カンブリアン・アクアリウム

みなはらつかさ

文字の大きさ
13 / 34

第十三話 雨の日

しおりを挟む
 雨の中、五人は職場へと向かう。

 西暦二一三〇年になっても、相変わらず雨具は、傘とレインコート。

 ただし、我々の時代よりは、少々高性能になっていた。

 二十一世紀に発明された、風でお猪口にならない傘や、ハスの葉を応用して作られた「濡れない雨具」は、とっくの昔に特許が切れ、一般でお安く手に入る。

「織田先輩、あのワンピじゃないんですね」

「さすがに、通勤には使わんよ」

 まりんの所感に、苦笑するらいあ。

 彼女は、肘丈袖のブラウスとスラックスである。

「あくあちゃんも、水兵さんルックで出社したら可愛いのに」

「それはいくらなんでも、イタすぎる」

 あくあも、呆れる。

 彼女もまた、オーソドックスな通勤ルック。

「今日は、暇そうですねえ」

 奏、らいあにぼやくまりん。

「そうね。こういう仕事は、どうしても天気に左右されるから……」

 天を仰ぎ、応える奏。

「企画課は、雨の日も晴れの日も、平常運転っす」

 ふーっと息を吐く、あくあ。

「春木さんの企画が、実現するんじゃない。もっと元気だそう?」

 里愛に、励まされる。

「ですねー」

 GWゴールデンウィークを乗り越え、いよいよ絶滅展に向かってプロジェクトが動くが、やはり天気が良くないと、いまいちノリ気になれない。

 そんな弛緩した会話を繰り広げていると、アクアリウムに着いた。

「じゃあ、また後で」

 傘立てに傘をしまい、三人に別れを告げる、あくあと里愛。

「うん、また後で」

 三人も、少し先の案内課に向かうのであった。


 ◆ ◆ ◆


(暇だなー……)

 オダライアの水槽を任された、まりんであるが、客は極めてまばら。

 屋外型レジャー施設など、もっとガラガラだろうと思うと、いくぶんか心の慰めになるが。

 奏が配置された、アノマロカリス水槽は多少マシだが、晴れの日の十分の一も、客がいない。

 別館など、本館以上に暇だろう。

 向かいの水槽の、カナダスピスをぼーっと眺めていると、「あのー」と、不意に声がかけられた。

「はい!」

 男性の、お客様だった。油断大敵。初日のナラオイアのときから、進歩してないなあ、と自戒する。

「オダライア……ですか。これは、どういった生き物なんです?」

「はい。こちら、節足動物でして、チューブ状の殻に包まれているのが特徴です。また、尾びれのうち一つが下を向いており、泳ぐ際、大変舵取りがしやすく……」

 説明すると、「ほお」とか、「ふーん」とか、感心するお客様。

「ありがとう、ためになったよ」

 そう言うと、彼は隣の水槽に移り、別の案内係に質問を始める。

(ふう)

 気を引き締めないと。地獄のGWゴールデンウィークと三連休開けに加えて、雨天だからって、気が緩みすぎだ。


 ◆ ◆ ◆


 一方、企画課は。

「お世話になっております。カンブリアン・アクアリウム企画課の、春木と申します。松戸まつど教授は、いらっしゃいますでしょうか」

 東大に、デバイスで電話するあくあ。

 絶滅展のイベントとして、絶滅に詳しい東大教授を呼んで、トークイベントを繰り広げるというものを予定している。その、アポを取ろうとしている所だ。

「お世話になっております。カンブリアン・アクアリウム企画課の、春木と申します。弊館では、夏休みに、絶滅展というイベントを企画しておりまして……」

 交渉開始。淀みなく、イベントについて解説していく。

「ひいては、教授にトークイベントにご出演いただけないかと思いまして……」

 交渉は、順調だ。

「ありがとうございます。それでは、よろしくお願いいたします。失礼いたします」

 通話を切る。

「面会予約、取り付けました!」

 拳を突き上げるあくあ。

「テンション上げすぎ。でも、おめでとう」

 里愛や、他の社員が、祝ってくれる。

「ありがとうございます!」

 弛緩した顔をする、あくあ。

「好事魔多し。本決まりじゃないし、まだまだ、やることたくさんあるからな。油断するなよ」

「はい!」

 課長に釘を差され、別のプログラムに取り掛かる。

「はい、お祝いの差し入れ」

 里愛から、缶コーヒーをもらう。

「ありがとうございます!」

 よーし、がんばるぞー! と、気合の入るあくあであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

リボーン&リライフ

廣瀬純七
SF
性別を変えて過去に戻って人生をやり直す男の話

処理中です...