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第二章 ウチのダンジョンに冒険者パーティがやって来た!
第一話 ぼったくりダンジョン
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カラリと青空が広がる早朝、カムランのダンジョン入り口にCランク冒険者パーティがやって来た。
リーダーで盾役の重装備の青年エドは、入り口にある自販機で『蘇りのミサンガ』を購入し、メンバーに配った。
「よし、みんな。ミサンガは着けたな? 今回の探索は冒険者ギルドからの依頼で、ダンジョンの定期調査が目的だ。お宝を得ることやモンスター討伐は二の次、三の次だ。いいな?」
「ほい、リーダー。じゃあ、役割分担の確認、お願いしやす」
痩せぎすの盗賊の男が腰に手を当てて促す。
「ザックはもちろん斥候、罠や敵の索敵の他に隠し部屋や通路の探索を念入りに頼む。俺とウィルが前衛、ソフィとサリーは後衛。サリーはマップの記録係を、ソフィは回復役の他に後衛の守りを頼む」
「あいよ、エド」「ほい」「はい」「はぁい」
「サリー、灯かりの魔法を!」
黒の三角帽子に、ローブ姿の眼鏡をかけた少女が呪文を唱えると、パーティの頭上に丸い光の玉が現れて辺りを照らした。
「一階層のモンスターは、スライムとブラック・バットだけらしいが、気を抜くなよ」
パーティ一行は、途中数回グリーンスライムとブラック・バットに遭遇したが、前衛の男二人が問題なく退治した。
「セーフエリアだ。ここを過ぎれば一階層のボス部屋になる。泉の水を汲んで、薬草も採取しておこう」
魔法使いのサリーは、村の冒険者ギルド出張所から購入したダンジョンマップを片手に持ち、モンスターの出現位置と個体数を書き込みながら歩いてきた。ここまではマップ通りで、特に変わったところもない。
泉の水を飲み、水筒に汲んでいると、村人たちが数人、薬草を摘んでいるのが目に入った。
「冒険者さん、おはようございます。これからボス部屋に行かれるんですかい?」
「おはようございます。はい、そうです」
「お気をつけて」
「はい、ありがとうございます」
まだダンジョンに入ってから休憩を取る程時間も経っていないので、水汲みが終わると、一行はそのまま一階層のボス部屋に行く。
一階層のボス部屋に入ると、紫色のスライムとブラック・バットが三匹ずつ現れた!
盾役のリーダー、エドがモンスターを挑発しヘイトを集める。
「あの紫色のスライムは、ポイズンスライムだ、毒に気をつけろ!」
ブラック・バットの群れは、リーダーに襲いかかった。盾で攻撃を防ぎながら、剣で羽を切り落としていく。
戦士のウィルは戦斧を、ポイズンスライムの核を狙って振り下ろす。ヒット! オーバー・キルでポイズンスライムが溶けて行く。
魔法使いサリーは、呪文の詠唱を始める。
その間に、僧侶のソフィは短槍でポイズンスライムを突くが――躱された。
「燃える火の玉よ、敵を焼け!」
サリーの指先から火の玉が出現し、ポイズン・スライムに命中した! ! オーバー・キル。ポイズンスライムは燃えつきた。
もう一匹のポイズンスライムはウィルが倒し、ザックはタガーで地に落ちたブラック・バットにとどめを刺した。
ボス部屋のモンスターをすべて倒すと、モンスターたちは、床に吸い込まれるようにして消え、ドロップアイテムが現れた。エドが拾う。
「あんパンと牛乳だ……パーティの人数分ある」
あんパンは一個ずつ紙袋に入っていて、牛乳は紙パックに密封され、ストローがついている。
盗賊のザックは、ボス部屋に設置された宝箱の前に膝をついた。宝箱には鍵がかかっていたり、罠が仕掛けてあったりするので専門の技術を持った盗賊が慎重に開ける。
「初級回復薬と解毒薬だ。へんな壺も入ってる」
ちょっとがっかりした声で、ザックが告げた。
