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第四章 ウチのダンジョンから聖都へ出張した!
第十話 協定の申し込み
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王都中央広場で竜化してひと暴れ? した後、地下二階層の会議室風マスタールームに戻ると、アーサーが出迎えてくれた。
竜化したせいで服が破けてしまったので、広場でのびている人の外套を借りて着ている。
「怪我、したのか?」
袖口の血のシミを見て、アーサーが青ざめた。
「大丈夫、もう治ってる」
アーサーがオレの背中に手を回し、肩に顔を埋めた。オレも彼女を抱きしめた。
震えるアーサーの肩に手をやり、髪を撫でる。
「ママ~、あのお兄ちゃんたち……」
「しっ、見るんじゃありませんっ」
――あ、赤狼人族の母子が隅っこでこっちを見てたよ。
頬を赤らめてアーサーが、オレから離れた。
「こほん。えっと。『希望の光』のメンバーの身内も避難して来るから、取りあえずDPでみんなが休める部屋を作っておくか」
DPはたくさんあるので、宿屋風の風呂付の客室を幾つか作った。
みんなには好きな部屋で休んでもらって、食事や衣類などもアーサーが希望を聞いてから配ると、すごく喜んでくれた。
「私達の命を救ってくださった上に、こんなに良くしていただいて。本当に、ありがとうございます」
子供達の母親に、何度も頭を下げて礼を言われた。
「後で赤狼人傭兵団のいるカムランに送るよ。それまでゆっくり休んで」
そうこうしているうちに、『希望の光』達も戻って来た。隻眼の冒険者ギルドマスターも一緒だった。
彼らは新しくできた客室を見て回り、浴室に入って取りつけられたシャワーや浴槽に、感嘆の声を上げた。
「おお、高級宿屋のようですね。こちらは、最新式魔道具付きの風呂ですか」
『希望の光』とその関係者にも好きな部屋を使ってもらう。
落ち着いたところで、オレ達は会議室に集まった。これからどうするのか、話し合うために。
「まあ、もうすでに、ディーンの勝ちが決まっとるでのぅ。あとは落としどころをどうつけるか、じゃな」
会議室のドリンクバーのお茶を飲みながら、賢者アール、オレの師匠が口を開いた。
「敵の本拠地を抑えちゃったからね。ソーンの兵法『九地篇』先ずその愛する所を奪わば、即ち聴かん。えへん」
つまり、まず敵が大切にしているものを奪取してしまえば、こちらの思い通りにできる、という意味。
偉大な軍師ソーンも、敵の大軍が攻め込んできた時、逆に敵の首都に向けて侵攻して、あわてて引き返してきた敵を迎え撃ち、寡兵で大軍を破ったという。
「そこで、冒険者ギルドで両者のお力になりたく、『希望の光』に頼んで、こちらに同行させていただきました」
ソファから立ち上がったギルドマスターは、オレにお辞儀をした。
オレは師匠に、何でこいつを連れて来たの? と目で問いかけた。
「ディーンが、王国や教団との話を付けるために、第三者的な立場で仲介する者が必要だと思ったから、ギルドマスターを連れて来たのじゃ」
なるほど……さすが師匠。冒険者ギルドは、各国にネットワークを持ち、ある意味国家を超越しているところがあるもんな。
「賢者アールさんから、ダンジョンマスターのディーンさまは、いたずらに流血を望んでいないと伺いました。そうであれば、王都に新たな迷宮の発現は、王国にとっても資源と観光をもたらす吉事となります。ダンジョンと王国が、互いにとって利益となるよう、ぜひともギルドに王国との懸け橋に冒険者ギルドをお使いいただきたく、お願いに上がりました」
みんなで話し合った結果、王国と教団に対する要求は――オレ達に敵対しない限り、こちらも手を出さない。王都の迷宮も『死に戻り』機能付きの、死者を出さないダンジョンにする、というものにした。
それと、アーサーとSランクパーティ『希望の光』、赤狼人族にも、自由と名誉の回復の約束を求めることにした。
「それで、ディーンさま。王都ダンジョンはどのような迷宮にされるおつもりですか?」
まあ、それは知りたいよね、冒険者ギルドとしても。
「まだ何にも考えてないけど、みんなが楽しめるダンジョンにしたいな。採用するかどうか分からないけど、希望があったら言ってみてよ」
軽い気持ちで口にしたこの言葉が、のちにミズガルズ大陸の一大テーマパーク、観光スポットとなるダンジョンを生み出すきっかけになるとは、この時はまだ、夢にも思わなかった。
