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53.祝福の所在

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 出会った頃と比べてやけに自信を失くし、神だというのに少しも神々しさがないレビノレア。
初めて会う人なら彼が神だと信じられないと思うほど、彼は憔悴しているように見えた。

 そんな相手に説明しろと強要するのは、少しばかり心が痛むものの、彼しかわかる存在がいないのだ。役目は果たしてもらわないと困る。

 その一心のみで、声を出した。

(まずい……これでレビノレアが話したくないことを話すことになったり、関係ない話の説明を始めたらーー)
「あぁ、もちろん説明する。というよりもさせてほしい」
(……大丈夫、なのかな?)

 見たところ、レビノレアが私の力に影響を受けている様子はなかった。

(……よかった。やっぱり聖女の力よりも、神の方が上だもの)

 私が安堵する中、レビノレアの表情は険しく苦しそうなままだった。

(…………まだ、返事をしてなかったな)

 そう心の中で呟けば、レビノレアを取り敢えずたたせた。向かい合うと、真剣な眼差しをレビノレアに向ける。

「謝罪は受け取ります。許す許さないは置いておいて、ですが」
「……!! ……ありがとう、受け取ってくれて」

 その瞬間、レビノレアは泣き出しそうになるものの、ようやく小さく笑みをこぼしたのだった。

「色々順を追って話さないとな……」
「お願いします」
「立ち話は疲れるよな……。待っててくれ、すぐに椅子を用意する」

 そういうと、レビノレアはどこかに歩き去った。

(……こういうのって、魔法みたいに瞬時に準備するんじゃないのね)

 神であるレビノレアなら、指パッチンくらいでできるものかと思ったが、現実は予想と大きく異なった。

 レビノレアは、すぐに二つの椅子を手にして戻ってきた。

「ありがとうございます」

 お礼を伝えて椅子に座ると、レビノレアは深呼吸をしていた。

「……ルミエーラ。この世界がループしているのは既に気が付いている……よな?」
「はい」
「ループしてしまう世界には、起点となる物がある。止まった時を止めるには、その起点を壊さなくてはいけない。ルミエーラは起点が何かわかるか?」
「……起点」

 起点となるもの。

 何度も繰り返し同じ時間を体験してきた者として、思い当たるものを考えていく。

(……ループは、必ず祝祭の朝に行われていた。けど、そんなに単純な話ではないはず)

 繰り返される世界で異なるもの、に思考を伸ばせば、ぼんやりと答えが見えてきた。

「もしかして、サミュエル様……ですか?」

 そう問えば、レビノレアは悲しそうに頷いた。

「具体的に言うと、サミュエルが起点になっているんじゃなくて、サミュエルが起点を作っているんだ」
「……それは、まるでサミュエル様が世界をループさせているように聞こえますが」
「その通りだ」
「!」

 思いもよらなかった返答に、驚き固まってしまう。

「サミュエル・ライノック。彼が世界をループさせ続けている。何度も」
「…………それは、可能なのですか。彼は一介の大神官に過ぎません。いくら神聖力が強くても、世界を戻すだなんて」

 不可能な話ではないのか。
 
 だが、もし本当ならば、サミュエルはこの世界の根幹を揺るがすほどの力を持っていることになる。まるで、私の欠陥チートのようなーー。

 パズルのピースが少しずつ繋がる。そして、考えもしなかった出来事、あり得ないはずの状況が組み立てられていく。

「もしかして……レビノレアはサミュエル様に祝福を与えたんですか」

 ずっと、サミュエルは“祝福を得るより前に失踪した大神官”と言われていた。あれだけ神を信仰していた方なら、祝福をもらえるはずだと、神殿の誰もが口を揃えるように述べていた。

 だが、考えたことはなかった。

 既にサミュエルは祝福をてにしていたのか、ということを。嫌な予感のように、緊張する声色でレビノレアに尋ねた。

「……あぁ」
「!!」

 レビノレアは、力なく首を縦に振った。

「…………」
「…………」

 沈黙が流れる。

 私は理解して整理するのに必死で、頭を回転させるのに夢中だった。

(つまりは、レビノレアが私のようにサミュエルに祝福を与えた結果が、ループする現状ということ?)

 今聞いたもの全てをまとめると、そうなった。原因はレビノレアなのではないかと。

 ただ、全く腑に落ちなかった。

(レビノレアが、わざと世界をループさせる力をサミュエルに渡すメリットはないでしょう)

 となれば、祝福を与えた過程に何かがあると考えるのが自然だった。

「何が起きたんですか」
「……」

 そう尋ねれば、レビノレアは丸くした目をこちらに向けた。

「……何かおかしなことを聞きましたか?」
「いや……責められると思っていたから」

 憔悴しきったレビノレアは、かなりの罪悪感を背負っているように見えた。

「責める要素があるかどうかは、聞いてから決めます。何も知らないのに、詰め寄るつもりはありません」
「ルミエーラ……」

 感動するような声色で、レビノレアはこちらを見つめていた。そして、意を決するとサミュエルとの出来事を話し始める。

「……サミュエルは、祝福を与えるべき存在だった。それだけ大神官として役目を果たし、揺るぎない信仰をし続けてくれたから」
「……」

 サミュエルの信仰心は、レビノレアまで届いていたのだという。

「でも、それは直前で崩れてしまった」


 
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