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第二話 新人教育
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本日休館日につき、本館は案内課の新入社員と、その指導員しかいない。
今まで、何度も足を運んだカンブリアン・アクアリウムが、いつも以上に広く感じる。
「じゃあ、最初のミッション。ゲートから多目的トイレまで、どこにでもお客様をご案内できるよう、頭に叩き込みなさい」
奏の表情は穏やかだが、態度はプロのそれ。
今は、空中画像投影・操作技術……スマホの進化形ともいえる、通称「デバイス」があるが、いちいちそれを見ながら案内しているようでは、プロ失格だ。
二人で本館を練り歩きながら、必死に覚え込むまりん。アノマロカリスの水槽で、あのじろうと出会ったときは、つい感動してしまったが、即座にプロの姿勢に戻る。
「そろそろいいかな。それじゃあ、テストします。シファッソークタムの水槽へ、お子様連れのお客様をご案内しなさい」
「はい!」
子どもの頃から、通い詰めたアクアリウムだ。難なく、水槽にたどり着く。
「不合格」
「ええ!?」
「歩く速度が速すぎます。お子様が、ついていけません。ワンテンポ落としなさい」
「申し訳ありません」
こういうところにも、気を配らないといけないのかと、プロ意識を刺激され、身が引き締まる。
道案内の、訓練を重ねることしばし。
「いいですね。だいぶ様になってきました。では、今度は解説の訓練をしましょう」
教育は、次のステップへ。
「お客様に、アノマロカリスの解説をしなさい」
アノマロカリス! 得意中の得意だ!
「こちら、アノマロカリスになります。カンブリア時代、最大級の生物として有名で、かつてカナダのバージェス頁岩で発見された、エビの胴部ような化石に端を発し――」
水槽の前で、淀みなく解説していく。
「受精後一ヶ月で孵化。その後は、幼生プロトカリア……」
頭が真っ白になる。第二形態の名前を、ド忘れしてしまった!
「デミカリア。もう一度、最初から」
「すみません! こちら、アノマロカリスになります……」
特訓は、続く。特に、得意中の得意だと思っていたアノマロカリスでしくじったのは、屈辱的だった。
「この、前部付属肢で三葉虫などを捕え、捕食するのです」
「よくできました」
ぱちぱちと拍手されると、ほっと、胸をなでおろす。
「次は、お隣のオパビニア」
「はい!」
特訓は、まだまだ続く。
解説訓練が終わると、今度は、他部署の見学。他の部署が、どんな仕事をしてるのか知っておくのも、大事なことだからだ。
まずは、飼育課。
「ひえっ!」
ワサワサ蠢く、三葉虫の群れに引くまりん。
「はっはっは。三葉虫苦手か? よっと!」
三葉虫を、アノマロカリスの水槽に投げ入れる飼育員。
アノマロカリスがわーっと群がって、次々に捕食していく。
シファッソークタムやディノミスクスといった生物の水槽には、プランクトンのマリンスノーを降らせる。
「水質、温度、異常なーし!」
別の水槽からは、チェック結果が報告される。
こんな感じで、飼育課の仕事ぶりを覚えるのであった。
続いて、清掃課。清掃課は、通常のごみ処理や館内清掃をする班と、水槽に潜って、アクリル板や床を拭いたり、沈殿物を清掃する班とに分かれている。
さらに集荷課では、トラックで、グッズやトイレットペーパー、餌、社員用自販機の缶やペットボトルなど、様々なものを搬入していた。
続いて、企画課。あくあが、早速プレゼンしていた。しかし、序盤でダメ出しを受ける。心の中で、応援するのであった。
広報課。パンフレットを刷っていたり、お客様相談センターがある部署だ。
総務課。ここでは、運営に関する様々な雑事を取り扱っている。
経理課、営業課などを回っていき、最後は、エディアカラ別館。カンブリアン・アクアリウムで鑑賞できるのは、カンブリア生物だけではない。エディアカラ生物も展示している。
大きくて円い本館に、小さい円としてくっついているのが特徴。
カンブリア本館に比べると、地味な印象は拭えず、好き者がやってくる場所という感じ。
新人の指導にあたっていた、ショートカットと角縁メガネの女性と目が会い、奏が手を軽く降ると、向こうも軽く会釈する。まりんも、ちょこんと頭を下げる。
同じ案内課でも、カンブリア本館と、エディアカラ別館の職場に、これといった交流はないらしいが、個人的な知り合いなのだろう。