こちらの要求と譲歩を書き留めると、ギルドマスターは王国と教団に、話しを持って行くために帰って行った。
『希望の光』のメンバーには、これからどうするつもりか聞いてみた。
師匠は賢者の塔で研究を続け、聖女は各地のフレイア教の教区を回るという。つまり今まで通り。
暗殺者や騎士、魔法剣士は王国を出るという。騎士は恋人の獣人の祖国で所帯を持ち、暗殺者と魔法剣士は更なる冒険を求めて旅をするそうだ。
みんなの後押しは最大限してあげたい。オレは必要なものを、遠慮なくリストアップするよう告げた。
「おお、太っ腹だね、ディーン君。私達はSランク冒険者なんで、お金で手に入るものは興味ないんだ。ダンジョンでないと、手に入らないレア・アイテムをぜひとも頼むよ」
リーダーの騎士が、ほんとに遠慮なしに、言ってきたよ! まあ、いいさ。村里で鬼たちの子供が世話になったらしいし。
王国を出るメンバーには、旅をするのに必要な駿馬や、土中蟲の特殊部位で作られた魔法の鞄をDPで出してやった。
「いいなぁ~。私にも何か頂戴」
聖女には、癒しの魔法を増幅させる杖を渡すと、師匠も期待に満ちた顔でオレを見た。
「わしは、古代魔法帝国の魔法書がいいな」
はいはい。DPで古代魔法帝国の魔法書全十二巻を取り出すと、師匠は驚いてガタガタと震え出す。
「このように、破損のない最高の保存状態で……。これは世界的な大発見じゃ……」
一段落ついた所で、赤狼人族の母子をカムランまで、ダンジョン転移で連れて行った。
傭兵達は、草原エリアで牧場を作り、羊を飼っていた。狼が羊を飼うってどうなのかな。
親子の再会は涙ぐましく、感動的だった。赤狼人の子供達は、村里の鬼の子供達とさっそく仲良く遊び始めている。
村里の鬼たちとも仲良くやれそうなので、一安心かな。
そして、再び王都に戻ると、ギルドマスターが王国からの返事を携えて来た。
こちらの要求を呑み、協定を交わしたいと。
その調印の際には、オレとアーサーに大聖堂まで来て欲しいということだった。
「罠かもしれない。大聖堂には結界が張ってあるんだ」
うん。アーサーの心配はもっともだけど。
「いいよ、行こう。アーサーのお父さん……教皇は、聖騎士たちに追われていた時、助けてくれたんだ」
「ディーンが、そう言うなら」
こうしてオレとアーサーは大聖堂で、王国とフレイア教団に決着をつけることになった。
竜化したせいで服が破けてしまったので、広場でのびている人の外套を借りて着ている。
「怪我、したのか?」
袖口の血のシミを見て、アーサーが青ざめた。
「大丈夫、もう治ってる」
アーサーがオレの背中に手を回し、肩に顔を埋めた。オレも彼女を抱きしめた。
震えるアーサーの肩に手をやり、髪を撫でる。
「ママ~、あのお兄ちゃんたち……」
「しっ、見るんじゃありませんっ」
――あ、赤狼人族の母子が隅っこでこっちを見てたよ。
頬を赤らめてアーサーが、オレから離れた。
「こほん。えっと。『希望の光』のメンバーの身内も避難して来るから、取りあえずDPでみんなが休める部屋を作っておくか」
DPはたくさんあるので、宿屋風の風呂付の客室を幾つか作った。
みんなには好きな部屋で休んでもらって、食事や衣類などもアーサーが希望を聞いてから配ると、すごく喜んでくれた。
「私達の命を救ってくださった上に、こんなに良くしていただいて。本当に、ありがとうございます」
子供達の母親に、何度も頭を下げて礼を言われた。
「後で赤狼人傭兵団のいるカムランに送るよ。それまでゆっくり休んで」
そうこうしているうちに、『希望の光』達も戻って来た。隻眼の冒険者ギルドマスターも一緒だった。
彼らは新しくできた客室を見て回り、浴室に入って取りつけられたシャワーや浴槽に、感嘆の声を上げた。
「おお、高級宿屋のようですね。こちらは、最新式魔道具付きの風呂ですか」
『希望の光』とその関係者にも好きな部屋を使ってもらう。
落ち着いたところで、オレ達は会議室に集まった。これからどうするのか、話し合うために。
「まあ、もうすでに、ディーンの勝ちが決まっとるでのぅ。あとは落としどころをどうつけるか、じゃな」
会議室のドリンクバーのお茶を飲みながら、賢者アール、オレの師匠が口を開いた。
「敵の本拠地を抑えちゃったからね。ソーンの兵法『九地篇』先ずその愛する所を奪わば、即ち聴かん。えへん」
