22 / 25
22
しおりを挟む
赤褐色の岩盤が鋭く切り立っている大地。エレインは見知らぬ土地に飛ばされた焦りよりも、蒸せ返るような暑さを感じて天を仰いだ。頭上には灼熱の太陽がギラギラと輝いている。
気温は五十度を越えていた。エレインは直ぐに冷却の風魔法を発動させる。水と風の混合術で周囲の温度を下げようとしたが、水分はすぐに干上がり元の気温に戻ってしまう。
「・・・マナが、少ない・・」
彼女はその時、自分の魔法の効力が弱まっていることに気づいた。
「どうかね?ここでは元素精霊が極端に少ない。普段使っていた術もここでは上手く使えないのではないか?」
いつの間にかエレインの前には漆黒のローブを身に纏ったメフィストが立っていた。
「別にこれぐらいどうってことないけど、それにしてもあんたは暑そうな格好してるわね」
額に汗を滲ませている彼女に対して、メフィストは厚手のローブを着ていても涼しい顔をしている。
「ああ、私の心臓はずいぶんと昔に止まっている。私はアンデッドなのだよ。生きているときのような無駄な代謝は必要無い。」
そう言うメフィストの顔はやはり蒼白で、エルフだからというだけでなく、人を越えた不気味な美しさが漂っていた。
「どうりで・・・他人の命を何とも思わないクズ野郎だと思った。」
エレインは相変わらず苛立ちを隠そうともしない。不敵な言葉を放ちながら、眼は鋭くメフィストを睨み付けている。
「無駄話も良いが、早速術比べを始めようではないか。私とまともな勝負が出来そうな術士は最近では居なかったのでな。お前には期待している。」
そう言うメフィストの顔は本当に喜んでいるような無邪気な微笑みだ。彼は不意に眼前で人差し指と中指を立てて真横に払った。エレインはその何気無い仕草に過剰に反応して、今時分がいた場所から素早く横に身を翻す。
すると彼女が元いた場所の足場に大きな爪で切り裂いたような亀裂が走った。メフィストの指と同じ二本の爪痕だ。
「おお、よくかわしたな。」
言いながらメフィストは次々と指を縦に横に斜めに払っていく。その度にエレインのいる場所に無数の爪痕が刻まれる。
(くそっ、空間魔法の一種か・・私の座標に空間の断層を刻んでいる?これは防御は・・・・)
「防御は不可能である。この刃は放たれるのではなく、既にそこにあるものをずらすことで切りつけている。故に、対象との間に物質を挟み込むことは無理なのだ。」
エレインの心を読み取るようなメフィストに普通なら恐怖するであろう場面だが、エレインは元々が気が強い、普通ではなかった。
「分かってるわよ!いちいち言わんでも!すぐにっ、ぶっ飛ばしてやるからっ、覚悟しとけ!」
息を切らしながら不可視の刃を避け、彼女は吠えた。エレインも身体は鍛えている方だが、無数に繰り出されるメフィストの空間断裂の魔法は避けるだけでひどく疲れる。
空間魔法は解明が殆ど進んでいない超希少高等魔法だ。これに属性は無く、一般に無属性といわれる分類。マナを使わずオドだけで発動させる魔法なので余程の化物でもない限り連発することは無理なはずだが、メフィストは惜し気もなく魔法を放っている。何かからくりがあるか、目の前のアンデッドが神か悪魔と肩を並べる化物なのか、今は分からなかった。
考えが上手く纏まらない。灼熱の太陽の下で肉体を常人を遥かに越える速度で行使し続ける。これをしながら見えない刃を避けることは精神的にも消耗しているのは自分でも気付いていた。
とその時、エレインの足元がぐらついた。疲労で一瞬躓きそうになったのである。そこをメフィストは見逃さなかった。今まで片手で放っていた刃を両手に変えて二倍の量で繰り出す。エレインは何とか体制を立て直し、肉体強化の術を最大威力にして転げ回るように回避行動に入った。
例に漏れず、彼女のいた場所には夥しい数の傷跡が残るのだが、今回はそのうちの一つを受けてしまった。
「足か、これは上乗。」
メフィストの邪悪で無邪気な笑みが強くなる。彼の前にはエレインの右足が脛の辺りから落ちていた。先ほどの刃を避けそびれた結果だった。
悲鳴もあげずにエレインはきつくメフィストを睨む。
「ふふっ、術比べをしたかったのだが、一方的にいたぶるような格好になってしまったな。」
言いながら、ゆっくりとエレインに近付いてくる。
「・・・・あんたさ、あたしの得意属性って何か知ってる?」
「・・・何だ?今日初めて会った貴様の事なぞ知るか。」
意味不明な質問に答えるメフィスト。
「答えは基本属性全てよ。得意な魔法は火、水、風、土の魔法、でも光と闇だって使おうと思えば使える。」
彼女は目の前に両手を広げた。
「無属性はまあ、殆ど使えないけど、その代わり基本属性は極めているわ。そしてこれは水の魔方陣。」
そう言うとエレインとメフィストを包む半径十メートルの円が地面に浮かび上がる。
「次はこっちの番。」
エレインは一瞬で魔法を構築した。メフィストを無数の水の塊が取り囲む。彼女が念を送ると、その水の塊がメフィスト目掛けて高速で打ち込まれた。
メフィストは咄嗟にウィルの矢を避けたように空間魔法を発動しようとして、それが上手く使えないことに気付く。高速で飛んでくる水の塊をもろに受けてしまった。鈍い音と共にメフィストは腹や顔面を打たれて身体をくの字に折る。
