カンブリアン・アクアリウム

みなはらつかさ

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第一話 カンブリアン・アクアリウム

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「あのじろー! あのじろー!」

 ショートカットの幼い少女が、水槽を悠然と泳ぐアノマロカリスを見て、歓声を上げる。

 右ヒレに薄紫のタグを付けたアノマロカリス、「あのじろう」は、カンブリアン・アクアリウムの人気者だった。

 カンブリアン・アクアリウム。カンブリア生物を蘇らせた、水族館である。

 西暦二一〇〇年、人類は画期的なテクノロジーを手に入れた。

 量子を通し、高次元を観測することで、過去の地球の絶滅動植物のDNA情報を入手。それを元に、古生物を再現することに成功。

 この技術は古生物学だけではなく、考古学や歴史学、犯罪捜査などにも、大きな波紋を与えた。

 あのじろうがお気に入りな少女は、今はそんな小難しい話はつゆ知らず、「大人になったら、カンブリアン・アクアリウムで働きたい!」と、将来の夢に心躍らせるのであった。


 ◆ ◆ ◆



 カンブリアン・アクアリウム入社式。

 若者たちが、希望に顔を輝かせる……。とは限らず、中年も少なからずいた。

 西暦二一三○年。新卒主義は、とっくの昔に終わりを告げ、より働き方に幅ができた時代。

 長いもみあげと、ショートカットが特徴的な女性、雁州かりすまりんは、念願のカンブリアン・アクアリウムに入社し、希望に胸を膨らませるのであった。

 (あのじろうと一緒に、仕事したい!)、その思いを胸に短大を卒業し、こうして、館長のスピーチに耳を傾けている。

 まりんが、あのじろうと初めて会った日から、十五年の歳月が流れていたが、あのじろうはアノマロカリス長寿世界一位で、ギネスブックに載ったばかり。

 案内課を志望した、まりん。明日の配属辞令を、心待ちにするのであった。

 入社式終了。

「よーっす! まりん! お互い、ピカピカの一年生だな!」

 気さくにまりんに声をかけてくる、ベリーショートの活発そうな女性、春木はるきあくあ。まりんの同窓生にして、親友である。

「あくあちゃん! うん、うん! もー、楽しみでしょうがないよ!」

 Vサインで返す。社員寮でも、同室だ。

「記念にどう、これから?」

 飲み物を傾ける仕草をする、あくあ。

「うん、飲もう、飲もう!」

 こうして、近所の居酒屋に向かう二人であった。


 ◆ ◆ ◆


 翌日。

(えー……)

 配属辞令を受け取り、内心変な声を上げるあくあ。

 彼女の希望は、まりんと同じ案内課であったが、企画課に配属されてしまった。

(やった!)

 一方まりんは、希望通り案内課に配属され、ほっと一安心。

「あ~……。まりんと同じ職場が良かったなー」

 それぞれの部署へ向かうすがら、ぼやくあくあ。

「まーまー。異動の機会、きっとあるから!」

 頭を撫でて、慰めるまりん。

「ここが企画課か。じゃ、また」

 職場に入っていく、あくあ。

 まりんはもう少し歩き、案内課の前に行く。

(よーし、やるぞー!)

 勇んで中に入り、挨拶。

「雁州まりんです! 本日付けで、案内課に配属となりました! よろしくお願いしましゅ!」

 噛んだ。耳まで真っ赤になるまりん。職場に、笑いが起こる。

 こうして、彼女は鮮烈なデビューを果たしたのであった。

 笑いが収まると、ほかの新入社員ともども、先輩方の自己紹介を受ける。

奈良奏なら・かなでです。雁州さんの指導役を努めます。よろしくね」

 ロングヘアをバレッタでアップにした女性が、優しく微笑む。さっき、まりんの失敗を笑わなかった一人だ。

「はい! よろしくお願いしましゅ!」

 また噛んだ。再び笑いが起こる。しかし、奏は今回も、まりんを笑い者にしなかった。

 優しい先輩だ。まりんは、その優しさに、心がいっぱいになる。

 変な挨拶をしてしまった事を皆に謝罪して、奏に言われ更衣室に入ると、「雁州」と書かれたロッカーに、白基調の真新しい制服と、ネームプレートが入っていた。

 さっそく着替え、プレートを首から下げると、気が引き締まる。

「うんうん、似合ってる、似合ってる」

 奏に褒められると、照れくさくて頬を染めてしまう。

「じゃ、行こうか」

 本館へ向かう、奏とまりん。こうして、まりんの新たな生活が始まった。
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