つまり、まず敵が大切にしているものを奪取してしまえば、こちらの思い通りにできる、という意味。
偉大な軍師ソーンも、敵の大軍が攻め込んできた時、逆に敵の首都に向けて侵攻して、あわてて引き返してきた敵を迎え撃ち、寡兵で大軍を破ったという。
「そこで、冒険者ギルドで両者のお力になりたく、『希望の光』に頼んで、こちらに同行させていただきました」
ソファから立ち上がったギルドマスターは、オレにお辞儀をした。
オレは師匠に、何でこいつを連れて来たの? と目で問いかけた。
「ディーンが、王国や教団との話を付けるために、第三者的な立場で仲介する者が必要だと思ったから、ギルドマスターを連れて来たのじゃ」
なるほど……さすが師匠。冒険者ギルドは、各国にネットワークを持ち、ある意味国家を超越しているところがあるもんな。
「賢者アールさんから、ダンジョンマスターのディーンさまは、いたずらに流血を望んでいないと伺いました。そうであれば、王都に新たな迷宮の発現は、王国にとっても資源と観光をもたらす吉事となります。ダンジョンと王国が、互いにとって利益となるよう、ぜひともギルドに王国との懸け橋に冒険者ギルドをお使いいただきたく、お願いに上がりました」
みんなで話し合った結果、王国と教団に対する要求は――オレ達に敵対しない限り、こちらも手を出さない。王都の迷宮も『死に戻り』機能付きの、死者を出さないダンジョンにする、というものにした。
それと、アーサーとSランクパーティ『希望の光』、赤狼人族にも、自由と名誉の回復の約束を求めることにした。
「それで、ディーンさま。王都ダンジョンはどのような迷宮にされるおつもりですか?」
まあ、それは知りたいよね、冒険者ギルドとしても。
「まだ何にも考えてないけど、みんなが楽しめるダンジョンにしたいな。採用するかどうか分からないけど、希望があったら言ってみてよ」
軽い気持ちで口にしたこの言葉が、のちにミズガルズ大陸の一大テーマパーク、観光スポットとなるダンジョンを生み出すきっかけになるとは、この時はまだ、夢にも思わなかった。
こちらの要求と譲歩を書き留めると、ギルドマスターは王国と教団に、話しを持って行くために帰って行った。
『希望の光』のメンバーには、これからどうするつもりか聞いてみた。
師匠は賢者の塔で研究を続け、聖女は各地のフレイア教の教区を回るという。つまり今まで通り。
暗殺者や騎士、魔法剣士は王国を出るという。騎士は恋人の獣人の祖国で所帯を持ち、暗殺者と魔法剣士は更なる冒険を求めて旅をするそうだ。
みんなの後押しは最大限してあげたい。オレは必要なものを、遠慮なくリストアップするよう告げた。
「おお、太っ腹だね、ディーン君。私達はSランク冒険者なんで、お金で手に入るものは興味ないんだ。ダンジョンでないと、手に入らないレア・アイテムをぜひとも頼むよ」
リーダーの騎士が、ほんとに遠慮なしに、言ってきたよ! まあ、いいさ。村里で鬼たちの子供が世話になったらしいし。
王国を出るメンバーには、旅をするのに必要な駿馬や、土中蟲の特殊部位で作られた魔法の鞄をDPで出してやった。
「いいなぁ~。私にも何か頂戴」
聖女には、癒しの魔法を増幅させる杖を渡すと、師匠も期待に満ちた顔でオレを見た。
「わしは、古代魔法帝国の魔法書がいいな」
はいはい。DPで古代魔法帝国の魔法書全十二巻を取り出すと、師匠は驚いてガタガタと震え出す。
「このように、破損のない最高の保存状態で……。これは世界的な大発見じゃ……」
一段落ついた所で、赤狼人族の母子をカムランまで、ダンジョン転移で連れて行った。
傭兵達は、草原エリアで牧場を作り、羊を飼っていた。狼が羊を飼うってどうなのかな。
親子の再会は涙ぐましく、感動的だった。赤狼人の子供達は、村里の鬼の子供達とさっそく仲良く遊び始めている。
村里の鬼たちとも仲良くやれそうなので、一安心かな。
そして、再び王都に戻ると、ギルドマスターが王国からの返事を携えて来た。
こちらの要求を呑み、協定を交わしたいと。
その調印の際には、オレとアーサーに大聖堂まで来て欲しいということだった。
「罠かもしれない。大聖堂には結界が張ってあるんだ」
うん。アーサーの心配はもっともだけど。
「いいよ、行こう。アーサーのお父さん……教皇は、聖騎士たちに追われていた時、助けてくれたんだ」
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