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三章 学院生活・後半
83.特別な研修生
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その夜、私はなかなか眠れなかった。
布団の中で目を閉じても、母の言葉が頭から離れない。
「否応なく巻き込まれるわ。あなたは、私の娘だから」
その一言に込められていたのは、運命の予感──それだけじゃない。きっと、母なりの覚悟だったのだと思う。
“八大魔女”──正直母の他は、歴史の中で語られるだけの、遠い存在だと思っていた。
でも、実際は違う。彼女たちは生きていて、それぞれの場所で今も“戦って“いる。
戦争が終わっても、終わりじゃない。守るべきものがある限り、きっと彼女たちは立ち続けているんだ。
(・・・そして、私も──)
炎が灯るように胸が熱くなる。
ここに転生して、まだ日も浅いはずなのに。
気づけば私は、当たり前のようにこの世界の空気を吸い、日々を積み重ねている。
前世では、毎日が灰色だった。
誰にも言えない痛みを抱えて、気づけば、生きることすらやめようとしていた。
でも今は──違う。
セリエナという母がいて、シルフィンやライド、マシュルといった仲間もいる。
授業の中で魔法に触れ、汗をかきながら課題に挑んで、誰かと笑い合える時間がある。
それが、どれだけかけがえのないものなのか・・・私はようやく知った。
(“娘だから”・・・か)
思わず、小さく笑みがこぼれる。
母の言葉を、私はただの縁や血筋のことだけだとは思わない。
それはきっと、“炎の魔女”としての生き様を継ぐ者への、暗黙の覚悟──そんな気がした。
私は、逃げない。
どんな過去があっても、どんな運命が待っていても、この世界で生きていく。そう決めた。いや、もうとっくに決めていたんだ。
──八大魔女の名が、私の未来に重なるその時が来たとしても。
私は私のままで、立ち向かえるように。
そのために、今は歩き続ける。
眠りに落ちる直前、遠くでふわりと風の音がした。
窓の隙間から流れ込む風が、まるで誰かの気配を運んできたような、不思議な感覚が胸をくすぐる。
──風のエスリィ。
母が語った魔女たちの名のひとつが、ふと頭をよぎる。
どこかで出会う気がする。
名前も、顔も知らないけれど──でも、きっと。
それは、まるで約束のように。
朝の陽射しが差し込む教室には、生徒たちの声が賑やかに響いていた。
私は席に座りながら、魔法の教本に目を落とすふりをして、どこかぼんやりしていた。
(・・・夢の中で、名前を呼ばれた気がする)
それははっきりとした声ではなく、風のような、でもたしかに私の名前を呼ぶ“気配”だった。
目が覚めたとき、胸が少しだけざわついていた。
「おーい、アリア。ぼーっとしてると、また先生に怒られるよー」
隣の席から声をかけてきたのはライドだった。金色の髪をふわっと揺らして、にやりと笑う。
「・・・うるさい。ちょっと考えごとしてただけ」
「また炎の魔法のこと?」
「・・・違うけど、近いかも」
私はそう答えて、そっと窓の外を見た。
学院の中庭に、一本だけ大きな白い花を咲かせる木が立っている。風が吹くたびに、花びらが静かに揺れているのが見えた。
ふと、教室の扉がゆっくりと開いた。
「おはようございます」
入ってきたのは、学院の教員ではない──見慣れない女の人だった。
白と青を基調とした服装、そして長い銀色の髪。冷たさと優雅さを併せ持った、まるで氷の彫像のような雰囲気。
みんなは少し緊張したように姿勢を正す。
そして、レシウス先生が声を張った。
「みんな、紹介する。今日から特別に、ゼスメリアで研修に入られる──ヴァルナ・クリストフ様だ」
教室が静まりかえる。
その名前に、私は息をのんだ。
母が語った名前──“氷のヴァルナ”。
苗字は聞かなかったが、自然と本人だと理解できた・・・レシウス先生も、「様」と呼んでいた。
目の前の女性は、教壇に立って微笑んだ。
けれど、その微笑みは冷たく、どこか近寄りがたいものをまとっていた。
「はじめまして、皆さん。少しの間ですが、魔法の“基礎”と“覚悟”を教えに来ました。よろしくお願いしますね」
その声を聞いた瞬間、私の胸の奥が熱くなった。
氷の魔女のはずなのに、不思議と心に火が灯るような感覚。
(──この人が、母さんの言ってた“ヴァルナ”)
目が合った。その瞳は淡い青色。けれど、その奥に何かを見抜くような鋭さがあって──一瞬、私を見て小さく眉を上げた。
まるで、私が“誰の娘”かを、一目で見抜いたように。
