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第三章 ウチのダンジョンに討伐軍がやって来た!
第二話 老賢者の魔法教室
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わしは、賢者のアールじゃ。つい半月前まで、賢者の塔に属していた。ギルドの要請で、Sランクパーティのメンバーのひとりとしてこのダンジョンの攻略をしたのが運のつきだった。
今や……。
ダンジョン草原エリアの村里の一日は、日の出と共に始まる。ダンジョンなのに草原があって、日の出も日没もあるんじゃわい。
早朝、畑や果樹園に行ってまずは収穫作業をする。ひと仕事していい具合に腹を空かせたところで、ハーフエルフの娘さん達が朝飯を作って届けてくれる。今日は焼きおにぎりに、豚汁、煮卵、芋の煮っころがし、お新香か。早起きして汗をかいた後の飯が上手い。
「今日はこの後、大根とほうれん草の種まきをして、タマネギの苗を植えるだよ~」
ゴブリン村長が畑仕事を指示する。
「「「はいよ~」」」
「賢者のアールどんは、上がって銭湯行っとくれ~」
「それじゃあ、わしはお先に失礼します」
「「「お疲れ様~、子供たちをよろしく頼みますだよ~」」」
早朝の農作業を終え、朝飯をみんなで食べた後は、村里の銭湯でさっぱりと汗を流す。
ここに来る前は、賢者の塔の研究室で一日中古文書を読み解いたりして、昼夜逆転の生活をしとった。それが今は、夜明けと共に起き、適度に汗をかき、三食きちんと食べ、夜は早く休む。健康的な生活を送っているせいか、体調もすこぶる良い。
ひと風呂浴びたら、ゴブリン・オークの子供たちの学校の先生に早変わりじゃ。学校と行っても、鬼たちは屋内でじっと座って勉強する性分ではないので、野外教室で実践的な魔法を教え、練習させる。
「今日も魔力操作の基礎訓練じゃ。基礎は大事だからのぅ」
「「「「「はぁ~い」」」」」
草原に鬼の子供たちを一列に並べ、体内の魔力を全身に巡らせてから、突き出した両手に魔力を集める練習をさせる。
その時、ドドドドドド……と、音を立て土埃を撒き上げながら、灰色狼に跨った鬼の子供たちの一団が、わしらの前を駆け抜けた。
「「「「「ゲホッ、ゲホッ」」」」」
土埃に咳込んでいると、後ろから馬に乗った騎士ローランドがやって来て、謝った。
「すまんな、アール」
ちらりと振り向きざまに片手を上げて、キラリと白い歯を光らせ、そのまま駆けて行く。
ローランドはゴブリン・ナイトの子供たちを訓練しているのだった。
「「「「いいなあ~。おら達も狼に乗りたい」」」」
ゴブリン・ソーサラーやオーク・シャーマンの子供たちが、羨ましそうに狼に騎乗したゴブリン達を見ている。
「お前たちは、魔法に適性があるんじゃ。魔法の使い手もカッコいいんじゃぞ?」
ピカッ、ドカーン!!
わしは、前方にある木の切り株に、稲妻を落とした。
「「「「おお~っ! すげぇ~!!」」」」
「そうじゃろう、そうじゃろう」
切り株は黒煙を上げて、ぶすぶすと炎を上げている。
「さあ、お前達もそれぞれの属性魔法を撃ってみるのじゃ!」
「よーし! 火球」
「土球」
「水球」
「風球」
「あ、こらっ。ちゃんと標的を狙ってやるんじゃぞ? うぉっ!?」
いや、鬼の子供たちは、ちゃんと狙いを定めていた。
――わしにかっ。
「ゴラァァァァァ――っ!! 光の盾!!」
空中に現れた光の盾に、子供たちの初級魔法が当たって砕けて行く。
「「「「おお~っ ! おっさん、すげぇ~!!」」」」
「おっさんじゃないわ、先生じゃ、バカたれめっ」
ゴツン、ゴツン、ゴツン、ゴツンッ!
