カンブリアン・アクアリウム

みなはらつかさ

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第十五話 里愛

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「おめでとうございます!!」

 終業後、寮に帰る途中、里愛の企画が通った事を本人から聞かされると、あくあが彼女の手を握り、我が事のように、ぶんぶん振って喜ぶ。

「おめでとう、里愛」

「おめでとうございます」

 他の三人からも、祝福を受ける。

「ありがとう。ほんとに、嬉しくて……」

 ぽろぽろ泣き出してしまう、里愛。

 奏が、そっとハンカチを差し出すので、礼を言って受け取る。

「明日は、お祝いしましょうよ!」

「えー、大げさだよー。春木さんのとき、缶コーヒーぐらいしかあげてないし」

「いえ、アタシと先輩では、やっぱり苦労の度合いが違いますから!」

 うんうんと、気合を入れて頷くあくあ。

「厚意は、受け取っておくものよ、里愛」

「んー……。そこまで言われちゃ、断れないな。ありがたく、お祝いされることにします」

「やったー!」

 本人以上に上機嫌なあくあを先頭に、寮に帰る一行てあった。


 ◆ ◆ ◆


 翌日、夕食後。

「では、波部先輩の企画採用を祝して……」

 パン! と、クラッカーを鳴らすあくあ。食堂のテーブルにケーキが置かれ、いつもの五人と、里愛と親しい企画課の仲間が、それを囲んでいる。

「それでは、入刀をお願いします」

「えへへ、照れるなあ……」

 ケーキにナイフを入れていく、本日の主役。

 ケーキが皿に切り分けられると、めいめい取っていき、着席する。

 寮は、アルコール飲料持ち込み禁止なので、飲み物はジュースや紅茶だ。

「おめでとー!」

「おめでとーございます!」

 改めて、一同から祝福され、照れくさそうに、もじもじしながら、「ありがとうございます」と、礼を言う。

 楽しく談食し、里愛には一生忘れられない日となった。


 ◆ ◆ ◆


「しかし、結局お盆企画としては、通らなかったのよねえ」

 皆で後片付けしている最中、不意に里愛がこぼす。

 お盆企画は、未だに空白だ。

GWゴールデンウィークみたいに、過去企画の使い回しになりそうだねー」

 企画課仲間の一人が、ため息つきながら言う。

 アクアリウムも、すでに十五周年を迎えようとしている。

 GW、夏休み、お盆、冬休み、春休みと、毎年イベントの機会があり、それを十五年近くもやっていると、さすがにネタ切れになってくるわけで。

 あくあと里愛の連続企画通過は、近年稀に見る快挙だ。

 それに、夏休みとお盆は時期が近く、どちらかが手抜きになりやすい。

「あのじろうの誕生日もそうだけど、アクアリウムもお盆で十五周年だから、なんかやりたくはあるねー」

「とりあえず、子供に風船でも配る?」

「スタンプラリーは、去年やったしなあ……」

 片付けも終わり、ちょっとした企画会議になっていた。

「エディアカラ特集はどうだ!?」

 瞳をキラキラさせる、らいあ。企画課一同、なんともいえない表情になる。

 お盆なら通常以上の集客が見込めるが、それはエディアカラの力ではなく、あくまでお盆の力。

 別館の客の殆どは、カンブリア生物のついでに、見に来ているだけだ。

「気持ちはわかるけど……」

 里愛も、純真ならいあの瞳には、困り顔。

「アタシは実現したいですよ、エディアカラ企画」

 一同が、あくあを見る。

「奈良先輩とも、約束しましたし」

「春木さん、あれはね……」

 暴走したらいあの、機嫌取りだとは言い出せず、言い淀んでしまう。

「アタシ、約束は守るタチなんで」

 困ったな、と思う奏。奏視点でも、エディアカラ企画が成功するとは思えない。

「絶対、なんか考えてみせます!」

 らいあの手を取り、がっしと握るあくあ。

「ありがとう……!」

 目頭が、にじんでしまうらいあであった。

 しばし、間があって。

「あっ!」

 里愛が突然叫ぶ。

「どうしたの?」

 一同が、里愛を見る。

「お盆企画なんだけど、あのじろう缶バッジ、無料配布とかどうかな? あのじろう二十歳と、アクアリウム十五周年の文字も入れて」

「それいいかも!」

 企画課仲間が、パチンと指を鳴らす。

 缶バッジは、生産コストが安い。無料配布しても、それほど予算を圧迫しない。

 特に、一度デザインを工場に発注してしまえば、絶滅展の企画進行の妨げにもならない。

 翌日、缶バッジ企画はあっさり採用され、また一つ、株を上げた里愛であった。
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