「あ、そうそう。この魔方陣の中は私の水の魔法以外は発動しにくくなってるよ。確かにこの場所はマナが全然無いけど、自分の領域の中だけなら上位精霊を呼んで高密度のマナで満たせるから。いくらオドだけで使う空間魔法でもある程度阻害されて使いにくいとおもう。」
「・・・・っ、何を!」
するつもりだと言おうとしたメフィストであったが、エレインが指をパチリと鳴らすると彼の足下に新たな魔方陣が浮かび上がり、即座に大きな炎柱が彼を包み込んだ。 炎柱は アンデッド一匹を焼くには十分すぎる業火を放ち、やがてその炎は消え去った。
一瞬で黒い消し炭になるメフィスト。だが彼の胸の辺りから光が漏れる。その光は次第に全身を包み、瞬きする間に消え去った。中から出てきたメフィストには先程までの重傷だった傷痕が何一つ残っていなかった。
気温は五十度を越えていた。エレインは直ぐに冷却の風魔法を発動させる。水と風の混合術で周囲の温度を下げようとしたが、水分はすぐに干上がり元の気温に戻ってしまう。
「・・・マナが、少ない・・」
彼女はその時、自分の魔法の効力が弱まっていることに気づいた。
「どうかね?ここでは元素精霊が極端に少ない。普段使っていた術もここでは上手く使えないのではないか?」
いつの間にかエレインの前には漆黒のローブを身に纏ったメフィストが立っていた。
「別にこれぐらいどうってことないけど、それにしてもあんたは暑そうな格好してるわね」
額に汗を滲ませている彼女に対して、メフィストは厚手のローブを着ていても涼しい顔をしている。
「ああ、私の心臓はずいぶんと昔に止まっている。私はアンデッドなのだよ。生きているときのような無駄な代謝は必要無い。」
そう言うメフィストの顔はやはり蒼白で、エルフだからというだけでなく、人を越えた不気味な美しさが漂っていた。
「どうりで・・・他人の命を何とも思わないクズ野郎だと思った。」
エレインは相変わらず苛立ちを隠そうともしない。不敵な言葉を放ちながら、眼は鋭くメフィストを睨み付けている。
「無駄話も良いが、早速術比べを始めようではないか。私とまともな勝負が出来そうな術士は最近では居なかったのでな。お前には期待している。」
そう言うメフィストの顔は本当に喜んでいるような無邪気な微笑みだ。彼は不意に眼前で人差し指と中指を立てて真横に払った。エレインはその何気無い仕草に過剰に反応して、今時分がいた場所から素早く横に身を翻す。
すると彼女が元いた場所の足場に大きな爪で切り裂いたような亀裂が走った。メフィストの指と同じ二本の爪痕だ。
「おお、よくかわしたな。」
言いながらメフィストは次々と指を縦に横に斜めに払っていく。その度にエレインのいる場所に無数の爪痕が刻まれる。
(くそっ、空間魔法の一種か・・私の座標に空間の断層を刻んでいる?これは防御は・・・・)
「防御は不可能である。この刃は放たれるのではなく、既にそこにあるものをずらすことで切りつけている。故に、対象との間に物質を挟み込むことは無理なのだ。」
エレインの心を読み取るようなメフィストに普通なら恐怖するであろう場面だが、エレインは元々が気が強い、普通ではなかった。
「分かってるわよ!いちいち言わんでも!すぐにっ、ぶっ飛ばしてやるからっ、覚悟しとけ!」
息を切らしながら不可視の刃を避け、彼女は吠えた。エレインも身体は鍛えている方だが、無数に繰り出されるメフィストの空間断裂の魔法は避けるだけでひどく疲れる。
空間魔法は解明が殆ど進んでいない超希少高等魔法だ。これに属性は無く、一般に無属性といわれる分類。マナを使わずオドだけで発動させる魔法なので余程の化物でもない限り連発することは無理なはずだが、メフィストは惜し気もなく魔法を放っている。何かからくりがあるか、目の前のアンデッドが神か悪魔と肩を並べる化物なのか、今は分からなかった。
考えが上手く纏まらない。灼熱の太陽の下で肉体を常人を遥かに越える速度で行使し続ける。これをしながら見えない刃を避けることは精神的にも消耗しているのは自分でも気付いていた。
とその時、エレインの足元がぐらついた。疲労で一瞬躓きそうになったのである。そこをメフィストは見逃さなかった。今まで片手で放っていた刃を両手に変えて二倍の量で繰り出す。エレインは何とか体制を立て直し、肉体強化の術を最大威力にして転げ回るように回避行動に入った。
例に漏れず、彼女のいた場所には夥しい数の傷跡が残るのだが、今回はそのうちの一つを受けてしまった。
「足か、これは上乗。」
メフィストの邪悪で無邪気な笑みが強くなる。彼の前にはエレインの右足が脛の辺りから落ちていた。先ほどの刃を避けそびれた結果だった。
悲鳴もあげずにエレインはきつくメフィストを睨む。
「ふふっ、術比べをしたかったのだが、一方的にいたぶるような格好になってしまったな。」
言いながら、ゆっくりとエレインに近付いてくる。
「・・・・あんたさ、あたしの得意属性って何か知ってる?」
「・・・何だ?今日初めて会った貴様の事なぞ知るか。」
意味不明な質問に答えるメフィスト。
