冒険者「ボクっ娘三姉妹」が征く!

みなはらつかさ

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「行くよ!」

 三姉妹が、静かに、かつ迅速に海に潜ると、島へと潜水して泳いでいく。

 なるべく音を立てないよう、息継ぎしながら泳いでいくと、先程の魚とすれ違った。別個体かも知れないが。

 オクトはそれを一瞥すると、あとは目もくれず、進んで行く。

 岩盤にタッチすると、静かに上陸する三姉妹。

 ほふくで進んでいくと、連中が見えてきた。

「姉ちゃたち。目を伏せて。閃光の魔法」

 オクトが帽子から、先端に星のついた小さなステッキを取り出しそう言うと、まばゆい光があたりを照らす。

 突然の強い光に目をやられ、パニックに陥る悪党一味。

 三姉妹は、立ち上がりつつスムーズに地を蹴り、距離を詰める。

 しかし、悪党どもも、目が慣れ、回復してしまう。

「なんだこいつら!?」

「見られたからには、生かして帰すわけにはいきませんね。魚の餌に、なってもらいましょう。みなさん、お願いしますよ。こういうときのために、安くないお金を払っているのですからね」

「おー!! ぶっ殺せー!!」

 フゴーの指令で、抜剣し、一斉に襲い来るならず者たち。

「服の摩擦力を、なくす魔法」

 オクトがステッキを振ると、女ならず者たちの服が、一気にずり落ち、一糸まとわぬ姿になる。

 なお、謎の光や謎の闇が、大事な所は隠しているので、良い子の読者は安心してほしい。

 悲鳴を上げ、服を再着用しようとするが、どうしても滑り落ちてしまい、腕と手で大事な所を隠し、座り込んでしまう。

「ふ。女を無力化するなぞ、容易いものよ」

 オクトがほくそ笑む。

 やだ、この十歳児怖い。

「なめんなー!!」

 それでも、謎の光や闇にガードされながら、突進してくる女ならず者もいる。

「悪党でも、女性は傷つけたくないのでね」

 抜剣したビアンカが姿勢を低くすると、次の瞬間には、敵の背後にいて、ならず者の剣が、真っ二つに折れていた。

「なっ!? 速っ……! それに、そんな細い代物レピアーで!?」

「自慢の業物でね。海水に漬けてしまったから、あとで、きっちり手入れしないとね」

 そう言うと、次々に敵女性陣の剣を折っていく。

「ちっ、これだから女は……。野郎ども、やるぞ!」

 男衆が、つばを吐き、再突撃してくる。

「時代遅れだよ、そーゆーの。ま、手加減がニガテなボクには、ちょうどいい相手だね」

 ショートパンツタイプの、水着のポケットから取り出したナックルダスターを手早く装着し、戦闘態勢を取る。

 襲い来る剣をダスターで弾きつつ、反対の手でボディに一撃入れ、相手が怯んだところに、さらに顔面へ連打を叩き込む。これで、大抵の相手はノックアウトだ。

「な……! そんな細っこい腕で!?」

「へへー。企業秘密」

 サフィーは格闘技のほかに、「練気」という技術も会得している。俗にいう「氣」の力で身体能力を大幅強化し、俊足や怪力を発揮できるのだ。

