国助く禍津剣

dada

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 「相変わらず気持ちの悪い術だな。」
 腕を蠢かせながら治癒させたアキラを見てブライは言った。棘のある言葉とは裏腹にその目には蔑むような色は無い。ふとブライは手を天に翳し、振り下ろした。
 アキラは己の勘に従って右手の短刀を頭上に振り上げる。一瞬で視界を奪う雷光が彼に襲いかかり、彼の短刀によって切り裂かれた。
 アキラの魔法はこの世の全てを切れる。物質的でないものでもその例外ではない。電流でも切り裂くことができるのだ。しかし彼の魔法は強力だが問題も多い。
 (くそっ、今のは何とか予測できたが、雷の速さにどうしても遅れる。それにもうあまり魔法は使えない。)
 アキラは自分が追い詰められていくのを感じる。彼のオドは程なく底が尽きる。
 「諦めて投降しろ。命までは取らん。」
 ブライが最後通告を言った。しかし対するアキラの表情は変わらない。
 「基より、今日この日に死ぬと決めている。お前を倒し、国王を殺す。それだけ出来れば思い残しは無い。」
 そう呟いてアキラは自分の短刀を右手一本だけに持ち変えて、それを両手で持ち身体を捻るように構えた。
 それは力を溜める構えであり、彼のオドが活性化されているのをブライも感じた。アキラの持った短刀は黒いオーラに包まれ、一本の長大な剣に変わる。これを一瞬で振り抜き、目の前の全てを両断するのが彼の狙いだ。神速の速さで振り抜く彼の剣は死の嵐になって辺り一面切り裂くことになるだろう。彼の剣はどのような魔法でも防具でも防ぐことは出来ない。
 対するブライも最後の大雷を落とすべく構えている。雷の速さは一瞬で三百メートル以上進む速さ。人間には絶対に関知できない物である。
 二人が共に必殺の技を繰り出そうとしている所に、
 「ちょ、待ってください!二人とも剣を納めてください!」
 怒鳴るような悲鳴のような声が掛けられた。声のした方をちらと見ると、セイラが必死な表情で叫んでいた。今にも泣き出しそうな顔をしている。
 「姫様?・・・どうしてここに?」
 ブライはセイラの後ろにいるディアナに問うた。
 「は!いえ、先程王都に入りましたら、不穏なマナを感じまして、どうしても御自分が行かれると仰いますので現場に急行しました。」
 対するディアナは冷や汗を流しながらブライに答える。彼女とブライには実力的にも立場的にもかなりの上下関係にあるようだ。
 「・・姫様、これは国王暗殺を目論む賊を捕らえるためです。危険ですので下がってください。」
 憮然とした態度でブライが言い放つ。例え王族といえどもその圧力の前では、無力に思える様な気配が漂っている。だが、セイラは引き下がらなかった。
 「いいえ、ブライ様。その御方は私達を助けてくださった命の恩人とも言うべき御方でございます。そんな方を傷付ける行為を私は見過ごすことができません。」
 セイラは強い光を宿した顔でブライに言った。その瞳には頑として譲ることの無い思いが伝わってくる。
 「・・・このまま見逃せば、またいずれ陛下の命を狙ってきます。」
 「いいえ、この御方はそんな方ではありません。」
 ブライの説得にも全く耳を傾けようとしないセイラ。そんな時、渦中のアキラが口を開いた。
 「貴女方と関わった事は全く偶然です。恩着せがましいような真似をしないでください。」
 苛立ちを含んだ言葉で一旦切り、
 「貴女方を俺は国王の次ぐらいに憎むべき存在だと思っています。」
 そして、
 「ライオ、時間切れだ。残念だったな。」
 そう言って不敵に笑った。突如彼の身体が真っ黒なオーラに包まれる。
 傍目にも明らかに、彼のオドが活性化している証であった。その量は先程までの比ではなく、禍々しく唸り、吹き荒れている。漆黒の嵐のようであった。
 「貴様・・・・何だその魔力は?」
 ブライが厳しい目でアキラに問う。
 「わからんか?親父の心臓は俺の中にある。」
 アキラは表情の薄い顔で微かに笑いながら答えた。
 「そうか・・・やはりお前が持っていたんだな。生命の泉」
 「生命の泉?」
 呟いたのはディアナだ。それは幼少の頃におとぎ話で聞いたことがあった。曰く、それは伝説の森の中にある。曰く、満月の夜にしかその泉は湧かない。曰く、その水には万病を治し、どのような怪我をも癒す効能があるとされる。だがそれは昔の人の作り話だとされていた。
 実際に生命の泉は存在する。だがそれは本当の泉ではなく、ある条件下で無限にオドを産み出す宝物の名前だ。力の弱い者が持てば只の回復薬程度だが、元々強大な力を扱う者が持てば無限に強力な魔法が使える最強の術士になれる。肉体の修復も溢れ出るオドが勝手に行うので万病や怪我を治癒するという伝説ができたのだろう。
 アキラは自身から溢れ出る大量のオドに抗い、自我を保つのがやっとだった。そしてその魔力に似合わない弱々しい口で言った。
 「・・・これがそのまま親父の中にあれば、あの時親父は死ななかったかもしれない。・・・だから俺は許せない。十年前親父を殺した国王と、その親父の心臓を奪った俺自身を殺すことで、俺の復讐は遂げられる。」
 アキラは言った。そんな彼をブライの特大の雷撃が襲う。
 激しい轟音がし、辺り一面煙に包まれる。ブライは完全にアキラが覚醒する前に勝負をつけようとした。
 強力なその一撃で、熱風が一気に押し寄せる。ディアナは咄嗟にセイラを庇うようにその背に隠した。だが二人を守るように目の前に氷の壁がいつの間にか出来ていた。
 「!、ソルフェージュ様!ご無事でしたか。」
 彼女等の傍らでうつ伏せに倒れていたソフィーが咄嗟に防御の魔法を使っていた。ディアナはソフィーに駆け寄り、その身を安じた。
 「私は大丈夫。それよりも姫様、ここはまだ危ないので私の後ろにお下がりください。」
 額に汗を滲ませながらソフィーがセイラに言った。
 「い、いえ、私はアキラ様の事が心配で・・・・。」
 突然の雷に狼狽えながらもセイラが気丈に振る舞う。そんなセイラを横目で見ながら、ソフィーは口を開いた。
 「この気配、生命の泉が動いているんですね。団長の心は、やはりアキラが受け継いでいたのか。・・・それならアキラの馬鹿は取り敢えず死にませんよ。それよりも、」
 一旦区切り、
 「陛下と逃げていただくことになるかもしれません。いくら私達でも、術を惜しみ無く使えるアキラには敵わないかもしれない。」
 鋭い瞳で雷の落ちた所を見詰めるソフィー。その表情には余裕がない。
 
 「・・・・やっと月が上った。」
 煙の中からアキラの声がする。風が吹きその煙がはれると、その場にいる皆は息を呑んだ。
 アキラがそこに立っている。だが彼の容姿、いや存在そのものが先程までと明らかに変わっていた。
 黒髪は月明かりを受けて清廉に輝く銀髪に変わり、その瞳は黄金のように金色、背中には黒い影で出来た左右三枚ずつの羽根のようなものが見える。肌の色も黄色から透き通るような白色に変わっていた。
 何かおとぎ話の中から出てきたような幻想的な印象。その顔は感情を失くしたように無表情で、その無垢な瞳に見られると、全てを見透かされているようにさえ思う。雰囲気が先程までと違う、何か人でないものと対峙している感覚をその場にいる全員が感じた。
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