国助く禍津剣

dada

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 「え?こちらが武神兵団の方ですか?」
 アイリス達と再会したウィルは思わず疑問を口にしていた。
 「あ、いえ、すいません。その、どうしても、皆様がお若く見えてしまったものですから。」
 後から自分の発言が不遜なものに聞こえると気付いて、慌てて弁明の言葉を口にする。
 「ああ、俺は十六です。隣のソフィーは十四ですよ。」
 「・・やはり若い、武新兵団とは、アルバート王国の最高戦力の一つと窺っておりましたが、皆さんそんなにお若いのですか?」
 これはウィルの横でレイアから出た言葉だ。彼女も改めて聞かされると、彼等の素性と外見がうまく噛み合わないと思っていた。
 「うちはですね。十代だけなら三人居ますよ。それ以外は二十代が七人と三十代が二人、あと団長の武神です。」
 補足としてソフィーが付け加える。
 「総勢十三人ですか・・・数々の武功を考えると、とても信じられません。」
 ウィルは呆気にとられているようだ。
 「それで、この村にあった遺体は、皆さんで弔っていただいたんですね。」
 変に警戒されるのもどうかと思い、エレインがアイリスに話し掛けた。
 「ええ、他国の事とはいえ、亡骸がそのままであることに抵抗がありましたので、勝手なこととは分かっていたのですが、やらせていただきました。」
 アイリスがアキラ達三人に頭を下げる。彼女等は村人の遺体を一ヶ所に集め、荼毘に付した。
 「いえ、むしろこちらがお礼を申さねばならないところです。有り難うございました。」
 アイリスが頭を下げるのをエレインが遮り、逆に彼女とアキラ、ソフィーは頭を下げお礼を言った。
 「感謝の言葉もありません。村人達もアイリス様に供養していただけたこと、光栄に思っているでしょう。」
 そう言ってエレインはもう一度深々と腰を折り、感謝を伝えた。
 「私達は当たり前の事をしたまで、宜しければ墓穴と、墓標もたてさせていただきます。」
 アイリスはそう言い、杖を持ち目を閉じた。申し訳ないから断ろうと一瞬思ったエレインだが、アイリスの魔法発動の兆候が見られたので、何も言わず彼女に任せることにした。
 彼女が集中した時間はほんの一時で、すぐに目を開き杖を地面に軽く打ち付けた。
 すると地面に亀裂が走り、みるみるうちに亀裂が広がり大穴が空く。
 穴の深さは二メートル位だろうか。そこへ皆で、遺骨を丁寧に納めていった。アイリスがもう一度杖を地面に打つと、周りの土が集まってきて穴が埋まる。
 最後に杖をまた打ち付ける。埋めた後に周りの土が集まり、そのまま固まり、土が硬化して墓標になった。
 「これが精霊魔法?」
 エレインの横でソフィーが口を開いた。
 「そうよ。精霊と対話し、その力を借りることで普通の魔法より高度な力を操ることが出来るの。」
 「ん?どういうこと?」
 尚も疑問が抜けないソフィーに、エレインが再度説明する。
 「私達は普段魔法を使っているけど、それには自らの生命力_オドと、自然界の力_マナを合わせて使っているということは知っていると思うけど。」
 ソフィーは無言で頷く。
 「このマナというのは世界に溢れる元素の下位精霊のことなの。つまり魔法はオドと下位の精霊で行われているのよ。」
 「ふうん、つまり精霊術士はその下位精霊を上手く使うから、普通の術士より強力なの?」
 「まあ、それもあるけど。この下位精霊を統括する上位精霊というのがあるわ。それらと契約して扱うことで、より高度な術が可能になる。常人が三割ほどしか使えない魔法力を十割で発揮することが出来るの。」
 「へー、それはすごいね。じゃあエレイン姉さんや私も精霊術士になれば、今の倍以上の魔法力になるわけ?」
 解説を聞いて納得したソフィーが軽い感じでエレインに問うた。
 「いいえ、誰でもなれるわけではないの。まず精霊を視る能力がいるし。これは完璧に才能の部分だから、視れる人はかなり少ないのよ。」
 「あー、なるほど。それで精霊術士は極端に少ないのか。」
 という風にソフィーが言った。精霊術士はかなり稀少だ。一国に一人居ないこともざらである。
 「お隣のロラン王国のお姫様が、まさか精霊術士だなんて、なんだかすごい。」
 「・・・そうね。」
 何気なく口を開くソフィーを他所に、エレインは微妙な表情で相づちを打った。他国の中枢に強力な術士がいるというのは、自国にとっては警戒すべき事ではある。
 逆にいうと、そんな重要人物を今回の偵察任務に向かわせるロラン王国の意図が分からない。表向きは偵察だが、恐らく戦闘は避けられないし、かなり危険な魔物と遭遇する可能性もあるのだ。護衛の二人が手練れなのは見て分かるが、絶対的な安全とは決して無いのである。
 しかし、このエレインの懸念は以外と早く解決した。
 「それでは、早速件の塔にむかいましょうか。」
 供養の献花を終え、立ち上がったアイリスは決意新たに、爛々と瞳を輝かせていた。その瞳の中にはこれからいく場所への不安など微塵もない。
 (あ、なるほど。お姫様はどうやら学者気質だったみたいね。)
 知的好奇心で満ちたその顔を見てエレインはそう思った。
 「姫様、もうすぐ日が暮れます。今日のところは夜営をし、明日調査に向かうことにしましょう。」
 アイリスの護衛のウィルが口を開いた。確かにもうすぐ日が暮れる。光源が乏しい中で調査というのはあまりよろしくはない。
 「何でです?光なら私が魔法で照らしますから、問題ないですよ!」
 興奮しているのか、アイリスがやや大きな声で反論する。彼女は早く塔に行ってみたくて仕方がないようだ。
 「えー、ロラン王国の姫様。僕達からも言わせてもらえれば、夜の探索は自殺行為です。ただでさえ現場の危険度はわかりませんから。少しでも安全に調査するためには明日の日が高いうちに行うのがいいでしょう。」
 これはアキラだ。彼は今言ったように夜のうちから調査などしたくもない。自分達に危険になることは率先して行いたくないし。それに武神兵団の連中だけなら多少無茶しても最後は生きて帰れると思うが、一緒に行くロラン王国の人間の力が不確定だ。もしかしたら彼等の分までカバーしなければいけない可能性もある。
 「姫様、私も夜の探索は可能な限り避けるべきだと思います。」
 最後にもう一人の護衛のレイアにそう言われる。
 「・・・分かりました。塔の調査は明日の朝からにして、今夜はここで夜営をしましょう。」
 少し不満そうだが一応の納得をして、アイリスが頷いた。
 
