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出荷
しおりを挟むガタゴトとひどく揺れる檻付きの荷馬車に載せられた私は、荷台の隅っこに膝を抱えて座っていた。
荷馬車の檻の中には、私の他にみすぼらしい貫頭衣を着せられた若い娘たちが数人いる。
全員罪を犯した囚人で、オーク用家畜として引き渡されるという。
アルモリカ王国は、数年前から隣接する魔族の国と不可侵条約を結んだ。
人族に手出しをしない代わりに、雄しかいない種族のために囚人や奴隷の女たちを家畜として出荷する約束で。
安全になった国境付近に、多くの農民が志願して新たな開拓村が出来た。
でも、その陰で犠牲になるか弱い女たちの存在がある。
「オークの家畜なんて、いやだぁあああっ。あたいは、そこまで悪いことしてないのに!」
元娼婦で、痴情のもつれから男を刺し殺したという女が泣き叫んでいる。
「あんたは自分の 情人を殺しちまったんだろ。死刑にならないだけましだと思え」
沿道から見物人たちの野次が飛んだ。
王都の街路を見せしめのためにゆっくりと走る荷馬車の檻には、それぞれの囚人の罪状が書かれた板が紐で括りつけられている。
「あ、あたしは、あんた達と違って人殺しなんかしてないっ。ただ、家があんまりにも貧しいから、つい盗みを……」
そばかすだらけの町娘が、ポロポロと泣きながら檻から両手を出して哀れっぽく、人々に訴えた。
「お前さんが盗んだのは、貴族の幼いぼっちゃんで、煙突掃除夫として売っぱらっちまった。ぼっちゃんは煙突から落ちて死んじまったって、奥さまがお嘆きだぞ」
見物人たちに囃し立てられて、鼻白らんだ娘は、プイと横を向いてリュシエンヌのように隅で膝を丸めて顔を伏せた。
「だけど、一番の売女は元侯爵令嬢リュシエンヌだ。恋敵を、嫉妬から殺してしまったのだから」
人々の勝手な物言いに、私は反論する気力もなく、ただ俯いていた。
蜂蜜色の豊かな髪、大きな琥珀の瞳の愛らしいシャルロット。
そう、私はお父様にお願いして、シャルロットを隣国に留学させるように仕向けた。
でも攫ったり、殺そうなんてそんな恐ろしいこと、考えたこともない。
だから、シャルロットが旅の途中で、山賊に襲われて死んでしまったと聞いた時には、本当に驚いたのだ。
もしかしたら、その山賊がお父様の息がかかった者ではと、疑ったことはあった。
お父様に問いただしさえした。
その時は否定なさったし、私にはそれ以上調べるすべもなかった。
あの悲しい出来事が、アンベール様の心を変えてしまったとは思わなかった。
シャルロットの死は、私のせいではないのに。
この誤解さえ解ければ……きっとアンベール様は私への怒りを鎮めてくれるはずなのに。
今となってはどうすることもできず、ただただ途方に暮れる――。
とうとう、国境にたどり着いてしまった。
国境は河を境にしていて、向こう岸にオークたちが立っている。
やがて筏の船がこちらに渡って来ると、私は初めてオークの姿を間近に見ることになった。
オーク族は人型の知性を持つ魔族で、ニメートルを超える巨躯を持っている。
主に森で生活する彼らの皮膚は、緑がかっていて迷彩のよう。
がっしりとした体躯、筋肉を守るように脂肪がついた腹。
そして醜い豚のような顔。分厚い瞼の下の小さな目、つぶれて上を向いた鼻、尖った耳。口元から除く大きな牙。
彼らのほとんどが獰猛で残虐な戦士だと言われている。
雄しかいない種族の特性から女を攫う悪鬼として、昔から人々から忌み嫌われ怖れられている存在だ。
そのオークが、目の前にいる。
動物の皮で作った衣類に、巨大甲殻蟲の素材を使った兜に鎧、武器は様々で個体によって大鉈や大斧、大剣に弓、槍などを持っていた。
騎士や兵士たちの間に緊張が走り、囚人の女達からは悲鳴とすすり泣きが起こった。