ギィィィと音がして、ひとりでに部屋の奥の扉が開いた。扉の先に、二階層に降りる階段が見えた。
「二階層は、ポイズンスライムがいるから気をつけろ。もし毒状態になったら、身体に毒が回る前にすぐ解毒薬を服用すること、いいな!」
「「「「はい、リーダー」」」」
階段を降りて行くと、二階層も見た目は同じような洞窟だった。
途中で一度、サリーがポイズンスライムに毒状態にされたが、解毒薬をすぐに使ったので問題なかった。
隠し部屋も通路も、お宝も見つからず、二階層のボス部屋前のセーフエリアにたどり着く。
一行はここで休憩することにする。
「あんパンと牛乳を食べようか」
「「「「賛成!」」」」
セーフエリアにはモンスターは入って来れない。冷たく澄んだ泉とその周りに生えている薬草の薄荷の匂いがかすかに漂っている。
メンバーたちは、泉の側に座って、あんパンを食べた。
「このパン、おいしい~」
「牛乳と合うねぇ」
「甘いもの食べると、疲れが取れるぜ」
ウィルはあんパンをぺろりと食べ終わると、名残惜しそうに指を舐めた。
「次の二階層ボス部屋のドロップアイテムは、すごく珍しいお菓子だって聞いたよ!」
ソフィが弾んだ声で言った。
「チョコレートって言うんだよ。このミズガルズ大陸では手に入らない、木の実から作られているんだって」
物知りなサリーが説明した。
「全く! このダンジョンのお宝は、食うもんしかねぇのか」
吐き捨てるように言うザック。
「まあまあ。今回は冒険者ギルドからの依頼なんだからさ。ダンジョンを調べて報告すれば、報酬がもらえるんだから。いいじゃないか、お宝が食いモンでも」
リーダーのエドがなだめると、ザックはしぶしぶ頷いた。
「よし、みんな。二階層のボス戦はゴブリンだから、楽勝だと思うけど、油断するなよ」
「「「「はい!」」」」
油断するなと、一応リーダーが言っても、ゴブリンは弱いのだ。集団ならともかく、数匹だったらこのパーティなら瞬殺だろう。
危機感などあるはずもなく、二階層のボス部屋へと進んだ。
ボス部屋に入ると、背後でギィィと音がしてバタンと扉が閉まる。戦いが終わるまで、この部屋から出ることは出来ない。
霧で霞んだ部屋の中が晴れると、ゴブリンが5匹、ポイズンスライムが3匹現れた。
「ええっ、なんかモンスターの様子が、ギルドから聞いてたのと、違わない?!」
ソフィが叫んだ。
「ゴブリンの装備が、布と棍棒じゃない?! なんだあれ、見たことない武器持っているぞ?」
当惑した様子のウィル。
「お前ら、集中しろ! 先制攻撃が来るぞ!」
リーダーが前に出てヘイトを掛けて、盾をかざした。
ゴブリンA・B・C・D・Eは、同時にクロスボウで矢を射た!
エドの手を矢が掠めた。
ソフィの足に矢が刺さった。
ウィルの頬に矢が掠めた。
サリーの腕に矢が刺さった。
ザックの胸に矢が刺さった。
パーティ全員がマヒ状態になり、戦闘不能になった。パーティは全滅した――。
――『蘇りのミサンガ』により、死に戻りました――
ダンジョンの入り口に戻された、パーティ一行は。
「「「「「何これ――?! 聞いてないよ――!!」」」」」
空に向かって、口々に叫んだ。
◆◇
「あのな、お前らやり過ぎじゃないか? 先制攻撃でいきなりパーティ全滅にさせちゃって」
ゴブリン達はうなだれて立っている。
「だってディーンさま、いつも来るDランクやEランクの連中と違う、Cランク冒険者パーティがフル装備で来るから、オラ達おっかなくて……つい」
「クロスボウで、麻痺薬塗った矢を当てちゃったのか」
「ヘェ、すんません」
――まあ、仕方ないか。
「なぁ、アーサー、どう思う?」
「うーん。二階層のボス部屋で、中堅パーティ全滅はダンジョンとして、バランスが悪いな。ろくなお宝もない上に、ひとりに付き大銀貨一枚のミサンガも使用させている」
「お宝は、魔法の壺を奮発したんだ!」
魔女から購入したあの壺は、高いんだぞ。
