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60.焦りの理由
しおりを挟む更新が遅くなってしまい大変申し訳ありません。こちら金曜日分の更新となります。本日分は後程更新しますので、よろしくお願いいたします。
▽▼▽▼
無事にバートンからの許可ももらえたので、アルフォンスと二人出発の準備を急いでいた。
「……ルミエーラ様、飛ばしても大丈夫ですか?」
馬に乗ると、アルフォンスは教会の出入口を見つめながらそう告げた。
(うん、急ごう)
残された時間は少ない。それをわかっているからすぐに頷く。意思の確認ができると、アルフォンスは早速馬を走らせた。それにしても、思っているより勢い良く走り出したので、少し驚きながら力強く手綱を握った。
アルフォンスは私が振り落とされないようにガッチリと囲い、自分の方へと手繰り寄せた。
(……!)
少し恥ずかしくなりなると、それを紛らわせるように外の景色をきょろきょろと見渡した。表の通りに出た瞬間、馬車が現れた。
(……え、あれって)
見覚えのある雰囲気の馬車。その馬車の横を通りすぎていく。
(ルキウス……!)
馬車の窓から見えた中には、大神官の姿があった。恐らくあれは、教会に向かっている私の迎えの一行だったのだろう。
「……!」
ほんの一瞬、ルキウスと目が合うと、彼が大きく目を見開くのがわかった。
(……かつらもフードも被っているから……わからないと思うのだけど)
そう思っていても不安が過ったが、私達は振り返ることなくそのままサミュエルの元へと急いだ。
◆◆◆
〈ルキウス視点〉
ルミエーラが神殿に来たことは、結局証明することができず、本人の口から聞くこともできなかった。
(それどころか、焦って言わなくて良いことまで言ってしまった)
焦りなのか怒りなのかわからないが、確かなもどかしさが一瞬理性を消してしまった。
(神殿に来てもらう、まだこれは確定事項じゃないのに)
それどころか、何とか神殿に連れてくることを食い止めようとしていたのだ。
ルミエーラという存在を聖女代理として認めず、お飾りとしても分不相応と主張していた反対派が、この祝祭を引き金に動き始めた。
話は、神殿の図書室に侵入者が現れた日までさかのぼる。
その日はルミエーラか確認をする前に、祝祭に関する会議を行っていた。事前に決まっていた予定だったので、これだけ終わらせて急ぎルミエーラの元へ向かうつもりだった。
「聖女様も二十歳となられましたね」
「……」
(普段はルミエーラのことなど一言も話題に出さないやつが何のつもりだ)
「今年は記念すべき年といっても過言ではありません。そろそろ、聖女様にも祝祭に参加していただくべきではありませんか?」
「……聖女のことを邪険にしている方が、どういう風の吹き回しですか」
あくまでも穏やかな口調で尋ねるが、反対派の神官長は嫌な笑みを浮かべながら続けた。
「誤解ですよ大神官様。いやね、何度も行ってきている祝祭ですが、毎年聖女様がいらっしゃらないというのも、さすがに神に対して失礼かと思いましてね」
「……そうですか」
その言葉が意図を隠すための上辺だけの言葉だということは、その場にいた全員がわかっていた。
「私は賛成ですね。前々から祝祭には聖女様が参加するべきだと思っていたので」
「……私も。お飾りとはいえ、役目はあるでしょう」
(……まずいな。反対派ではない神官は、元々参加させることを希望していた)
反対派と容認派は、意見が違うからこそ対立していた。そこを反対派が容認派と同じ意見ーー祝祭はルミエーラを神殿に連れてくるべき、という考えにしてしまえば、賛成されることは間違いなかった。
(……個人的には、あまり神殿に来させたくない)
何よりも本人が納得しない、そう思ってしまった。自分がルミエーラの立場でも、今まで直接的に関わってなかった祝祭に、突然参加しろと言われても受け入れられない。
(……それに、反対派は何を考えているんだ)
考えが読めない以上、簡単に案を通すわけにはいかない。そう思いながら、保留することにした。
そして、ルミエーラの元へ向かい図書室の一件を確認したのだった。
(あんなこと言うつもりじゃなかったのに…くそっ)
ため息をつきながら業務に戻れば、自分付きの神官から反対派の動きについて衝撃の報告を受けた。
「反対派が新しい聖女を用意しようとしている?」
「はい。反対派を取りまとめる神官長様が、一人の少女といるのを目撃いたしました。丁重に扱われている様子が怪しく調べたのですが、家族ではありませんでした。それと、少女が何やら不思議な力を使う所も見ました……」
「それは?」
「光を灯していたのですが……恐らく神聖力かと」
その瞬間、反対派の考えがわかった。
「……もしや、今度の祝祭で全てを覆すつもりか」
「かもしれません」
祝祭でその少女が聖女のような力を発揮すれば、新たな聖女として認めざるをえなくなる。そしてそれには、ルミエーラという存在を偽物に仕立てることで完結できることなのだ。
(させるか……!)
確かにルミエーラはお飾りで何の能力も持たない。しかし、彼女に秘められた神聖力は人並みのものではなく、聖女という名にふさわしいほどの膨大な量なのだ。
(……何としてでも食い止めねば)
それからというもの、ルミエーラを神殿に連れてくるべきという主張をどうにか切り伏せようとしたが、残念ながらできることには限界があった。最終的に祝祭に参加させるという意見が満場一致となった。もちろん、私を除いてだが。
どうすべきか策は何個も用意した。
しかし不安は拭えないまま、ルミエーラのいる教会に向かうことになったのだ。
「……!」
その道中、馬に乗った二人組が視界に映った。
「……ルミエーラ?」
まさか、教会外にいるはずがない。
そう思いながらも、何故か心の中ではこのまま逃げてくれという、どうしようもない感情が浮かび上がるのだった。
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