【R18】侯爵令嬢、断罪からオークの家畜へ―白薔薇と呼ばれた美しき姫の末路―

雪月華

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蒸しパン

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「何か、食べたいものはあるか?」

 ベッドの上で上体だけ起こし、ゼラに介助してもらって食事をしている時だった。

「ケーキ。ケーキが食べたいですわ」

 私は侯爵令嬢だった時の、午後の紅茶と共にいただく侯爵家お抱えの菓子職人パティシエの作る可愛らしいデコレ―ションを施された様々な種類のケーキを思い出し、ため息をついた。

「……ケーキ?」

 ゼラは首を傾げた。

「小麦粉と卵とバターと、甘味を入れて焼いたお菓子ですわ。食べたことありませんの?」

「……ないな」

「無理なら、いいですわ」

 ――オークにケーキが作れるわけないもの。言ってみただけ。


 体調が良くなるまで、繁殖場のお務めは休ませてもらえることになって、こうしてゼラと二人で過ごしている。

 あの時、小隊長を止められなかったことで、ゼラは私に随分と負い目を感じているようだ。

 そのせいか、何かと私を甘やかそうとしている気がする。


 あの小隊長は、オークの組織の上に報告が行き、罰を受けることになったと聞かされた。
 もう小隊長とは、二度と会いたくない。
 思い出しただけで、身の毛がよだち、ぶるるっと震えた。

「寒いのか?」

 ゼラは私を寝かすと、毛布を肩まで掛けた。

「少し眠るといい」

 昼間眠ると、夜が眠れなくなってしまうのに。

 
 夕方、ゼラがふわふわした蒸しパンを持って来てくれた。

「レーズンが入っていて、おいしい」

「そうか、良かったな」

「ゼラは食べないの?」 

「いや、俺はいいから、シロが喰え」


 ――菓子職人パティシエのケーキには遠く及ばないのだけれど、ゼラの気持ちが嬉しいかもなんて、ね。


 蒸しパンを食べながら、ふと北の鉱山採掘所に連れて行かれたお父様は、今頃どうしていらっしゃるのだろう、と思った。

 こうしてオークたちの元で家畜に堕とされた私は、自分のことで精一杯だった。
 お父様のことまで考える余裕がなくて、ううん、考えるのが怖くて、考えないようにしていたのかも知れない。
 侯爵家の当主、ご立派だったお父様が、荒くれ者の男たちとともに過酷な労働など、どう考えても無理だ。


 ――どうかご無事でいらっしゃいますように。そして、いつかまたお父様に会うことが出来ますように……。
  
 
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