【R18】侯爵令嬢、断罪からオークの家畜へ―白薔薇と呼ばれた美しき姫の末路―

雪月華

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番外編

復讐を遂げた王太子のその後(後編)

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 アンベールはシャルロットを連れ、部屋に戻るとその肩を抱きしめた。

「ああ、シャルロット。君が生きていて、また会えるなんて」

「ええ。あれからなにがあったのか、すべててお話しますわ」

「いや、いいんだ。もう過去のことは、何も言わなくても。それより、これからの私たちのことが大事だ」

 つらい目に合った恋人に、その話をさせるのは酷だとアンベールは考えた。

「一緒に国へ帰ろう、シャルロット」

「ありがとうございます。でも、無理ですわ」

 まるで、昼食のパンのお代わりを勧められた時みたいに、あっさりと断る。

「無理なものか! 君の父上や母上も喜ぶだろう」

「山賊どもに汚された娘など、生きて帰って来られても両親が困るだけです」

「そんなことはない! 私は、君に帰って来て欲しい」

「私は、帰りたくないんですもの」

 アンベールは、乳兄妹として育った幼馴染の顔をまじまじと見た。

「どうしてそんなことを言う? ここでのことを気にしているのか? 魔王の慰み者になって、あのような場所で……」

「やめてください! 魔王さまの悪口は! あの方は私がどんな下衆に犯されようが、私の価値は変わらないと言って愛してくださいます。身体の接触など、確固たる心の結びつきの前には、些細なことだと教えて頂いたのです」

「シャルロット、君はあいつに騙されているんだ。頼むから、目を覚ましてくれ」

 シャルロットはアンベールを憐れむように見た。

「もうよしましょう。アンベールさまも国に帰れば、婚約者のリュシエンヌさまが待っておられます。私と今宵は想い出のよすがに情を重ね、明日は笑顔でお別れしましょう」

「あの女には、君の復讐をした。今頃、君よりずっとつらい目に合っているはずだ」

「何てことを! あのひとは本当にあなたのことを愛していらしたのに……」

 ため息をつくシャルロットを、アンベールは信じられないといった眼差しで見つめる。

「なぜだ。君はあの女を憎んでいるだろう? だって君は、隣国の留学先に行く途中で山賊に……」
 
「山賊に攫われたことなら、リュシエンヌさまとは無関係です。治安が悪いのを承知で騎士と傭兵を雇って街道を進んだら、雇った傭兵が山賊に通じていたの。あの傭兵を雇った父の落ち度だわ」

「そんな……私は何のために」

「なにがあったのかは存じませんし聞きませんけれど、リュシエンヌさまと和解なさったらいいと思いますわ。あの方は、アンベール様のお妃になるために教育を受けて育ち、あなただけを愛しておられたのですから」

「君はそれでいいのか? 魔王の後宮の女の一人で……」

「勘違いしないで。私は自分の意志で、魔王さまを愛してここにいるのですよ。私が自由である証拠に、ここであなたとこうして過ごすこともできる。……あのまま国に居たら私は、アンベールさまとリュシエンヌさまが結婚するのを側で見て、そして日陰の女のまま一生過ごしたかもしれないと思うと、ぞっとするんです」

 呆然と立ちすくむアンベールを、シャルロットは天蓋ベッドへ連れて行った。

「さっきの宴の席のような、殿方の欲望だけを満たすようなやり方は、よろしくありませんわよ? 女も楽しめた方が、結局は殿方も満足のいく素晴らしい快楽になっていくのですから。私がアンベール様に忘れられないような一夜をプレゼントして差し上げますわ」

 ゆっくりとアンベールの着ているトーガを脱がせ、シャルロットは妖艶に微笑んだ。

 その表情はかつての清純な幼馴染ではないのだと、アンベールに教えた。


 

 翌日、出立する前にアンベールは、魔王に以前「最底辺の家畜として置くように」と依頼したリュシエンヌの身柄の引き渡しを依頼した。

「リュシエンヌの代わりの女を十人用意するので、彼女を返して欲しいのです」

 魔王は難しい顔をして、「善処する」とだけ言った。

「いったん繁殖場に入れてしまえば、オークたちは手放したがらないだろう。問い合わせて見るが、期待はしないでくれ」

「そんな……」

 アルモリカの白薔薇と呼ばれた美姫に、自分はなんてことをしてしまったのだろうと今更、後悔しながら国元へ出立するアンベール王太子。



 その後、エリシャ王の問い合わせによって、畜舎では蜂の巣をつついたような騒ぎになった。

 なぜなら、リュシエンヌことシロは、ゼラと共にいなくなってしまったのだから。

 慌てて捜索隊を派遣し、森の周辺をしらみつぶしに探したところ、あと一歩のところで逃げられてしまった。

 オーク公は魔王城に自ら赴き、平身低頭で謝罪した。
 それをあっさりエリシャ王が許したので、オーク公は安堵しつつ、自分の側近には拍子抜けしたと話した。

 

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