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旅立ち
しおりを挟むゼラとダンは、飼育隊長に掛けあい、孕んだ私を二人で世話をするという許可を取ってくれた。
オーク族の仔は妊娠して、たった三か月で生まれるという。
どんどん大きくなるお腹、食べても食べても追いつかない程の食欲。
ダンが消化の良い食べやすいものを用意してくれて、ゼラは時々甘いものをどこからか見つけて持って来てくれる。
私たちは寝るとき以外は、三人で一緒に過ごした。
食事も、お風呂も……そして交接するのも。
お腹が大きくなると二穴同時はきつくなり、ゼラに貫かれながら、ダンの昂ぶりを口に咥えたり、その逆もした。
そうして出産が近づいたある新月の晩のこと、ここに来てから初めてゼラは私に服を着せた。
毛織物のあたたかな貫頭衣に、フード付きの外套ですっぽりと身体を隠す。
ゼラは弓矢を背に負い、腰に剣を佩刀している。
シンと静まり返った夜半に、真っ暗な闇の中、ゼラに抱えられて畜舎の外に出る。
オークは暗闇でも満月の夜のように見える、暗視のスキルを持っていて躊躇なく進んで行く。
見張りのいる門扉をさけ、裏の戸から出ようとすると。
「行くのか、ゼラ」
後ろからダンの声がして、ゼラに緊張が走った。
「これを、持って行け」
ダンが渡してくれたのは、希少なアイテム、隠れ蓑の衣だった。
認識を阻害する魔道具で、隠密行動を担当する兵に貸し与えられるものだ。
「オークはひとりじゃ、生きていけない。はぐれオークの行く末は、人間に討伐されるか、魔獣に喰われるか……。おれは王に逆らって付いて行くことは出来ないが、お前たちが生き延びて、どこかで静かに暮らせることを祈っているよ」
「すまない、ダン」
ゼラは隠れ蓑の衣を被り私を抱え直すと、魔の森の奥深くへと一晩中駆け続けた。
そのアイテムのおかげで、魔獣からも身を隠すことが出来、無事に進むことが出来た。
白々と夜が明けるころ、ゼラは目指していた峡谷にある洞穴に辿り着いた。
洞穴の中には、生活に必要なものが一通り置かれていた。
私を藁ぶきのベッドに寝かせると、ゼラは洞穴の入り口を隠れ蓑の衣でふさいだ。
こうすることで、周囲からこの場所を隠すことが出来るのだ。
「ゼラは、前もって準備していたのね」
「ああ、そうだ。シロが仔を孕んだと分かった時から、考えていた。疲れただろう、ゆっくり休め」
「誰の仔かもわからないのに……」
静かに涙を流すと、ゼラは目じりに口を寄せ、舐め取った。
「俺たちの子供だ」
「いいの? 本当に、いいの?」
ゼラは黙ってうなずいた。
その日の晩、私は産気づいた。
ゼラが一晩中腰をさすり、励ましてくれる。
やがて身を引き裂かれるような痛みと共に、子供たちが産まれた。
生まれたばかりの赤ちゃんを、取り上げたゼラが見せてくれた。
焚火の明かりで見える顔は、ゼラよりも緑肌が薄く整った顔立ちで、人間の赤ちゃんに近い気がした。
「上位種だ」
産湯に浸からせた後、初乳を与えると力強く、痛いほど吸い付いてくる。
何もできない私とこの二人の小さな赤ちゃんを、ゼラは守り養おうとしてくれている。
「私も、頑張るから」
ゼラと赤ちゃんに呟いた。
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次回最終話 今夜更新します。
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