「……でも死に戻りだから、あの人たち、お宝持って出られなかったじゃないか。ぼったくりダンジョン、と言われなきゃいいけど」
「ぼったくり……?!」
ガーン。ショックだ……。良心的なダンジョン運営を、これまで心がけて来たのに……。
リーダーで盾役の重装備の青年エドは、入り口にある自販機で『蘇りのミサンガ』を購入し、メンバーに配った。
「よし、みんな。ミサンガは着けたな? 今回の探索は冒険者ギルドからの依頼で、ダンジョンの定期調査が目的だ。お宝を得ることやモンスター討伐は二の次、三の次だ。いいな?」
「ほい、リーダー。じゃあ、役割分担の確認、お願いしやす」
痩せぎすの盗賊の男が腰に手を当てて促す。
「ザックはもちろん斥候、罠や敵の索敵の他に隠し部屋や通路の探索を念入りに頼む。俺とウィルが前衛、ソフィとサリーは後衛。サリーはマップの記録係を、ソフィは回復役の他に後衛の守りを頼む」
「あいよ、エド」「ほい」「はい」「はぁい」
「サリー、灯かりの魔法を!」
黒の三角帽子に、ローブ姿の眼鏡をかけた少女が呪文を唱えると、パーティの頭上に丸い光の玉が現れて辺りを照らした。
「一階層のモンスターは、スライムとブラック・バットだけらしいが、気を抜くなよ」
パーティ一行は、途中数回グリーンスライムとブラック・バットに遭遇したが、前衛の男二人が問題なく退治した。
「セーフエリアだ。ここを過ぎれば一階層のボス部屋になる。泉の水を汲んで、薬草も採取しておこう」
魔法使いのサリーは、村の冒険者ギルド出張所から購入したダンジョンマップを片手に持ち、モンスターの出現位置と個体数を書き込みながら歩いてきた。ここまではマップ通りで、特に変わったところもない。
泉の水を飲み、水筒に汲んでいると、村人たちが数人、薬草を摘んでいるのが目に入った。
「冒険者さん、おはようございます。これからボス部屋に行かれるんですかい?」
「おはようございます。はい、そうです」
「お気をつけて」
「はい、ありがとうございます」
まだダンジョンに入ってから休憩を取る程時間も経っていないので、水汲みが終わると、一行はそのまま一階層のボス部屋に行く。
一階層のボス部屋に入ると、紫色のスライムとブラック・バットが三匹ずつ現れた!
盾役のリーダー、エドがモンスターを挑発しヘイトを集める。
「あの紫色のスライムは、ポイズンスライムだ、毒に気をつけろ!」
ブラック・バットの群れは、リーダーに襲いかかった。盾で攻撃を防ぎながら、剣で羽を切り落としていく。
戦士のウィルは戦斧を、ポイズンスライムの核を狙って振り下ろす。ヒット! オーバー・キルでポイズンスライムが溶けて行く。
魔法使いサリーは、呪文の詠唱を始める。
その間に、僧侶のソフィは短槍でポイズンスライムを突くが――躱された。
「燃える火の玉よ、敵を焼け!」
サリーの指先から火の玉が出現し、ポイズン・スライムに命中した! ! オーバー・キル。ポイズンスライムは燃えつきた。
もう一匹のポイズンスライムはウィルが倒し、ザックはタガーで地に落ちたブラック・バットにとどめを刺した。
ボス部屋のモンスターをすべて倒すと、モンスターたちは、床に吸い込まれるようにして消え、ドロップアイテムが現れた。エドが拾う。
「あんパンと牛乳だ……パーティの人数分ある」
あんパンは一個ずつ紙袋に入っていて、牛乳は紙パックに密封され、ストローがついている。
盗賊のザックは、ボス部屋に設置された宝箱の前に膝をついた。宝箱には鍵がかかっていたり、罠が仕掛けてあったりするので専門の技術を持った盗賊が慎重に開ける。
「初級回復薬と解毒薬だ。へんな壺も入ってる」
ちょっとがっかりした声で、ザックが告げた。
ギィィィと音がして、ひとりでに部屋の奥の扉が開いた。扉の先に、二階層に降りる階段が見えた。
「二階層は、ポイズンスライムがいるから気をつけろ。もし毒状態になったら、身体に毒が回る前にすぐ解毒薬を服用すること、いいな!」
