いつか、君に灯す光

白崎ぼたん

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三話 百年ぶりの尊重

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 金輪が襖の向こうに吹き飛ぶ。
 灯が目を見開くより早く、白は灯にひざまずき、そっと灯の腕に触れた。

「兄さん」

 白の手は、やさしかった。自分におそれを抱いているような触れ方だった。それは、尊重というものだろう。この百年、受けておらぬものだった。

「兄さん、申し訳ありません。こんな……」

 そう言って、灯の唇を袖で拭った。そういえば、この方は閨だと言うのに平素の衣を着ている。上物の布が、自分の紅に汚れるのを、灯は戸惑いの目で見つめていた。

 白が指を鳴らした。あたりは一気に明るくなり、妖しい閨の空気が去った。女たちが泡を食った様子で参り、平伏する。

「余の恩人に、妾のような扱いをするとはどういう了見か」

 鬼気に、肌が弾け血がとんだ。
 己らの首が飛ぶ未来が見えたのだろう。女は震え上がり、失神するものまで出た。灯は、そっと白の腕をやり、「白さま」と止めた。

「どうかご容赦をお願いします」

 僭越なことであるが、自分のために、命が散るのは見たくない。白はひらりと振り返り、悲しいほどに気遣う目で灯を見た。

「けれど、兄さん。ぼくは……」
「あなたの手が、私のために汚れるのは見とうございません」

 どうかと頭を下げた。白は慌ててひざまずき、身を起こす。

「わかりました。兄さんのいいように」

 あまりに慌てるので、灯の方が心配になった。王たるお方が、罪人相手に、このような振る舞いをするを、見せてもいいものか。
 しかし、周囲としては呆気には取られても、侮りは見えなかった。すさまじい畏れを白に抱いているのが見て取れた。

「今度こそ、よきようにはからえ」

 白が命ずる。周囲の者は、大急ぎで出ていった。白は、灯に向き直り、指をふたたび鳴らした。

 灯の装いが変わる。
 艶やかな夜着から、衣に袴姿となる。白の衣に袴の白装束。これは、かつての灯が討ちいる時の正装であった。髪も一つに結わえられている。懐かしい着心地に、思わず己を見下ろす。

「普段の格好と迷いましたけど」

 白がはにかんで笑う。羽織にすがって甘えてこられたかつての姿を思い出す。
 今、自分の正装を誂えてくれたのは、自身への最大限の敬意だとわかる。
 それは、灯の心にじわりとしみいった。

「ありがとうございます。白さま」

 頭を下げると、白は頬を赤らめて笑った。灯に懐くように抱きしめて、「兄さん」とささやいた。

「ぼくの兄さん。おかえりなさい」
「白さま」
「とろいもんで、ずいぶんかかってしまいました」

 優しい声音は、変わらぬ。なのに、ずいぶん男らしく艶がのった。いろいろと楽しいこともあるであろうに、ずっと自分を忘れずにいてくれたのか。
 灯はありがたく、白の腕に身を預けた。



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