こうして、初日の研修は終了。
奈良先輩から、ねぎらいのジュースを奢ってもらう、まりんであった。
今まで、何度も足を運んだカンブリアン・アクアリウムが、いつも以上に広く感じる。
「じゃあ、最初のミッション。ゲートから多目的トイレまで、どこにでもお客様をご案内できるよう、頭に叩き込みなさい」
奏の表情は穏やかだが、態度はプロのそれ。
今は、空中画像投影・操作技術……スマホの進化形ともいえる、通称「デバイス」があるが、いちいちそれを見ながら案内しているようでは、プロ失格だ。
二人で本館を練り歩きながら、必死に覚え込むまりん。アノマロカリスの水槽で、あのじろうと出会ったときは、つい感動してしまったが、即座にプロの姿勢に戻る。
「そろそろいいかな。それじゃあ、テストします。シファッソークタムの水槽へ、お子様連れのお客様をご案内しなさい」
「はい!」
子どもの頃から、通い詰めたアクアリウムだ。難なく、水槽にたどり着く。
「不合格」
「ええ!?」
「歩く速度が速すぎます。お子様が、ついていけません。ワンテンポ落としなさい」
「申し訳ありません」
こういうところにも、気を配らないといけないのかと、プロ意識を刺激され、身が引き締まる。
道案内の、訓練を重ねることしばし。
「いいですね。だいぶ様になってきました。では、今度は解説の訓練をしましょう」
教育は、次のステップへ。
「お客様に、アノマロカリスの解説をしなさい」
アノマロカリス! 得意中の得意だ!
「こちら、アノマロカリスになります。カンブリア時代、最大級の生物として有名で、かつてカナダのバージェス頁岩で発見された、エビの胴部ような化石に端を発し――」
水槽の前で、淀みなく解説していく。
「受精後一ヶ月で孵化。その後は、幼生プロトカリア……」
頭が真っ白になる。第二形態の名前を、ド忘れしてしまった!
「デミカリア。もう一度、最初から」
「すみません! こちら、アノマロカリスになります……」
特訓は、続く。特に、得意中の得意だと思っていたアノマロカリスでしくじったのは、屈辱的だった。
「この、前部付属肢で三葉虫などを捕え、捕食するのです」
「よくできました」
ぱちぱちと拍手されると、ほっと、胸をなでおろす。
「次は、お隣のオパビニア」
「はい!」
特訓は、まだまだ続く。
解説訓練が終わると、今度は、他部署の見学。他の部署が、どんな仕事をしてるのか知っておくのも、大事なことだからだ。
まずは、飼育課。
「ひえっ!」
ワサワサ蠢く、三葉虫の群れに引くまりん。
「はっはっは。三葉虫苦手か? よっと!」
三葉虫を、アノマロカリスの水槽に投げ入れる飼育員。
アノマロカリスがわーっと群がって、次々に捕食していく。
シファッソークタムやディノミスクスといった生物の水槽には、プランクトンのマリンスノーを降らせる。
「水質、温度、異常なーし!」
別の水槽からは、チェック結果が報告される。
こんな感じで、飼育課の仕事ぶりを覚えるのであった。
続いて、清掃課。清掃課は、通常のごみ処理や館内清掃をする班と、水槽に潜って、アクリル板や床を拭いたり、沈殿物を清掃する班とに分かれている。
さらに集荷課では、トラックで、グッズやトイレットペーパー、餌、社員用自販機の缶やペットボトルなど、様々なものを搬入していた。
続いて、企画課。あくあが、早速プレゼンしていた。しかし、序盤でダメ出しを受ける。心の中で、応援するのであった。
広報課。パンフレットを刷っていたり、お客様相談センターがある部署だ。
総務課。ここでは、運営に関する様々な雑事を取り扱っている。
経理課、営業課などを回っていき、最後は、エディアカラ別館。カンブリアン・アクアリウムで鑑賞できるのは、カンブリア生物だけではない。エディアカラ生物も展示している。
大きくて円い本館に、小さい円としてくっついているのが特徴。
カンブリア本館に比べると、地味な印象は拭えず、好き者がやってくる場所という感じ。
新人の指導にあたっていた、ショートカットと角縁メガネの女性と目が会い、奏が手を軽く降ると、向こうも軽く会釈する。まりんも、ちょこんと頭を下げる。
同じ案内課でも、カンブリア本館と、エディアカラ別館の職場に、これといった交流はないらしいが、個人的な知り合いなのだろう。
こうして、初日の研修は終了。
奈良先輩から、ねぎらいのジュースを奢ってもらう、まりんであった。
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