「「「「はい、リーダー」」」」
階段を降りて行くと、二階層も見た目は同じような洞窟だった。
途中で一度、サリーがポイズンスライムに毒状態にされたが、解毒薬をすぐに使ったので問題なかった。
隠し部屋も通路も、お宝も見つからず、二階層のボス部屋前のセーフエリアにたどり着く。
一行はここで休憩することにする。
「あんパンと牛乳を食べようか」
「「「「賛成!」」」」
セーフエリアにはモンスターは入って来れない。冷たく澄んだ泉とその周りに生えている薬草の薄荷の匂いがかすかに漂っている。
メンバーたちは、泉の側に座って、あんパンを食べた。
「このパン、おいしい~」
「牛乳と合うねぇ」
「甘いもの食べると、疲れが取れるぜ」
ウィルはあんパンをぺろりと食べ終わると、名残惜しそうに指を舐めた。
「次の二階層ボス部屋のドロップアイテムは、すごく珍しいお菓子だって聞いたよ!」
ソフィが弾んだ声で言った。
「チョコレートって言うんだよ。このミズガルズ大陸では手に入らない、木の実から作られているんだって」
物知りなサリーが説明した。
「全く! このダンジョンのお宝は、食うもんしかねぇのか」
吐き捨てるように言うザック。
「まあまあ。今回は冒険者ギルドからの依頼なんだからさ。ダンジョンを調べて報告すれば、報酬がもらえるんだから。いいじゃないか、お宝が食いモンでも」
リーダーのエドがなだめると、ザックはしぶしぶ頷いた。
「よし、みんな。二階層のボス戦はゴブリンだから、楽勝だと思うけど、油断するなよ」
「「「「はい!」」」」
油断するなと、一応リーダーが言っても、ゴブリンは弱いのだ。集団ならともかく、数匹だったらこのパーティなら瞬殺だろう。
危機感などあるはずもなく、二階層のボス部屋へと進んだ。
ボス部屋に入ると、背後でギィィと音がしてバタンと扉が閉まる。戦いが終わるまで、この部屋から出ることは出来ない。
霧で霞んだ部屋の中が晴れると、ゴブリンが5匹、ポイズンスライムが3匹現れた。
「ええっ、なんかモンスターの様子が、ギルドから聞いてたのと、違わない?!」
ソフィが叫んだ。
「ゴブリンの装備が、布と棍棒じゃない?! なんだあれ、見たことない武器持っているぞ?」
当惑した様子のウィル。
「お前ら、集中しろ! 先制攻撃が来るぞ!」
リーダーが前に出てヘイトを掛けて、盾をかざした。
ゴブリンA・B・C・D・Eは、同時にクロスボウで矢を射た!
エドの手を矢が掠めた。
ソフィの足に矢が刺さった。
ウィルの頬に矢が掠めた。
サリーの腕に矢が刺さった。
ザックの胸に矢が刺さった。
パーティ全員がマヒ状態になり、戦闘不能になった。パーティは全滅した――。
――『蘇りのミサンガ』により、死に戻りました――
ダンジョンの入り口に戻された、パーティ一行は。
「「「「「何これ――?! 聞いてないよ――!!」」」」」
空に向かって、口々に叫んだ。
◆◇
「あのな、お前らやり過ぎじゃないか? 先制攻撃でいきなりパーティ全滅にさせちゃって」
ゴブリン達はうなだれて立っている。
「だってディーンさま、いつも来るDランクやEランクの連中と違う、Cランク冒険者パーティがフル装備で来るから、オラ達おっかなくて……つい」
「クロスボウで、麻痺薬塗った矢を当てちゃったのか」
「ヘェ、すんません」
――まあ、仕方ないか。
「なぁ、アーサー、どう思う?」
「うーん。二階層のボス部屋で、中堅パーティ全滅はダンジョンとして、バランスが悪いな。ろくなお宝もない上に、ひとりに付き大銀貨一枚のミサンガも使用させている」
「お宝は、魔法の壺を奮発したんだ!」
魔女から購入したあの壺は、高いんだぞ。
「……でも死に戻りだから、あの人たち、お宝持って出られなかったじゃないか。ぼったくりダンジョン、と言われなきゃいいけど」
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