「答えは基本属性全てよ。得意な魔法は火、水、風、土の魔法、でも光と闇だって使おうと思えば使える。」
彼女は目の前に両手を広げた。
「無属性はまあ、殆ど使えないけど、その代わり基本属性は極めているわ。そしてこれは水の魔方陣。」
そう言うとエレインとメフィストを包む半径十メートルの円が地面に浮かび上がる。
「次はこっちの番。」
エレインは一瞬で魔法を構築した。メフィストを無数の水の塊が取り囲む。彼女が念を送ると、その水の塊がメフィスト目掛けて高速で打ち込まれた。
メフィストは咄嗟にウィルの矢を避けたように空間魔法を発動しようとして、それが上手く使えないことに気付く。高速で飛んでくる水の塊をもろに受けてしまった。鈍い音と共にメフィストは腹や顔面を打たれて身体をくの字に折る。
「あ、そうそう。この魔方陣の中は私の水の魔法以外は発動しにくくなってるよ。確かにこの場所はマナが全然無いけど、自分の領域の中だけなら上位精霊を呼んで高密度のマナで満たせるから。いくらオドだけで使う空間魔法でもある程度阻害されて使いにくいとおもう。」
「・・・・っ、何を!」
するつもりだと言おうとしたメフィストであったが、エレインが指をパチリと鳴らすると彼の足下に新たな魔方陣が浮かび上がり、即座に大きな炎柱が彼を包み込んだ。 炎柱は アンデッド一匹を焼くには十分すぎる業火を放ち、やがてその炎は消え去った。
一瞬で黒い消し炭になるメフィスト。だが彼の胸の辺りから光が漏れる。その光は次第に全身を包み、瞬きする間に消え去った。中から出てきたメフィストには先程までの重傷だった傷痕が何一つ残っていなかった。
0
あなたにおすすめの小説
ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!
クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。
ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。
しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。
ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。
そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。
国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。
樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。
大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ
鮭とば
ファンタジー
剣があって、魔法があって、けれども機械はない世界。妖魔族、俗に言う魔族と人間族の、原因は最早誰にもわからない、終わらない小競り合いに、いつからあらわれたのかは皆わからないが、一旦の終止符をねじ込んだ聖女様と、それを守る5人の英雄様。
それが約50年前。
聖女様はそれから2回代替わりをし、数年前に3回目の代替わりをしたばかりで、英雄様は数え切れないぐらい替わってる。
英雄の座は常に5つで、基本的にどこから英雄を選ぶかは決まってる。
俺は、なんとしても、聖女様のすぐ隣に居たい。
でも…英雄は5人もいらないな。
無能妃候補は辞退したい
水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。
しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。
帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。
誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。
果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか?
誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。
その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。
そこで待っていたのは、最悪の出来事――
けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。
夫は愛人と共に好きに生きればいい。
今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。
でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。
妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。
過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる