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四章
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しおりを挟む何とか部屋を脱出して、セドの用意が終わるのを待った。しばらくして部屋から出てきたセドは満足そうな笑みを浮かべていた。
思い出すと赤面しそうなので、なるべく朝の話題に触れないように大広間へと向かった。そこには既に、ナターシャのご両親が到着していた。心配そうな、不安のつまった表情をしていたがナターシャは落ち着いているように見える。
「……お集まりいただき、ありがとうございます。お父様、お母様」
「どうした、ナターシャ」
「実は……ここ数日、私はフィリシーナ様より舞踊を教わりました。というのも舞踊は、私が初めて興味が湧いた物事だったのです」
ナターシャによる説明が始まった。
「え……?」
「どういうことだ?」
「今まで……ずっと何事も努力するフリをして参りました。ですが、実際は興味が持てず本気になれぬ日々だったのです。結果は中途半端なものとなり、お父様とお母様を失望させてきたかもしれません」
「そんなこと……」
「ナターシャ……」
初めて打ち明けるナターシャの姿に、ギルバートさんと奥様は複雑な心境の表情を浮かべた。
「それでも、ようやく私は夢中になれるものに出会いました。それが舞踊です。ですが、この舞踊に才能がないまま習い出せば、今までと同じ道をたどる。そうなってはお父様とお母様だけでなく、私自身も苦しくなると思いました。ですから、フィリシーナ様に舞踊を教わりにいきました」
「そう、だったのか」
「はい。それで才能があるか否かを見極めてもらおうと思って。……最終的に下した決断は、お二人に見ていただくことです。だからここ数日、簡単な演目を練習していました。どうか、私が実際に踊る姿を見てほしいです」
「「……」」
突然の提案に直ぐ様反応ができぬものの、夫妻は笑顔で頷いた。
「あぁ、見せてくれるか?」
「ナターシャ、是非」
その姿は予想外だったのか、少しナターシャは驚いていた。
「も、もちろんです!」
勢いよく頷き、準備へと入った。
初めての披露。
それは私にとっても緊張が走るもので、どうか無事に終わるように心から願った。
そんな私の様子を気にして、優しく腰に手を回すとそっと抱き寄せたセド。
「大丈夫だ……あの娘からは、成功する姿が見える」
「勘、ですか」
「あぁ、俺の勘は当たる」
「……確かに」
何となくセドの勘は当たる気がした。
少しだけ不安を下ろしながらも、ナターシャを真剣に見つめた。ナターシャの集大成を、信じて見守る。
ナターシャならば必ずできる、と。
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