百物語 厄災

嵐山ノキ

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第三十七話 ドアノック

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 事務職のFさんは地方で行われた友人の結婚式に出席した。
 披露宴の後の二次会では少しテンションが上がりすぎ、だいぶ酔っ払ってしまった。
 幸いなことに二次会自体はホテル内の宴会場で行われ、飲んだ後はそのまま新郎新婦が予約してくれたホテルの部屋で泊まることができる。

「あー、酔っ払っちゃった……」

 友人はそこそこの旦那を捕まえたというのに、自分は前の彼氏と別れてもう数年になる。自分だけが取り残されたような気がして、寂しくなって二次会で飲み過ぎてしまった。
 歩くのもおぼつかなくなってきていたため、一緒に来ていたもう1人の友人のRさんの肩を借りて、ホテルの自室まで連れてきてもらったのだ。
 Rさんが隣の部屋だったので助かった。
 化粧を落として、この日のためにおめかしした服も脱いで、というところまではまだできたが、それ以降はもう限界だった。
 ほとんど下着姿でベッドに横たわる。
 へべれけに酔っていたので眠りがすぐ訪れるだろうと思っていた。
 ところが、音がする。
 コンコンコンッ、コンッ!
 ドアをノックする音だ。

「ええ? 何なのよ……」

 アルコールが全く抜けていないFさんだが渋々ベッドを降り、ホテルの部屋に備え付けのガウンを羽織ってドアの方へ向かった。
 ドアを少しだけ開けて外の様子をうかがうが、廊下には誰もいない。
 酔っ払いが、部屋を間違えたのか? Fさんは自分を棚に上げてそう思った。
 ともかく、誰もいないのならば寝よう。
 そう思って再びベッドに入る。
 しかしまた音がする。
 コンコンコンッ、コンッ!
 3回と1回の組み合わせのノックだ。
 あまり聞いたことがないノックのリズムを何人もの人がやっているとも思えない。そもそも深夜である。
 異常に気がつかずにFさんはノックを無視して寝ようと思った。
 しかし少し時間が経つと、またノックの音がする。
 コンコンコンッ、コンッ!
 リズムが同じなので、間違いなく同じ人がやっている。
 そう思ったら腹が立ってきて、Fさんは再びベッドから出てドアへ向かった。
 今度はドアスコープから外を見ても誰もいない。

「どういうこと、そんなに暇な奴が……」

 ベッドに潜り込んだFさんだが、さすがに普通の人間がやっていることとは考えづらくなってきた。
 眠気はピークに達しつつあったが、頭のわずかに働いている部分でFさんは考えた。
 これは前に都市伝説か何かで聞いた、ノックする幽霊の話ではないか?
 詳細は忘れたが、部屋の外から霊がノックしているのかと思っていたら、実は霊がすでに中にいて、中から外に向かってノックしていたという内容だったと思う。
 まさかこの霊も、すでに中にいて、中からノックしているのでは?
 そう考えてFさんは戦慄を覚えないでもなかったが、このとき眠気の方が勝っていた。
 安眠を妨害されたくない。その一心でFさんはドアの方へ向かう。
 そして鍵を開け、チェーンも外した。

「どうぞご自由に、出て行ってください。私は気にしません」

 いるかわからない霊に対して宣言し、Fさんは今度こそベッドに入った。誰が入ってこようが関係なかった。
 その大胆さが功を奏したのか、Fさんが次に目を覚ましたときには朝になっていた。
 酔いも抜けて思ったより爽やかに起きられたFさん。朝食をホテルバイキングで取ろうとしていると、隣の部屋のRさんに会った。
 見ると目の下にクマができている。

「どうしたの、なんか、調子悪そうだけど」

「うん……なんか、眠れなくって」

 Rさんが眠れなかった理由が気にならないでもないが、Fさんはあえて尋ねなかった。

「あのとき鍵を開けておいてよかったです。閉めたままだとどうなっていたかわかりませんから」

 この話をしてくれたときもFさんは爽やかな顔をしていた。ただ、彼氏は相変わらずできていないらしい。
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