付嬢。

「むう。一人ぼっちは、寂しいもんな」

 急いで、サンドイッチとジュースを胃に入れると、サフィーも書庫へと向かうのであった。


 ◆ ◆ ◆


「大姉ちゃ。あったよ、海流図が」

 踏み台に乗ったオクトが、一巻の巻物を振り振り、声を上げると、一同が集まる。

「でかした。ここじゃ暗いから、テーブルに戻ろう」

 テーブルで、巻物を広げる。

「羊皮紙か……。てことは、年代物だね。最近、海流が変わったとかいう話は?」

 受付嬢に問うと、そういう話は特にないらしい。

「じゃあ、信頼できる資料だね。ふむ……」

 海流を指でなぞりながら、考え込むビアンカ。

「大姉ちゃ、ここなら、毒の被害を受けない」

「毒!?」

 ビアンカとオクト以外が、ひっくり返った声を上げる。

「ひょっとして、フゴーの養殖場は、ここじゃないかな?」

 ビアンカが、地元民三人に問うと、「はい……!」と、受付嬢の、緊張した返事。

「あの、姉ちゃ。どういうことさ」

 サフィー、事情が飲み込めないといった様子。

「この離島を起点に、海流を辿ってご覧」

 ビアンカが指し示した島を中心に、各々、ルートを辿ってみる。

「あっ!」

 ビアンカ、オクト、受付嬢を除く、驚きの声が上がった。

 もし、この島から毒を流したなら、フゴーの養殖場だけを綺麗に避けて、毒が近海に蔓延する。

「でも、フゴーさんはお恵みを……!」

 恋人の片方が、震え声で反論を試みるが……。

「バンビーナ。悲しいことだけど、金持ちというのは、ケチだから金持ちなんだ。それが不漁とともに、突然、篤志に目覚めた。敵愾心を、持たれないためにね。そういう、筋書きってわけさ」

 顔を伏せる彼女の頬を、そっと、優しく撫でる。

「アンジェリーナ。呪いの解決の依頼が出てるはずだね? 受領するよ」

「はい……」

 ショックを隠しきれない受付嬢が、依頼書を取りに行く。

「さて。このままでは、ただの推測・疑惑で終わってしまう。現場と証拠を押さえなければね」

 ビアンカが、不敵な笑みを浮かべる。

「不敵な笑みを浮かべるのはいいけどさ、具体的にはどーすんのさ?」

「それには、地元民のサポートが必要だね。真珠貝って、一度駄目になると、復活までどのぐらいかかるんだい?」

 サフィーの疑問に、さっそく行動で応えるビアンカ。

「四年から、五年はかかります。それを、イチからやり直しですよ」

 歯噛みする、バンビーナの片割れ。

「深刻だね。養殖場の再建は、進めているんだろう?」

「はい。でも、何度やっても、見計らったように、呪い……いえ、毒ですか。それにやられてしまって。失敗を繰り返すうち、私財も尽きて、フゴーさん……いえ、フゴーからの借り入れも、膨らんでいって……」

 静かな怒りが、場を支配していた。

「悪どい! 悪どすぎるよ! とっちめてやろう!」

 サフィーが、拳に力を込める。

「そうだね。次の仕込み・・・は?」

 バンビーナたちに問うビアンカ。

「ちょうど、明日です。明日、養殖場で、何度目になるかの仕込みを行います」

「よし! アンジェリーナ。同行して、僕たちの証人・・になってくれるかな? 危険な目に合わせないよう、気をつけるよ。あと、腕の立つ船乗りと、小舟がほしい。手配できないだろうか?」

「お任せください。では、あちらで契約を」

「そういうのは、ぼくの担当」

 受付嬢に、ちょこちょこついて行くオクト。

「目にもの見せてやる! フゴー!」

 己の手のひらに、拳を打ち付けるサフィー。

 パシーンという、小気味よい音が響く。

 作戦の狼煙が、上がった。


 ◆ ◆ ◆


 翌昼。養殖場の見学に行く三姉妹。

 皆、暗い顔をしながら、稚貝を沈めていく養殖業者たち。

「何度、心が折れかけただろうね」

 サングラス越しに、それを眺めるビアンカ。

「今度こそ、やらせない!」

 サンドイッチを食みながら、決意を新たにする、サフィー。

「ぼくも、お金は好きだけど、こういうやり方は許せない」

 三角帽子のつばを上げ、フゴーの屋敷がある方角を見やるオクト。

「あーっ! 昨日の行商人ちゃん!?」

 そんな彼女に、素っ頓狂な声を上げる女性が一人。

「あ。昨日は、お買い上げありがとうございました」

 声の主に、お辞儀するオクト。

「いやー! ギルドからお仕事もらったら……。合縁奇縁ってのは、よくいったもんだね!」

 そう返すのは、昨日、オクトがタコを見て漁師と当てた女性である。

「チャオ、愛らしいミチーナ仔猫ちゃん。こんな素敵な女性と、すでに知り合いとは、オクトも隅に置けないね。余裕があれば、口説きたいところだけど……。作戦が成功したら、ディナーをどうだい?」