 ただし、代償として、スタミナの消耗が激しい。彼女が大食いなのは、それを補うためだ。……単なる、食いしん坊でもあるが。

「やるじゃねえか、嬢ちゃんよぉ」

 指をポキポキ鳴らし、大男が近づいてきた。

「あれー? 昨日のおじさんじゃーん。もう、格付けチェックは済んだでしょ。映す価値なしだから、さくっと退場してもらえないかなあ?」

「けっ! 昨日は不覚を取ったが、今日の俺は一味違うぜ」

 ポーションを一気飲みすると、筋肉モリモリ、マッチョマンの変態と化す。

「ドーピングコンソメポーションだ……。コンソメ味だから、飲みやすいぜ」

 下品な笑みを浮かべ、舌舐めずり。

「へえ。面白いね。楽しませてよ」

  サフィーも、左親指をぺろっと舐めると、拳を構え、脇を締める。

 海風が、二人の間を吹き抜けると、それが合図かのように、両者が突進する。

 大男のパンチ! しかし、それをダッキングで躱すと、流れるようにボディに一撃! 「ぐえっ!」といううめきとともに、大男の体が、くの字に折れる。

 そして、下がった顔面に、ストレート! 鼻っ柱を直撃し、顎が前に出たところを、すかさず跳びアッパー!! K.O.!!

「もっと、楽しめると思ったのに。その、ドーピングなんとか、逃げるのに使ったほうが良かったんじゃない?」

 やれやれと、ため息とともに、首を横に振るサフィー。

「さーて、手下は片付けたよ。魚の餌になるかい?」

 抜き身のレピアーを手に、一歩一歩、にじり寄るビアンカ。

「あ、ああああ……。い、命だけはお助けを……!」

 ズボンに汚い染みを作り、震えながら懇願するフゴー。

 しかし、ここで……。

「へへ……。こいつを殺されたくなかったら、武器を捨てて、這いつくばりな!」

 男がオクトに忍び寄り、首にナイフを当てる。

「誰かと思えば、昨日の片割れ! 骨はもういいの?」

「うるせえ! 早くしろ!」

 サフィーが、意外な伏兵に驚きつつも、ダスターを外して投げ捨て、地面に伏せる。ビアンカも、剣を捨て、同様にする。

「ふふ……。形勢逆転だ。よくも、辱めてくれたな」

 フゴーがビアンカの剣を拾い、突きつける。

「僕の愛剣を、けがらわしい手で触らないでほしいな」

「ふん。そんなのが、辞世の言葉でいいのか」

 一方、人質を取った男は、オクトを引きずり、後じさりする。海を背に、安全距離を確保。

 そうこうしているうちに、サフィーにのされたならず者たちが、意識を取り戻し始める。絶体絶命のピンチ!

 だが、オクト以外、誰も気づいていなかった。

 正確には、サフィーとビアンカは、気づかないふりをしていた。

 初手に放った魔法の閃光が、オクトを捕まえている男の背後に、そっと移動していたことを。

「ギャーッ!!」

 水しぶきが上がる音とともに、男が突如悲鳴を上げ、ナイフとオクトを手放し、悶絶する。その肩には、先程はっちゃんを追いかけていた魚……別個体かも知れないが、それが深く突き刺さっていた。

 ニードルフィッシュ。または、ダツ。光に向かって突撃する習性があり、漁師や釣り人が、夜釣りのために篝火を焚くと、海上に飛び出して鋭い口で人を貫き、殺傷事故を起こすことで知られる魚だ。