 「やっぱり、先程まで遺体が近くにあった場で寝床を作るのはちょっと抵抗があるから。」
 そう言いながらエレインは、アキラが抱えていた荷物の中から鍋を取り出している。初めから何日かかかると分かっていたから自炊の道具は持ってきていた。
 「そうですね。まだここは屋根があって比較的綺麗で助かりました。」
 アイリスは周囲から枯れ木や廃材木を集めて焚き火の準備をしている。彼女にはレイアが側で手伝い、片時も眼を離していない。過保護に思われるかもしれないが、アイリスはロラン王国の姫。護衛がウィルとレイアの二人だけというのが少なすぎるのである。
 ここは村の中にある教会だ。精霊を奉る教会で、魔物の襲撃の痕があまり無い。建物の外壁は所々崩れかけているところもあるが、中は綺麗なものだった。村人の遺体もこの建物には無かったのも彼等がこの場所を選んだ理由でもある。
 アキラは近くの川で捕れた魚を手早く捌き、切り身にした。同じく近くの森で捕れた芋や山菜を川の水で洗い、食べやすい大きさに切る。森で一緒に、野鳥を二羽仕留めたので羽をむしりこれも捌く。
 因みに魚はソフィーに捕りに行かせ、山菜類はウィルが採ってきた。野鳥もウィルが弓矢で仕留めてきたものだ。
 アキラが武神より教えられた、料理を造る上で大切なことは、皆で協力すること。そして手早く美味しく造ることだ。食事は生活の上で何よりも大切な行為だと武神は言っていた。たとえ造る当番でなくても、手が空いていれば何か手伝う。というのが武神兵団の方針だ。それに、料理は段取り良く、それでいて丁寧に仕上げろと言う。これは調理だけではなく、戦いや日常生活にも精通する事だとも武神は口を酸っぱくして言っていた。
  アキラは自分の父親のような武神の事を絶対的に信じている。それは盲目的に追従して彼に依存しているのではなく、武神の行いや教えが正しい事だと自分自身で理解できているからだ。
 だから隣国の、王族の護衛になるような優秀な兵士でも彼には関係ないので容赦なく使う。
 「ウィルさんは森の知識が豊富なんですよね?」  
 教会に行くことに決めた時、アキラはウィルに唐突に話し掛けた。
 「?、まあ、私の国は大森林があるので、昔からその手のことは教えられておりますが。」
 いきなり何だと思いながら、ウィルは答えた。
 「じゃあ、森の中の食べれる芋や山菜を採ってきて下さい。ああ、野ウサギとか、何か獣で食べれそうなのがいたら、それもお願いします。」
 「・・・え?」
 「いえ、夕食にするのに手持ちのじゃ少ないので、ウィルさんは森で食材を集めて来て下さい。と言ったんですけど」
 いや、聞こえてはいたがウィルは耳を疑った。
 今日会ったばかりの、外国の特使を、顎で使うような真似をするか?普通は出来ないと彼は思う。
 (こいつ・・、私はロラン王国の誇り高き近衛隊長だぞ!これだから野蛮な傭兵なぞとは一緒に居たくないのだ。)
 心中では怒り心頭、彼は頬をひくつかせながら何とか笑みをつくった。
 「・・はい、それでは何か森の中で探して参ります。」
 そう言って森へ向かって歩いていくウィルに、
 「あー、川の方はソフィーに行かせてますんでそっちは大丈夫なんで、そこ以外でお願いします。」
 アキラはウィルの背中に声を掛けた。彼は聞こえているのかいないのか、振り向きもせず憮然とした歩調で森に入っていった。

 
                                                
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