その日、風は冷たかった。
けれど、私の胸の炎は、確かに強く、静かに燃えていた。
布団の中で目を閉じても、母の言葉が頭から離れない。
「否応なく巻き込まれるわ。あなたは、私の娘だから」
その一言に込められていたのは、運命の予感──それだけじゃない。きっと、母なりの覚悟だったのだと思う。
“八大魔女”──正直母の他は、歴史の中で語られるだけの、遠い存在だと思っていた。
でも、実際は違う。彼女たちは生きていて、それぞれの場所で今も“戦って“いる。
戦争が終わっても、終わりじゃない。守るべきものがある限り、きっと彼女たちは立ち続けているんだ。
(・・・そして、私も──)
炎が灯るように胸が熱くなる。
ここに転生して、まだ日も浅いはずなのに。
気づけば私は、当たり前のようにこの世界の空気を吸い、日々を積み重ねている。
前世では、毎日が灰色だった。
誰にも言えない痛みを抱えて、気づけば、生きることすらやめようとしていた。
でも今は──違う。
セリエナという母がいて、シルフィンやライド、マシュルといった仲間もいる。
授業の中で魔法に触れ、汗をかきながら課題に挑んで、誰かと笑い合える時間がある。
それが、どれだけかけがえのないものなのか・・・私はようやく知った。
(“娘だから”・・・か)
思わず、小さく笑みがこぼれる。
母の言葉を、私はただの縁や血筋のことだけだとは思わない。
それはきっと、“炎の魔女”としての生き様を継ぐ者への、暗黙の覚悟──そんな気がした。
私は、逃げない。
どんな過去があっても、どんな運命が待っていても、この世界で生きていく。そう決めた。いや、もうとっくに決めていたんだ。
──八大魔女の名が、私の未来に重なるその時が来たとしても。
私は私のままで、立ち向かえるように。
そのために、今は歩き続ける。
眠りに落ちる直前、遠くでふわりと風の音がした。
窓の隙間から流れ込む風が、まるで誰かの気配を運んできたような、不思議な感覚が胸をくすぐる。
──風のエスリィ。
母が語った魔女たちの名のひとつが、ふと頭をよぎる。
どこかで出会う気がする。
名前も、顔も知らないけれど──でも、きっと。
それは、まるで約束のように。
朝の陽射しが差し込む教室には、生徒たちの声が賑やかに響いていた。
私は席に座りながら、魔法の教本に目を落とすふりをして、どこかぼんやりしていた。
(・・・夢の中で、名前を呼ばれた気がする)
それははっきりとした声ではなく、風のような、でもたしかに私の名前を呼ぶ“気配”だった。
目が覚めたとき、胸が少しだけざわついていた。
「おーい、アリア。ぼーっとしてると、また先生に怒られるよー」
隣の席から声をかけてきたのはライドだった。金色の髪をふわっと揺らして、にやりと笑う。
「・・・うるさい。ちょっと考えごとしてただけ」
「また炎の魔法のこと?」
「・・・違うけど、近いかも」
私はそう答えて、そっと窓の外を見た。
学院の中庭に、一本だけ大きな白い花を咲かせる木が立っている。風が吹くたびに、花びらが静かに揺れているのが見えた。
ふと、教室の扉がゆっくりと開いた。
「おはようございます」
入ってきたのは、学院の教員ではない──見慣れない女の人だった。
白と青を基調とした服装、そして長い銀色の髪。冷たさと優雅さを併せ持った、まるで氷の彫像のような雰囲気。
みんなは少し緊張したように姿勢を正す。
そして、レシウス先生が声を張った。
「みんな、紹介する。今日から特別に、ゼスメリアで研修に入られる──ヴァルナ・クリストフ様だ」
教室が静まりかえる。
その名前に、私は息をのんだ。
母が語った名前──“氷のヴァルナ”。
苗字は聞かなかったが、自然と本人だと理解できた・・・レシウス先生も、「様」と呼んでいた。
目の前の女性は、教壇に立って微笑んだ。
けれど、その微笑みは冷たく、どこか近寄りがたいものをまとっていた。
「はじめまして、皆さん。少しの間ですが、魔法の“基礎”と“覚悟”を教えに来ました。よろしくお願いしますね」
その声を聞いた瞬間、私の胸の奥が熱くなった。
氷の魔女のはずなのに、不思議と心に火が灯るような感覚。
(──この人が、母さんの言ってた“ヴァルナ”)
目が合った。その瞳は淡い青色。けれど、その奥に何かを見抜くような鋭さがあって──一瞬、私を見て小さく眉を上げた。
まるで、私が“誰の娘”かを、一目で見抜いたように。
その日、風は冷たかった。
けれど、私の胸の炎は、確かに強く、静かに燃えていた。
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