神嫌い聖女と溺愛騎士の攻防録~神様に欠陥チートを付与されました~

咲宮

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33.気遣いと愛の力

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 どうしてあの神は、私にこんな能力チートを授けたのだろう。神ーーやつは、これを祝福だと言っていた。

(何かに特化しすぎる能力なんていらない。平穏がもらえるなら、私はそっちの方がよかった)

 そう思い続けて、忘れることは決してなかったーー。



 子ども達の無邪気な様子が、トラウマをさらに鮮明に思い起こさせる。
 このままだと、あの子達は言葉通りになってしまうと思えば、私の息苦しさは余計に増していった。

 なにも考えられなくて、自分が今どんな顔をしているかもわからない。ただただ怖くて、どうしていいかわからなくなった瞬間、自分の名前を呼ぶ声がした。

「ルミエーラ様っ!」

 声の主は焦った声色で近付いてくると、すぐさま自分の方に引き寄せてくれた。

「大丈夫です。なにも問題ありません」
(大丈夫?)
「絶対に、大丈夫ですからっ……」

 ディートリヒ卿は私が落ち着くまで、ずっと言葉をかけ続けてくれた。その声はいつもの優しい声色と違って、どこか不安げで、自身にさえ言い聞かせているのかと思う程だった。

 温かな腕に包まれると、不安定だった感情もようやく消えていった。呼吸が安定して、理性を取り戻していく。

「ルミエーラ様……」

 ゆっくりと顔を上げると、そこにはいつも通りの、穏やかに優しく微笑むディートリヒ卿がいた。

「落ち着かれましたか?」
(…………たぶん)

 まだハッキリしない思考だけど、彼がなにを言っているかはわかったので、こくりと頷いた。

「……よかった」

 安堵したからなのか、抱き締める力は一層強まった。そこでようやく、自分がどんな状況にいるのか理解すると、慌ててその腕の中から離れた。

(な、なにしてるの私はっ……!)

 距離がゼロだったことに気が付くと、途端に恥ずかしくなってしまった。ペチッと両頬を叩くと、改めて自分の状態をメモ帳に書いて伝えた。

『私なら大丈夫です。本当にありがとうございます』
「お疲れですよね? ……すみません、少し馬を走らせ過ぎたみたいです。時間の余裕もありますし、休憩をしましょうか」
(ディートリヒ卿に非は何もない)

 むしろ凄く気を遣って、私の負担にならないような速度で進めてくれていたはずだ。まるで私が不安定になった責任の所在が、自分にあると言わんばかりの言葉を受け入れることはできなかった。

 けど、それが彼なりの優しさであることを知っているから、傷付けることなく無難に終えられるような言葉を選んだ。

『連日仕事を詰め込みすぎたみたいです。自分が思っているより疲労がたまっていたみたいで』

 あんな状態になった理由としては確実に説得力がない。けれども、それでもディートリヒ卿ならなにも言わず、突っ込まずにいてくれると思った。

 それに、本当に伝えたいことはここからだったから。

『それと! ディートリヒ卿のおかげで、快適な道のりでした。お気遣いいただき、本当にありがとうございます』

 ペコリと頭を下げたあと、感謝が伝わるように、今できる最大限の笑顔を添えた。

「ルミエーラ様のお役に立てることが、私にとって一番の喜びですから。とても光栄です」

 こうして微笑み合うと、なんとか雰囲気が元に戻り始めた。そして、ディートリヒ卿の心遣いをありがたくもらうことにして、休憩をすることを決めた。

「さっそく飲み物を……あ、すみません。落としてしまったので、もう一度買ってきますね」
(あ……)

 そう残すと、ディートリヒ卿は素早い動きで、落とした飲み物を処理すると、もう一度飲み物の購入に向かった。

(驚かせたよね……今まであんな姿見せたことなかったもの)

 無駄になってしまった飲み物に対して申し訳なく思いながら、真実を言えないことにも罪悪感を覚えた。

(けど、やっぱり詮索はしなかった)

 その行動は気遣いと一言で片付けることもできる。でも、なんだかそれだけではないような気がして。

(……本人に聞いたら、愛の力と返ってきそう)

 自分で予想をしてみると、思っている以上にしっくりきたので、この考えはそっと仕舞い込むことにした。

 一人考える時間はあっという間で、すぐにディートリヒ卿が飲み物を持ってきてくれた。

「ルミエーラ様」
『ありがとうございます』

 すかさず文字で伝えてから受け取った。

「これも一緒によろしければ」
(あ! チョコレートだ!)

 どうやら溶けないように、頑張って持ってきたのだという。ありがたくいただきながら、エネルギーを補給した。

 上機嫌で食べている間、ディートリヒ卿はずっと笑顔を浮かべて見守ってくれていた。

(……もしかしたら、あながち愛の力は間違ってないのかも?)

 そう思えてしまうほど、ディートリヒ卿の笑顔も甘い雰囲気を纏っていた。

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