杖で頭にコツをくれてやる。
「「「「「うぇ~んっ」」」」」
「ア――――――ル、大人げないぞ~」
振り向くと、聖女ヴィオラとハーフエルフの母親が、昼食の入ったバスケットを持って立っていた。
「おや、もう昼飯の時間か」
「「「「「わ――いっ!」」」」」
涼やかな風の吹く草原で、村里の女達が心を込めて作った弁当を食べる。
「このミートパイは、なかなかの味じゃの」
「村長のおかみさんの十八番なんですって」
竹筒の水筒に入った冷たい井戸水を、ヴィオラから受け取る。
「おぬし、疲れているようじゃな?」
「明け方に、オークの里で五つ子が生まれたからねぇ……」
ヴィオラは、癒し手のスキルを見込まれて、産婆の仕事を主にしているのだった。
「ねぇ、アール。もうしばらくしたら、ギルドか国かフレイア教団が、本格的にここのダンジョン攻めて来るわよね」
「ああ、そうじゃな」
「ここに来たばかりの時は、はやく他のパーティか軍か聖騎士団が、救助に来ないかなって思ってたんだけど」
「うむ」
ハーフエルフの若い母親が、子供たちにサンドイッチやりんごを配っているのを見ながら、わしらはため息をついた。
「この平和な村里が破壊しつくされるのを見るのは、辛いのぅ……」
「わたしだって、せっかく取り上げた赤ん坊が殺されるのは……」
何とか穏便に行かないものかのう……。
今や……。
ダンジョン草原エリアの村里の一日は、日の出と共に始まる。ダンジョンなのに草原があって、日の出も日没もあるんじゃわい。
早朝、畑や果樹園に行ってまずは収穫作業をする。ひと仕事していい具合に腹を空かせたところで、ハーフエルフの娘さん達が朝飯を作って届けてくれる。今日は焼きおにぎりに、豚汁、煮卵、芋の煮っころがし、お新香か。早起きして汗をかいた後の飯が上手い。
「今日はこの後、大根とほうれん草の種まきをして、タマネギの苗を植えるだよ~」
ゴブリン村長が畑仕事を指示する。
「「「はいよ~」」」
「賢者のアールどんは、上がって銭湯行っとくれ~」
「それじゃあ、わしはお先に失礼します」
「「「お疲れ様~、子供たちをよろしく頼みますだよ~」」」
早朝の農作業を終え、朝飯をみんなで食べた後は、村里の銭湯でさっぱりと汗を流す。
ここに来る前は、賢者の塔の研究室で一日中古文書を読み解いたりして、昼夜逆転の生活をしとった。それが今は、夜明けと共に起き、適度に汗をかき、三食きちんと食べ、夜は早く休む。健康的な生活を送っているせいか、体調もすこぶる良い。
ひと風呂浴びたら、ゴブリン・オークの子供たちの学校の先生に早変わりじゃ。学校と行っても、鬼たちは屋内でじっと座って勉強する性分ではないので、野外教室で実践的な魔法を教え、練習させる。
「今日も魔力操作の基礎訓練じゃ。基礎は大事だからのぅ」
「「「「「はぁ~い」」」」」
草原に鬼の子供たちを一列に並べ、体内の魔力を全身に巡らせてから、突き出した両手に魔力を集める練習をさせる。
その時、ドドドドドド……と、音を立て土埃を撒き上げながら、灰色狼に跨った鬼の子供たちの一団が、わしらの前を駆け抜けた。
「「「「「ゲホッ、ゲホッ」」」」」
土埃に咳込んでいると、後ろから馬に乗った騎士ローランドがやって来て、謝った。
「すまんな、アール」
ちらりと振り向きざまに片手を上げて、キラリと白い歯を光らせ、そのまま駆けて行く。
ローランドはゴブリン・ナイトの子供たちを訓練しているのだった。
「「「「いいなあ~。おら達も狼に乗りたい」」」」
ゴブリン・ソーサラーやオーク・シャーマンの子供たちが、羨ましそうに狼に騎乗したゴブリン達を見ている。
「お前たちは、魔法に適性があるんじゃ。魔法の使い手もカッコいいんじゃぞ?」
ピカッ、ドカーン!!
わしは、前方にある木の切り株に、稲妻を落とした。
「「「「おお~っ! すげぇ~!!」」」」
「そうじゃろう、そうじゃろう」
切り株は黒煙を上げて、ぶすぶすと炎を上げている。
「さあ、お前達もそれぞれの属性魔法を撃ってみるのじゃ!」
「よーし! 火球」
「土球」
「水球」
「風球」
「あ、こらっ。ちゃんと標的を狙ってやるんじゃぞ? うぉっ!?」
いや、鬼の子供たちは、ちゃんと狙いを定めていた。
――わしにかっ。
「ゴラァァァァァ――っ!! 光の盾!!」
空中に現れた光の盾に、子供たちの初級魔法が当たって砕けて行く。
「「「「おお~っ ! おっさん、すげぇ~!!」」」」
「おっさんじゃないわ、先生じゃ、バカたれめっ」
ゴツン、ゴツン、ゴツン、ゴツンッ!
杖で頭にコツをくれてやる。
「「「「「うぇ~んっ」」」」」
「ア――――――ル、大人げないぞ~」
振り向くと、聖女ヴィオラとハーフエルフの母親が、昼食の入ったバスケットを持って立っていた。
「おや、もう昼飯の時間か」
「「「「「わ――いっ!」」」」」
涼やかな風の吹く草原で、村里の女達が心を込めて作った弁当を食べる。
「このミートパイは、なかなかの味じゃの」
「村長のおかみさんの十八番なんですって」
竹筒の水筒に入った冷たい井戸水を、ヴィオラから受け取る。
「おぬし、疲れているようじゃな?」
「明け方に、オークの里で五つ子が生まれたからねぇ……」
ヴィオラは、癒し手のスキルを見込まれて、産婆の仕事を主にしているのだった。
「ねぇ、アール。もうしばらくしたら、ギルドか国かフレイア教団が、本格的にここのダンジョン攻めて来るわよね」
「ああ、そうじゃな」
「ここに来たばかりの時は、はやく他のパーティか軍か聖騎士団が、救助に来ないかなって思ってたんだけど」
「うむ」
ハーフエルフの若い母親が、子供たちにサンドイッチやりんごを配っているのを見ながら、わしらはため息をついた。
「この平和な村里が破壊しつくされるのを見るのは、辛いのぅ……」
「わたしだって、せっかく取り上げた赤ん坊が殺されるのは……」
何とか穏便に行かないものかのう……。
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