国助く禍津剣

dada

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  赤褐色の岩盤が鋭く切り立っている大地。エレインは見知らぬ土地に飛ばされた焦りよりも、蒸せ返るような暑さを感じて天を仰いだ。頭上には灼熱の太陽がギラギラと輝いている。
 気温は五十度を越えていた。エレインは直ぐに冷却の風魔法を発動させる。水と風の混合術で周囲の温度を下げようとしたが、水分はすぐに干上がり元の気温に戻ってしまう。
 「・・・マナが、少ない・・」
 彼女はその時、自分の魔法の効力が弱まっていることに気づいた。
 「どうかね?ここでは元素精霊が極端に少ない。普段使っていた術もここでは上手く使えないのではないか?」
 いつの間にかエレインの前には漆黒のローブを身に纏ったメフィストが立っていた。
 「別にこれぐらいどうってことないけど、それにしてもあんたは暑そうな格好してるわね」
 額に汗を滲ませている彼女に対して、メフィストは厚手のローブを着ていても涼しい顔をしている。
 「ああ、私の心臓はずいぶんと昔に止まっている。私はアンデッドなのだよ。生きているときのような無駄な代謝は必要無い。」
 そう言うメフィストの顔はやはり蒼白で、エルフだからというだけでなく、人を越えた不気味な美しさが漂っていた。
 「どうりで・・・他人の命を何とも思わないクズ野郎だと思った。」
 エレインは相変わらず苛立ちを隠そうともしない。不敵な言葉を放ちながら、眼は鋭くメフィストを睨み付けている。
 「無駄話も良いが、早速術比べを始めようではないか。私とまともな勝負が出来そうな術士は最近では居なかったのでな。お前には期待している。」
 そう言うメフィストの顔は本当に喜んでいるような無邪気な微笑みだ。彼は不意に眼前で人差し指と中指を立てて真横に払った。エレインはその何気無い仕草に過剰に反応して、今時分がいた場所から素早く横に身を翻す。
 すると彼女が元いた場所の足場に大きな爪で切り裂いたような亀裂が走った。メフィストの指と同じ二本の爪痕だ。
 「おお、よくかわしたな。」
 言いながらメフィストは次々と指を縦に横に斜めに払っていく。その度にエレインのいる場所に無数の爪痕が刻まれる。
 (くそっ、空間魔法の一種か・・私の座標に空間の断層を刻んでいる?これは防御は・・・・)
 「防御は不可能である。この刃は放たれるのではなく、既にそこにあるものをずらすことで切りつけている。故に、対象との間に物質を挟み込むことは無理なのだ。」
 エレインの心を読み取るようなメフィストに普通なら恐怖するであろう場面だが、エレインは元々が気が強い、普通ではなかった。
 「分かってるわよ!いちいち言わんでも!すぐにっ、ぶっ飛ばしてやるからっ、覚悟しとけ!」
 息を切らしながら不可視の刃を避け、彼女は吠えた。エレインも身体は鍛えている方だが、無数に繰り出されるメフィストの空間断裂の魔法は避けるだけでひどく疲れる。
 空間魔法は解明が殆ど進んでいない超希少高等魔法だ。これに属性は無く、一般に無属性といわれる分類。マナを使わずオドだけで発動させる魔法なので余程の化物でもない限り連発することは無理なはずだが、メフィストは惜し気もなく魔法を放っている。何かからくりがあるか、目の前のアンデッドが神か悪魔と肩を並べる化物なのか、今は分からなかった。
 考えが上手く纏まらない。灼熱の太陽の下で肉体を常人を遥かに越える速度で行使し続ける。これをしながら見えない刃を避けることは精神的にも消耗しているのは自分でも気付いていた。
 とその時、エレインの足元がぐらついた。疲労で一瞬躓きそうになったのである。そこをメフィストは見逃さなかった。今まで片手で放っていた刃を両手に変えて二倍の量で繰り出す。エレインは何とか体制を立て直し、肉体強化の術を最大威力にして転げ回るように回避行動に入った。
 例に漏れず、彼女のいた場所には夥しい数の傷跡が残るのだが、今回はそのうちの一つを受けてしまった。
 「足か、これは上乗。」
 メフィストの邪悪で無邪気な笑みが強くなる。彼の前にはエレインの右足が脛の辺りから落ちていた。先ほどの刃を避けそびれた結果だった。
 悲鳴もあげずにエレインはきつくメフィストを睨む。
 「ふふっ、術比べをしたかったのだが、一方的にいたぶるような格好になってしまったな。」
 言いながら、ゆっくりとエレインに近付いてくる。
 「・・・・あんたさ、あたしの得意属性って何か知ってる?」
 「・・・何だ?今日初めて会った貴様の事なぞ知るか。」
 意味不明な質問に答えるメフィスト。
 「答えは基本属性全てよ。得意な魔法は火、水、風、土の魔法、でも光と闇だって使おうと思えば使える。」
 彼女は目の前に両手を広げた。
 「無属性はまあ、殆ど使えないけど、その代わり基本属性は極めているわ。そしてこれは水の魔方陣。」
 そう言うとエレインとメフィストを包む半径十メートルの円が地面に浮かび上がる。
 「次はこっちの番。」
 エレインは一瞬で魔法を構築した。メフィストを無数の水の塊が取り囲む。彼女が念を送ると、その水の塊がメフィスト目掛けて高速で打ち込まれた。
 メフィストは咄嗟にウィルの矢を避けたように空間魔法を発動しようとして、それが上手く使えないことに気付く。高速で飛んでくる水の塊をもろに受けてしまった。鈍い音と共にメフィストは腹や顔面を打たれて身体をくの字に折る。
 「あ、そうそう。この魔方陣の中は私の水の魔法以外は発動しにくくなってるよ。確かにこの場所はマナが全然無いけど、自分の領域の中だけなら上位精霊を呼んで高密度のマナで満たせるから。いくらオドだけで使う空間魔法でもある程度阻害されて使いにくいとおもう。」
 「・・・・っ、何を!」
 するつもりだと言おうとしたメフィストであったが、エレインが指をパチリと鳴らすると彼の足下に新たな魔方陣が浮かび上がり、即座に大きな炎柱が彼を包み込んだ。 炎柱は アンデッド一匹を焼くには十分すぎる業火を放ち、やがてその炎は消え去った。
 一瞬で黒い消し炭になるメフィスト。だが彼の胸の辺りから光が漏れる。その光は次第に全身を包み、瞬きする間に消え去った。中から出てきたメフィストには先程までの重傷だった傷痕が何一つ残っていなかった。  
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