ウチのダンジョンに幼馴染の勇者(♀)がやって来た!

雪月華

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第三章 ウチのダンジョンに討伐軍がやって来た!

第七話 討伐軍がやって来た

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「わぁお、五、六百人くらい居るねぇ」

 ついにティンタジェル神聖王国とフレイア教団の合同討伐軍が、オレのダンジョンにやって来た。

 今、モニターに映っているのは、ダンジョン入り口につけているカメラからの映像だ。

 入り口前の広場で整列した軍を前に、ピカピカの甲冑に柄に宝石の嵌った長剣を腰に吊るした禿げ頭の髭オヤジが、折りたたみ式の椅子の上に立って、唾を飛ばし腕を振り回して演説している。髭オヤジの後ろには、魔術師と聖騎士ランスロット、司教、冒険者らしい二名が立っていた。

 アーサーは隊列を観察して「あれは赤狼傭兵団だ」と呟いた。

 一口に狼人族と言っても、取りまとめ役の部族長は金狼族がやっているが、銀狼、黒狼、青狼、赤狼などいくつもの部族がある。中には報酬次第で、王国や教団に雇われる傭兵家業をやっている狼人の群れもあるのだった。

「赤狼の戦士は狂戦士バーサーカー化するんだけど、なるほど……それであの隊列か」

「どういうこと?説明してくんなきゃ、わからないぞ」

「うん。縦に隊列が並んでいるんだ。騎士団と赤狼傭兵団、魔法使いと教団の修道士や修道女。あれはダンジョン攻略のために、5人ずつのパーティ編成をして、全部で50組くらいで攻略する気だ。他に伝令、衛生部隊、補給部隊もいるけど」

 ノートに敵軍の戦力を走り書きしながら、アーサーは説明してくれた。

「階ごとのボス部屋は、一度に5人までしか入れないから、考えてるな」

「数で力押しって訳じゃないみたいだね。赤狼だけど、狂戦士バーサーカー化すると、敵味方かまわず、全滅するまで戦うんだ。あのパーティ編成は、ジョーカーの赤狼を一人ずつ組み込んでる」

「げっ、なんだよそれ……」

 味方も殺しちまうのかよ。赤狼って、ぱねェなぁ。

「補給部隊の数が思ったより少ないな。……短期決戦のつもりか」

「じゃあ、プランBだな」

 プランBとは、敵を懐深くおびき寄せて、殲滅させる作戦だ。今回は相手を見ながら柔軟に作戦を変更するために、何通りもプランを考えていた――主にアーサーが。それで、村里のみんなが覚えやすいように、凝ったネーミングはやめよう、という事になってしまった。とても残念だ――主にオレが。


 禿げ頭の髭オヤジの演説が終わると、合同軍は入り口の自販機のミサンガを購入して身に着け始めた。

 今回、『蘇りのミサンガ』を改め、『ただのミサンガ』を販売することにした。値段は、大銀貨1枚から銀貨1枚に1/5に値下げしている。名前の通り、加護なしのただのミサンガだけど、気休めにでも買ってくれればウチの収入になる。ちなみにミサンガの制作は、村里の子供たちがやってくれた。


 人族の戦士と忍者の冒険者が、自販機の前で何か話している。

 リモコンボタンで音量を上げてみた。


「ハンゾー、この自販機のボタンのプレートに『ただのミサンガ』と刻まれているぞ。前来た時は『蘇りのミサンガ』だったよな?」

「うむ。鑑定スキル持ちの宮廷魔術師に、見てもらった方がいいでござる」

 二人が魔術師にミサンガを持って行き、鑑定スキルで調べてもらう。

「これは、なんの加護も付与エンチャントもされていない。ただの糸くずだ」

 魔術師の言葉に、禿げオヤジが真っ赤になって怒り、ミサンガを投げ捨てた。討伐軍にも動揺が走る。


 それをモニターで見ていたアーサーは「さっそく、バレちゃったね」と笑った。

「でも30個近く売れた。討伐に来といて、オレの加護をもらおうなんて、ずうずうしいにもほどがある」

「見て、ミサンガなしで入って行くよ」

「ああ。まずはお手並み拝見するか」


 討伐軍は5人パーティ×3単位で行動していて、上層階洞窟エリアを慎重に進んでいた。ボス部屋をクリアした後も、次のパーティのボス戦が終わって3パーティが揃うまで先に進まないなど、規律もしっかりしているようだ。

 6階層からは、先陣隊にいる忍者が罠の探索にあたり、落とし穴はことごとく発見されて、埋め立てられていく。やがて10階層までの洞窟エリアすべてが制圧された。

 ゴーレムとの戦いで負傷者もそれなりに出ているが、セーフエリアに待機する衛生部隊によって治療が行われ、再びパーティ編成される。脱落者は数人程度だった。

 先陣隊からの伝令が、ダンジョン入り口の外に設置された将軍をトップとする幕僚本部に、10階層制圧の知らせを伝える。

「よし、最下層に向けてそのまま進め! 残りの合同軍も先陣隊に続いて投入せよ!」


 将軍が檄を飛ばすと、討伐軍はさらに最下層目指して、地中深く行進して行くのだった。

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