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第5節 女子高生(おっさん)の日常と、いとも愛しい夏休み
164.女子高生(おっさん)と妹と小泉いずみと。。。
しおりを挟む〈小泉家〉
「ようこそおいで下さいました御姉様っマナちゃん。どうぞ遠慮せずお入りになってください」
「うわぁ……すごい……」
夏休み──俺と妹のマナはバスに乗り、普段は訪れないであろう別荘地へと降りたっていた。
豪華絢爛な別荘の並ぶ中に、お嬢様学校に通う後輩眼鏡真面目破壊系女子という欲張り通り名を持つ【小泉いずみ】ちゃんの邸宅が存在していた。
海沿いに拠を構えたその佇(たたず)まいは、まさに大豪邸と呼べる広さで……妹は空を見上げている。
「ここは単なる別荘……というか、『道場』です。マナちゃんが武道を学びたいというので……住んでる家はもっと普通ですよ」
と、いずみちゃんは微笑んだ。
事の発端は妹のマナが『武術を嗜(たしな)みたい』と言い出したことから始まった。
なんで急にそんな修羅の道を歩こうという考えに至ったのか(前世では荒事とは無縁だったはず)問いただすと、『お姉ちゃんと赤ちゃんを守るため』と息巻いていた。
妹には一体なにが見えていて、何と戦っているのか知らないが……そこで白羽の矢が立ったのが幼い頃から武術を習っていると言ってたいずみちゃん──誕生日に妹とも仲良くなっていたので適役だというわけで今回お邪魔させてもらったのだ。
「あの……いずみさんの家族って……」
「父はオリンピックまで行った元柔道家、母も同じく元レスリングチャンピオン、兄はプロボクサーで……そういう家系なんですよ。さて、では初めましょうか」
家族構成を語りながらいそいそと、忙しなく準備を始めるいずみちゃん。コンタクトをして、眼鏡を取った彼女は……大人しそうな風貌から一転し、精悍(せいかん)な顔つきの美女へと変貌する。
「まだ未熟者ですが……今日は不肖(ふしょう)私めが指南役をさせて頂きます」
「お姉ちゃんも一緒にやろ?」
「いや……でも、こういうのって生半可な心持ちでやったら怪我するんじゃ……」
「安心してください御姉様。私が教えるのはあくまで護身の域の技術です、間違っても御姉様方にかすり傷の一つつけるわけにはいきませんから」
なるほろ、エクササイズみたいなものか。
それならば安心だ、とわざわざこの為に新調して用意してくれたのだろう練習着に着替える。
なんか、セーラー服とレオタードを組み合わせたような際どいものなんだけど……女子武道家はこんなえっちな格好で武の精神を学んでいるのだろうか。
「勿論です、さぁ、着替え終えたらこちらへ」
更衣室から出ると、広々としたちゃんとした道場が待ち受けていた。
いたんだけど……そこには武の教えには相応しくない三点脚立に乗せられた無数のカメラや布団、合成背景に使うグリーンバックなどが何故か存在していた。
「あれらは気にしないで下さいね、テレビの取材が来た時の名残ですから」
「わぁ~、お姉ちゃんっ! なんか本格的だねっ」
「う……うん……」
元オリンピック選手の道場だからテレビ取材が来るのはわかるけど……普通、あんなの忘れていくかな?
「では、まずは私と御姉様……二人で組み手をしてマナちゃんに見本を見てもらいましょう」
「えっ? 私……なにもわからないけど……?」
「大丈夫です、まず最初はゆっくりと型を手取り足取りお教えしますので──」
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「──こう?」
「そうです、さすが御姉様。呑み込みが速く、大変素晴らしいです」
いずみちゃんに指南を受け、俺も徐々に護身の型を身に付けていく。たまにはこういう運動も悪くない──頼りになるSPがいるけど、いつ何が起こるかわからないし護身の術は決して無駄にはならないだろう。
「そうです……ふふ……ぁあん……御姉様っ……そんなに強くっ……最高ですっ……」
いずみちゃんは、武道の掛け声とは思えないえっちな喘ぎ声を出しておっさんと寝技体勢に移行する。
ふむ、なんか段々と護身の域を逸脱してるような気がするけど……きっとこういうものなのだろう。
「うわぁ……お姉ちゃん達……なんか……すごい……」
マナが顔を紅くしながら両手で眼を塞ぎ、指の隙間からこちらを覗く。きっと女性同士が絡み合う姿を見るのは初めてなのだろう──ふふ、この程度で紅くなるとはまだまだ蒼い。
そこで聡明なおっさんはピンときた。
もしかしたらいずみちゃんは、『俺といちゃいちゃしながら妹も百合の道に引き込もう』──そしてあわよくば姉妹丼を狙っているのではないか、と。
「さぁ御姉様……世界から邪魔な男を排除して女性だけの健全な楽園を築きましょう……?」
なんか思想の歪んだラスボスみたいな事言ってるし間違いない。
そして、おっさんもそれには吝(やぶさ)かではない。
男を排除するとかはひとまず置いておいて……今ここには俺達しかいない。姉妹丼をつくり、仲良く三人プレイするのも一興である。
「マナ、おいで──」
──…だ…ですっ……!!──
「………?」
誰かの声が聞こえる、何処かで聞いたような女性の声だ。
「二人とも……なんか言った?」
「え……? いえ……私はなにも……」
「言ってないよ? お姉ちゃん」
──絶対……ですっ!! ……ナに……な事………えないで……さいっ!!──
よりはっきりと、その声は俺の脳内に響いた。
この脳内に直接語りかけてくる感じと言えば『キヨちゃん』しかいない筈だけど彼女の声ではない。
そして、覚えがある……以前、保健室で葛藤したとき(※152話参照)にも聞こえたやつだ。
「………誰?」
思わず口に出して応えると──その声はより大きくなり……やがて、その正体を明らかにした。
──や……やっと届きました……私……【アシュナ】です──
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