「口説いてる、口説いてる」

 サフィーのツッコミ。

「漫才してる場合じゃないでしょ。あんまり、色々話してると、怪しまれる」

 オクトもツッコむ。

「そうだね。じゃ、今夜ギルドハウスで」

 ビアンカが、ウィンクしながら握手を交わす。

「海のことなら、おまかせ! じゃ、また!」

 手をひらひら振りながら、去って行く彼女。

 養殖作業をを確認した三姉妹も、ギルドへと戻るのであった。 ◆ ◆ ◆


 ◆ ◆ ◆


 そして、夜。

「ちわ~」

 約束通り、カンテラ片手にギルドへやってきた漁師の彼女。

「待っていたよ。じゃあ、行こうか」

「まっへ! はた、たふぇきっふぇはい!」

 座席から立つビアンカに、二つのサンドイッチを口に詰め込みながら、待ったをかけるサフィー。

「小姉ちゃの足なら、あとから追いつけるでしょ。さ、行こ」

 ビアンカに続くオクト。

「すふほいふふはは!」

 何を言ってるかわからないが、オクトの提案に従うことにしたようだ。

 そして。

「ん、向かい風。波音もあるし、小声なら喋っても大丈夫だよ」

 ビアンカに、さっそくミチーナの愛称を頂戴した漁師の娘が、唾を付けた人差し指で、風向きを確かめる。

 満天の星空だが、新月ゆえ、月は出ていない。

「これも好都合だね」

 空を見上げ、満足そうに頷く彼女。

「岩礁とか、大丈夫なのかい? ミチーナ」

「この辺の岩礁だとかなんだは、バッチリ頭に入ってるよ。伊達に、ほぼ毎日海に出てないさ」

 自分の側頭部を、人差し指でトントン叩く。

「頼もしいね」

 漁師と受付嬢は、海に転落しても溺れないよう、身軽な格好。三姉妹に至っては、水着である。これは、離島に近づいたら、三姉妹が潜航して、上陸するためだ。

 水着にベルトを巻いて、帯剣しているビアンカの姿は、少々シュール。

 また、受付嬢は、一冊のぶ厚い本を、大事そうに抱えていた。

「さーて、フゴーの化けの皮を、ひん剥きに行きますか!」

 指をポキポキ鳴らすサフィー。

「どうせひん剥くなら、美女の薄絹といきたいね、僕は」

 ミチーナに、ウィンクするビアンカ。

「ちょめ」

 人差し指で、バッテンを作るオクト。

 六人は、舟に乗り込むと、星明かりを頼りに、海原を進む。

 娘の腕は確かで、程なくして、離島と思しき小島が見えてきた。

「ミチーナ、ここで停めて。オクト、頼む」

「がってん。はっちゃん、ごー」

 オクトが帽子を少し上げると、何かが這い出てきて、そのままボチャンと着水し、沈んでいく。

 オクトの使い魔、メンダコの「はっちゃん」だ。

 水陸両用、淡水も平気、毒だってへっちゃらな、スーパータコさんなのだ!

 オクトの脳に、海中映像が映る。彼女とはっちゃんは感覚を共有しており、はっちゃんが見聞きしたり、触った感触などは、オクトにダイレクトに伝わる。

 タコに聴覚があるのかは謎だが、はっちゃんはスーパータコさんなので、持ち合わせている。すごいね、はっちゃん。

 もうすぐ陸地、というところで、巨大な……といっても、はっちゃんの視点でだが、魚が近づいてきた。

 体長一メートルほどで、やたら尖った口をしている。

 メンダコの体長は、約二十センチ。はっちゃんを狙っているのは、明らかだ。

「はっちゃん、逃げて!」

 必死に、島に向かうはっちゃん。しかし、メンダコはあまり早く泳げない。大ピンチだ!

 迫る魚! 逃げるはっちゃん!

 魚が口を開くが、あわやのところで上陸に成功し、難を逃れる。

「ふう……」

 額の汗を、拭うオクト。

 はっちゃんを少し休ませると、島を這って行く。

 明かりが、はっちゃんの視界に映る。

 物陰に隠れながら慎重に近づくと、それは篝火の光で、話に聞いたフゴーらしき人相の男と、武装したガラの悪そうな男女たちがたむろし、向かいの岸に、小型船が停泊していた。

 さらに、大量の樽と柄杓。

「さあさあ、みなさん、やっちゃってください」

 フゴーらしき男がそう言うと、ならず者たちが、「おー!」と応え、樽の蓋を開け始める。

「姉ちゃたち、毒が撒かれる!」
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