おっさんの俺が美少女になって高校生からやり直したら人生クッソチョロかった件

司真 緋水銀

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第3節 女子高生(おっさん)の日常といともたやすく行われるアオハル

86.女子高生(おっさん)とひまりと駄菓子屋②

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〈駄菓子屋〉

「ごめんねぇ……この齢になると目もよく見えなくてねぇ……あなたが【あひゅな】ちゃんねぇ、ひまりちゃんからよく聞いてるよ。世界で一番可愛いけどどこかお父さんみたいな雰囲気のあるお友達なんですって」
「は……はぁ……」

 店内を見渡せる──奥にある和室で俺はおばあちゃんにもてなしを受けていた。色々突っ込みたいことはあったが……天然なのか高齢からくるアレなのか判然としなかったので空返事で対応して出されたお茶を啜(すす)る。
 ヒマリは駄菓子を物色して店内を見回っていた、カウンターに座るじいさんは座る俺の胸とヒマリのお尻を交互に眺めるのに大忙しだ。
 
「大丈夫ですよ。あれはスケベジジイだけど実際に手を出す度胸がないから……口で卑猥な言葉を投げ掛けているだけだからねぇ」

 全然大丈夫じゃない気がする、それは世間一般でセクハラと呼ばれる行為だ。

「あの……ヒマリはいつもこの店に……?」
「えぇ、えぇ……昔からよく来てくれてねぇ……たまにお友達もこうして連れてきてくれるのよぉ……若い女の子には退屈な場所でしょうに……みんないい娘たちでこうして私達の話し相手になってくれるんですよ……あひゅなちゃんみたいにねぇ」
「すみません、アシュナです」

 さすがに二度目には突っ込みを入れた。

「きっと私達を気にかけてくれてるんだろうねぇ……優しい子だから……いつだったかね、ひまりちゃんに言ってしまったのよ。『死ぬまえにもう一度【あの景色】を見てみたい』って……」
「【あの景色】?」

 ──それは、おばあちゃんがまだ初老を迎えるであろう時の話。まだデジタル文化が到来する以前……駄菓子屋は多くの子供たちで賑わっていた時代。
 二人は子供を授からなかったからか駄菓子屋を開き、平成に至るまで子供たちと触れあってきたらしい。
 だけど時代の変化は誰にも等しくやってくる……それは無垢な子供たちにとっても同じ事だ。テレビやゲーム、携帯電話の登場でアナログ文化は人々の記憶から薄れていく。赤子の時に夢中だったおもちゃを押し入れの中へ閉ざす様に……みんなは新しい光景を探して進んでいく。
 
 そうして自然に、二人の前から子供たちは消えていった。

「──決して悪いことじゃない……人は前に進むのが当たり前だもの……けどね、もう進む道のない私達にとってそれが少し寂しくもあるのよねぇ……そんな時にふと思い出してしまうのよ……みんなが置いてきたあの景色をもう一度見てみたい、ってねぇ……」
「……」

 口には出さない、きっと俺(アシュナ)にも気を遣ってくれているからだろうことは明白だった。けど、『同じ境遇』を体感した事のあるおっさんは『あの景色』の正体を何となく察する。
 それはきっと【楽しむ子供たちで賑わっていたお店】を指しているのだろう。俗っぽい言葉で敢えて表すならば……『古き良きあの時代』を。
 お店を囲む子供たち、それを温かい目で見守る老夫婦──そんな情景をもう一度見たい、と願っている。そんな想いが、寂しそうな瞳の奥底に滲(にじ)んでいた。

「……」

 前世──おっさんだった自分はその想いをまるで、感覚を共有するかのように受け止めた。
 昔は良かった──そんな想いは、おっさんの心の中にも存在していたからだ。懐かしむ程にいい思い出があったわけではないが……進む時代と適応していく周囲にどんどんと取り残されて時間だけが過ぎていく焦燥感、孤立感、寂しさは歳を重ねる度に増していくばかりだった。
 
 幸福にも、俺には【タイムリープ】なんて機会が与えられ、それによって沢山の幸福を得たし、新しい道を選択する権利すらも貰えた。
 けど、普通そんな奇跡は起きないんだ。
 
 この先の未来……駄菓子屋は軒並みに姿を消していく。駄菓子屋を舞台にしたアニメのおかげで再燃したり、ショッピングモールの一画に再現されるも……かつての昭和時代のようにとはいかず、人々はただただ前へ進む。
 少子化と、過疎化による人口減少が更に進むこの田舎でおばあちゃん達がかつて見た光景を取り戻すのは……かなり難しいだろう。
 
「ごめんねぇ……若い子には退屈な話だったでしょう……聞いてくれてありがとうねぇ……」

 おばあちゃんは俺に気を遣ってくれたのか、話を深堀りすることはせずに打ち切った。腰を曲げながら、新しいお茶請けを用意するためか台所の方へとゆっくり向かった。その哀愁漂う姿を、店にいたヒマリも哀しそうに見つめている。

 夕暮れ刻が創り出す──自然の音しか存在しない田舎の片隅。西日は至るところに光を射し、夜を迎え始める予兆として至るところに影を造る。
 一日の終わりを、世界に知らしめる為に。
 まるで、もう元には戻らないと主張するように。

「終わらせないよ」
 
 誰にも聞こえないように、決意するように、ひとり呟(つぶや)いた。
 ただの女子高生ならば、そんな夕暮れをノスタルジックに感じたり、背景にして映える写真を創るんだろうが……お生憎(あいにく)、こちとらそんなものお構い無しの──()だ。

 アシュナ、動きます。

                  〈続く〉

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