カンブリアン・アクアリウム

みなはらつかさ

文字の大きさ
14 / 34

第十四話 あのじろうが大人になるまで

しおりを挟む
 あれから四日経ち、週末。

 企画課は、今日も絶滅展、そしてその後に続くお盆企画のため、大忙しである。

 あくあは、教授と話を詰めるため、挨拶を済ませ、荷物を置くと、東大に向かった。

(お盆と言えば、あのじろうが二十歳になるのか)

 コーヒーを飲みながら、そんな事を思いふける里愛。

 研究所で産まれて、四歳まで過ごし、十五年前の、カンブリアン・アクアリウム開設とともに引っ越してきた、あのじろう。

 長寿記録としてギネスブックにも載り、館の人気者である。

 実際、物販コーナーでは、通常のアノマロカリスぬいぐるみの他に、右ヒレに薄紫のタグを付けた、あのじろうぬいぐるみも売られており、これが、なかなかの売上を誇る。

(よし! あのじろうのお祝いイベントを、企画しよう!)

 さっそくデバイスを操作し、企画書を書き上げる。今割り振られている仕事は、一旦放置だ。

「課長。こちらの企画書をご覧いただきたいのですが」

 ファイルを送信した後、課長の机に向かう。

「んー?」

 ファイルを開くと、「お盆企画 あのじろうが大人になるまで」という大見出しが、まず目に飛び込む。

(そういえば、八月に二十歳になるんだったな。しかし、卵から今までを描いても、面白い企画にならんぞ)

 そう思っていたが、読み進めると、エディアカラ時代のご先祖様から、今に至るまでをシームレスに実写アニメーションで追いかけるという、大層なものだった。

 現代の観測技術を使えば、不可能な話ではないが。

「みんな、波部の企画書を送る。意見をくれ」

 企画書が課内に回されると、「キーとなる種をまとめた、スライドを流すだけでいいのでは?」という、反対意見が出た。

 この時代、生物学にミッシング・リンクというものはなく、高次元観測技術を使えば、一個体からただの有機物まで、シームレスに進化の歴史を遡れる。

 では、どうやって「新種」を選定しているかというと、高次元観測技術・確立以降は、きわめて特異な変異をしたものだけが、新種として学名を与えられるようになっている。

「それは、本企画のついでとして、常設展としてはいかがでしょうか」

 引かない里愛。反対意見は、実際、常設展レベルの内容だ。反対者は、押し黙ってしまった。

「面白い企画だが、とてもお盆には間に合わんな」

 課長の苦言。実際、絶滅展と並行して進める場合、とても時間が足りない。(だめか)と諦める里愛。

「だが、ボツにするにはもったいない企画だ。冬休みの目玉に回そう。それなら、間に合うはずだ」

「……ありがとうございます!」

 深々と、頭を下げる。苦節三年、ついに自分の企画が通った!

 里愛の苦労を知る者からは、「おめでとう」と祝福の言葉がかけられる。

 再び、絶滅展の作業に戻る里愛。

 皆が作業に打ち込んでいると、「ただいま戻りましたー」と、あくあが帰って来る。

「課長! 出演OKいただけました! ただ、初日だけになります」

 皆から、「お疲れ様」「おめでとう」といった言葉を受ける。

「お疲れ。さっそくだが、トークショーのプログラムをまとめてくれ」

「はい!」

 席に戻ると、作業を開始。二日目以降は、初日のトークショーの録画を、流す方向にする。

「課長。この社内アンケートを配布する許可をください。それと、こちらをHPホームページに載せる許可も、お願いします」

 あくあから課長のデバイスに、ファイルが送られてくる。いずれも、「エディアカラ紀とカンブリア紀の絶滅で、興味あることはなんですか?」というものだった。

「許可する」

 さっそく、課長のデバイスから、社内アンケートが配られる。また、広報課にも、質問ページの開設を求めるメッセージを送る。

 絶滅展は、アクアリウム公式HPの「スペシャル」に、すでに特設ページが用意されており、それにくっつける形だ。

 集められたアンケートから、優れたもの、興味深いものを厳選し、トークショーで、教授に尋ねる形にする予定。

「ありがとうございます!」

 絶滅展に向けて、順調に作業が進んでいく。あくあは、じんわりと心の奥が暖かくなった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

処理中です...