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39.欠陥チートの意地
しおりを挟む二日間も更新を無断で休んでしまい、大変申し訳ございませんでした。
本日より、更新再開いたします。
よろしくお願いいたします。
△▼△▼△▼
幼い日に喋ることを諦めて以来、声を出すことは決してしなかった。そのせいで、上手く声が出せずに、掠れた少し汚い声がぽつりとこぼれ落ちた。
その瞬間、バンッ! と勢いよく図書室の窓の一部が開く。
「え……?」
ルキウスの困惑する声はここまで届いたが、そんなことを気にしている場合ではなかった。
(違う! そっちじゃないっ)
私が開けたいのは窓じゃなくて目の前の扉。だというのに、相変わらずこの能力は欠陥的で思い通りに作用してくれない。
(こんな時にも役に立たないなんて)
ぎゅっと手のひらに力が集中すると、様々な思いが込み上げてきた。
(……祝福と言うのなら、一度で良いから私の思うように力を発揮してよ)
焦りと不安が心を追い詰めて、私の胸が苦しくなってくる。泣きたくなるような、そんな気持ちが込み上げてきた。。
「開いて」
バンッ!
「何が起こって……」
開いた窓の隣の窓が開く。
扉に触れる手の力がさらに強まっていく。
「開いてってば」
バンッ!
「風、か?」
そのまた隣が開いていく。
どんなに切実な思いでも、それが届くことはなく。何度言っても開くのは目の前の扉以外。目の前の扉は微動だにせず、開くような様子は全くなかった。
ルキウスの声がどんどん困惑したものになっているが、それを気にする余裕はまるでなかった。
「ねぇ、お願いだからーー」
(……なんて、情けなくて惨めなんだろう)
自分一人ではなにもできない、ちっぽけな存在。聖女とは本当に名ばかりで、お飾りと称されるのが私にはふさわしい。そう考えてしまうと、扉に触れる力は段々と弱くなっていってしまった。
(私じゃ、開けることはできない)
そう諦めの感情が浮かぶと、手を下ろす。ただ悔しさだけが残ると、服をぎゅっと掴んだ。すると、くしゃりという音が私の耳に届いた。
(え……)
一体何事かと、反射的にポケットに手を入れると、紙が出てきた。
(これ……)
それは、宿を出る時に見つけた誰かの思想のような言葉。
“世界はしつこいくらい、事細かに言わないと理解してくれない”
その文字は、先程見た時よりも激しく引き付けられた。
(しつこいくらい事細かに……)
ほとんど反射的な衝動で、気が付けばもう一度扉に手を伸ばしていた。
「オルローテ王国に存在する神殿の図書室の扉を、今この瞬間、開けなさいっ……!」
誰よりも真剣に、切実な思いを言葉にのせる。届いたかわからないまま、言いきると扉に力を入れた。
ーーーーガチャリ。
(あ、開いた……!!)
無事、扉を開けることができた。安堵と喜びの感情が混ざった笑顔が無意識にこぼれ落ちる。
その感動に浸る余裕がないことに気が付かないでいると、こちらに急いで近付いてくる足音が聞こえてきた。
(絶対ルキウスだ! まずい、早く出ないと)
慌てて足に力をいれようとした瞬間、ふわりと体が宙に浮いた。
「ルミエーラ様、失礼します」
(ディートリヒ卿!)
真剣な眼差しで先を見据えると、ディートリヒ卿は物凄い勢いと早さで図書室の扉を走り抜けた。
「待ちなさい!」
後ろでルキウスの声が聞こえた気がしたが、だからといって止まるわけにはいかない。
それをディートリヒ卿も当然理解しているので、彼は走る足を緩めることは決してなかった。
◆◆◆
〈ルキウス視点〉
いつもと変わらない朝を向かえるはずだった。しかし、それはルミエーラの報告を任せた世話係であるソティカの訪問によって平穏が崩れ去った。
彼女の存在を他の神官に見られても面倒なので、誰もいない図書室へと移動した。
「手紙に、私が貴女を呼んだと書いてあったのですか」
「その通りでございます。あ、あの。何か手違いが」
「……私は書いた覚えがありません。実際、呼び出してすることもないですから。……一体どうなってるんでしょうか?」
何者かによって手紙に細工をされたのは間違いない。取りあえず状況を理解しようとしていた。
「何か良くないことが起こっているのは、間違いなさそうですね」
唯一言えるのはこれくらいで、考えてもすぐに答えはでなかった。ソティカも見当がつかないようで、ただひたすら困惑した表情を浮かべていた。
沈黙が流れていると、誰もいないはずの方向から物音が聞こえた。
「誰ですか!」
反射的に振り替えって、物音の方に急ぐ。するとそこには、神官が一人本を手にして立っていた。
「神官、そこで何をしているのですか」
「だ、大神官様っ!」
恐らく見習い神官と思わしき人物が、自分を目にして固まってしまう。
たまにいる、規律を守らない神官の存在に若干のイラつきを覚えていると、神官は言い訳をし始めた。
「ぼ、僕じゃありません!」
「何を馬鹿なことを……今ここにいるのら貴方でしょう」
「ほ、本当に僕じゃないんです!」
ため息が出そうになった瞬間、神官は驚きの発言をした。
「図書室は僕が来た時には開いていたんです!」
「……何ですって?」
そう疑問をこぼした瞬間、勢い良く窓が開いた。当然、誰も窓には触れていない。窓がひとりでに勝手に開いたのだ。
あり得ない状況に頭を働かせようとするも、上手くいかない。
「何が起こって……」
呟けば、すぐに隣の窓が開いた。
「風、か?」
そう言うことしかできなかった。あまりにも常識的には考えられない出来事だったから。目の前の神官もあわてふためいていた。
どうにか答えを導きだそうと頭を回転させるが、到底見つけることができそうになかった。
そんな状況に頭が痛くなり始めた時、誰かが勢い良く走る様子が見えた。
(なんなんだ一体!)
別の侵入者かと思って追えば、鍵を閉めはずの扉が見事に開いていた。
「!!」
その光景に驚く暇もなく、走っていた影は扉の前に立っていた神官らしき人物を抱えて走り抜けて行ったのだ。
「待ちなさい!」
その声はもう届かないほど、神官を「」抱えた人物の動きは俊敏だった。
(あれは……騎士?)
目を細めて確認すれば、見覚えのあるような後ろ姿が見えたのだった。
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