 フゴーがそちらに気を取られた刹那、ビアンカが跳ね起き、フゴーの手をひねり、剣を落とす。

 すかさずそれを拾うと、フゴーに突きつける。

「形勢、再逆転だ。大人しく、お縄にかかるんだね」

 オクトが帽子からロープを取り出し、次々に縛り上げていく。

「うふふ。人を縛るの、楽しい……」

 もうやだ、この十歳児。

「さてさて。あとは、官憲に突き出すだけだが……」

 ビアンカが、縛られたフゴーを見るが、余裕の表情。

「なるほどね」

 買収済みというわけか、と心の中で続ける。

「じゃあ、これしかないね。サフィー、オクト。こっちへ」

 二人が、ビアンカのもとに駆け寄る。

「我ら、冒険者『トライスターズ』! この、プラチナのギルド証の権限により、裁きを下す!」

 三姉妹が突き出した白金のギルドカードには、青い三本のラインと、正三角形に配置された青い星が刻印されていた。

 ざわつくフゴー一味。プラチナのギルドカードといえば、世界にごくわずかの、最上級の認定を受けた冒険者たちの証だ。

 そして、プラチナ冒険者には、各国の王より強い、法権限が与えられている。ゆえに、プラチナ認定された冒険者者の責任は非常に重く、審査と認定も、極めて慎重に行われる。

 万一、悪用しようものなら、生死問わずの高額懸賞首と化す。

「待て! 慌てるな、お前ら! トライスターズといえば、五十年前に、魔王を倒した冒険者だ! それが、こんな小娘どもなわけあるか! 偽物だ!」

 フゴーが反論すると、ならず者たちも野次を飛ばす。

「いいえ。彼女たちは本物です。信じがたいことですが」

 上陸した受付嬢が、所持していた冒険者登記簿を広げると、たしかに同じ模様のギルドカードが、「トライスターズ」として登記されていた。

「だからどうした! 模造品に決まってる!」

 なおも食い下がるフゴーに、受付嬢が返す。

「ギルドカードには、本人証明機能があります。手に持ち、キーワードを唱えると、淡く光るのです。では、みなさん」

 受付嬢の言葉に、頷く三姉妹。

「愛に生きる純白の百合、ビアンカ・トレステッレ!」

 カードが、白に淡く光る。

「蒼天に舞う青き翼、サファイア・トレステッレ!」

 カードが、青に淡く光る。

「紅蓮に燃ゆる赤き炎、オクタヴィア・トレステッレ」

 カードが、赤に淡く光る。

「我ら、トライスターズの三姉妹なり!」

 声を合わせ、宣言する。

「ギルドの者として、たしかに本人であると保証します」

 受付嬢が、本を閉じ、こうべを垂れる。

「そ、そんな……」

「まずはフゴー! お前は……」

「待てい! 我々は、ただこの島で、集会を開いていただけ! 争いがどうこうと言うなら、仕掛けたのは、そちらが先ではないか!!」

 フゴーが遮り、むしろ被害者だと言い出すと、ならず者たちも、「そうだそうだ!!」と同調する。

「なるほど。一理あるね。ちなみに、この樽の中身は?」

 樽から透明な液体を柄杓ですくいながら、問うビアンカ。

「そ……そりゃあ、集会だからな。ただの酒だ!」

 ならず者たちも、肯定する。

「そうかそうか。富豪の振る舞う酒は、さぞ美味なのだろうねえ。では、ひとつこれを、飲み干してくれたまえよ。そうしたら、言い分を認めようじゃないか」

 液体がたっぷり入った柄杓を、フゴーの口元に近づけると、真っ青になり、顔を背ける。

「なんで拒むんだい? さあ、代表として、ぐいっといっておくれよ」

 口元に近づけるたびに、顔を背けるフゴー。

「サフィー、頭を押さえて。オクトは鼻を摘んでくれ」

 そうすると、必死で口を閉じるが、息ができず、ついに口を開く。

「どうかご勘弁を!」

 鼻声で、懇願するフゴー。

「それは、これを毒と認めるという自白でいいね?」

「は、はい! そのとおりです!」

「ふむ。もういいよ、二人とも」

 フゴーの顔から、手を離す妹たち。

「改めて、沙汰を言い渡す! フゴー! 毒で海を汚染し、海産物を死滅させ、その一方で私腹を肥やしたこと、非常に度し難い! 全財産没収し、被害を受けた民に再分配したのち、国外追放に処す!」

「は……ははぁー……」

 平伏するフゴー。

「他の者は、かかる悪事に加担したこと、これもまた罪深し! 徒刑場に収監し、十年の労役を課す!」

「へへぇー……」

 ならず者たちも平伏する。

「なお、買収された役人には、追って沙汰を言い渡す! 以上!」

 漁師の娘が操舵し、フゴーたちが乗ってきた船で、小舟を曳航しながら護送すると、果たして、処分は下された。
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