オークたちが、筏を岸に寄せこちらへやって来る。
護衛騎士の隊長が意を決したように、前に進み出た。
「アルモリカ王国より、女達の引き渡しに来た」
「ご苦労!」
オークたちも、森から持って来た物資を筏から降ろしている。
森の奥深くにしか生息しない貴重な薬草や魔獣の毛皮や爪などの素材、岩塩などもある。
騎士たちはオークの積荷を、オークたちは女たちをそれぞれチェックし始める。
ガタガタと震える私たちを荷馬車から降ろすと、着ていた粗末な貫頭衣をオークにはぎ取られてしまった。
「家畜に傷や病気がないか調べさせてもらうぞ」
貫頭衣の下は何も身に着けてないのに、騎士や兵士、オークたちの前で粗末な靴を履いただけの裸を晒されてしまう。
ジロジロとあられのない姿を見る不躾なオークの視線に居たたまれず、胸や足の付け根の金色の和毛を手で隠した。
「若くて健康な雌7頭、確かに受け取った」
「こちらも」
そうして互いに書類にサインと調印をすると、ついに私たちはオークに引き渡されてしまった。
騎士たちがそのまま来た道を帰っていくのを、女たちは恨めしそうに見送った。
迎えのオークの数は7体で、女囚人たちと同じ人数だった。
「いいか、お前たちは家畜だ! 家畜は余計な言葉はしゃべるな。わかったな!」
この隊の長らしきオークがだみ声で怒鳴る。
おもむろに鋭い刃物を持ったオークが近づいて、私の長いプラチナブロンドの髪をつかんだ。
「ひっ……!」
息を飲んで見つめていると、オークは私の自慢の美しい髪を、プッツリと襟足で短く切ってしまった。
ほかの女たちの髪も一人ずつオークがついて、同じように切っている。
大切に伸ばしていた髪を切られ、ショックを受けるが、オークたちが恐ろしく、震えることしかできない。
その後、キク科の薬草の香りがする香油を全身に塗られた。
私の髪を切り、香油を塗っているオークは、よく見ると他のオークより肌の緑色が薄い個体だった。
薄緑のオークの、たっぷりと香油を落した手によって、身体中に満遍なく香油が塗りこめられていく。
まるでマッサージされているかのような刺激に、二つの乳房の先端がツンとしこりを持って立ち上がると、ふいにその赤い尖りを大きな手の親指と人差し指できゅっと、摘ままれた。
「ぁ、ぁんっ」
思わず声を漏らすと、オークはにやりと笑い、今度は足の付け根に手を伸ばしてきた。
「オラ、脚開け」
鋭い眼光に、蛇ににらまれたカエルのように、身動きもできないまま、わずかに足を開いた。
オークのゴツゴツとした指が、脚の間に滑り込んでくる。
秘められた場所にも、香油を塗り付けるつもりのようだ。
柔らかな和毛を掻き分けて、これまで他人に触れさせたことのない秘められた場所を、オークの指が蹂躙する。
二枚の花弁とその裏側、包皮に守られた花芯にまで執拗にに指の腹を使って塗りこめていく。
感じやすい部分に触れられ、ビクっと身体が動くと、オークのもう片方の手が私の腰に回って動けないようにされてしまう。
ごつい指はついに、蜜口にまで及んだ。
たっぷりと香油をまぶした太い指が、狭い蜜口に無遠慮に差し込まれる。
中をぐるぐるとかき回されると、異物感と痛みが走った。
「入口……中も狭いな。まだ未使用か?」
涙目でコクコクと頷くと、オークはニヤリと笑った。
「心配するな。すぐに使い勝手のいい雌穴にしてやるよ」
――私の初めてがオークに奪われてしまうなんて……!
こんな事なら、アンベール王太子と結婚するまでは、と大事に取って置かずに、私に言い寄って来た貴族の男たちの誰かに身体を許して置けばよかったと、後悔する。
その後、私たちは筏に乗せられ、河を渡って魔族の国に連れていかれた。
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