神嫌い聖女と溺愛騎士の攻防録~神様に欠陥チートを付与されました~

咲宮

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59.親のような神官長

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 ソティカに送り出されると、すぐさまアルフォンスと合流した。

「ルミエーラ様の格好を見る限り、どうやら今日は騒がしくなりそうですね」

 服装から状況を察してくれる辺り、やはりアルフォンスは有能だと思う。よく見てくれていることに、改めて喜びを感じながらも、急ぎバートンの部屋へ向かった。

「ルミエーラ、それにディートリヒ卿」

 バートンは何か準備をしていたのか、入った時には立ち上がっていた。

「良かった。ちょうど呼ぼうと思っていたんだ」
(……ルキウスが来る話ですよね)
「…………今日、実は大神官が来るんだ」

 バートンはルキウスの話を始めると思ったが、何故か少しだけ間を空けた。そして、その続きはなかなかすぐに話さなかった。言葉に詰まっているわけではなく、ただ純粋に何か悩んでいるように見えた。

 なんとなく、私はバートンの心の内がわかる気がした。そして、用意していた言葉をバートンに見せた。

『行きたくありません』
「!!」

 反応を見るからに、バートンが悩んだ内容は、私を神殿に送ることに関連していることは間違いない。

「……そうか。……ルミエーラが行きたくないというのなら仕方ないな。行かなくても良いんじゃないか」
「それで神官長様は良いのですか?」

 私の代わりにアルフォンスが疑問を返してくれた。

「……そういうディートリヒ卿も、大丈夫なのか?」
「私は任命されたあの日から、ルミエーラ様の騎士ですので。仕える主は神殿でも大神官様でもなく、ルミエーラ様です」
「……ははっ、そうか。それはいい」

 アルフォンスの言葉がしっくりきたのか、それまで淀んでいたバートンの雰囲気が段々と明るくなっていった。

「……全く。大神官様には困ったものだ。慣例と違ってルミエーラを神殿の方に連れていくなら、具体的な話を少なくとも一週間前には教えるべきじゃないのか? それを昨日の夜、いきなり明日聖女を迎えに行くと。それまでなんの音沙汰が無かったのに、いきなりだ。……私だって怒る権利はあると思うがね」
(全くもってその通りですね)

 うんうんと、同意しながらバートンの話を聞けば、本人は少し嬉しそうに笑みをこぼした。

(……その笑顔がまた無くなってしまうかもしれないけど、無断では教会を出たくないから)

 話の流れが途切れかけた今、私は一番伝えたかった言葉をバートンに見せた。

『神官長様、外出許可をください』
「…………」

 予想通り笑みは消え、スケッチブックに目線が釘付けになっていた。

(……駄目と言われても行きます、ごめんなさい)

 ただ伝えたかったのは、単なる私のエゴになる。無言で、無断で姿を消すことは、何年も面倒を見てくれた親代わりとも言える彼にすることではないと思ってしまったから。

 申し訳なさがじわじわと浮かんで来ながら、思わず目をそらしてしまった。何を言われても納得できる。バートンには神官長という立場があるから。そう思いながら言葉を待っていれば、バートンは盛大なため息をついた。

「はぁぁぁあっ」
(……うっ)

 説教でも来るか、そう身構えてしまった。

「やっとか、ルミエーラ」
(え……?)
「やっと外の世界に興味を持ったのか」
(……それって)
「純粋に嬉しいよ。神殿、そして教会。限られた世界で生きてきただろう? もしかしてルミエーラは外という概念を知らないのかと思ってたよ。歴代の聖女も神殿に籠っていたと聞いたからな」
(いや、聖女に向かってなんて失礼な)

 そう思いながら顔を上げれば、再びバートンに笑顔が戻っていた。

「まぁでも、ルミエーラに関する外出は禁止されている。これが神殿からのお達しなんだ」
「では、許可はいただけないのでしょうか」
(いただけないのでしょうかっ?)

 アルフォンスの優しい言葉と違って、キリッと睨むようにバートンを見る。軽く馬鹿にされた抗議も込めて、じっと見つめていた。

「昨日の夜までなら止めていたかもしれんな。たがあいにく、今は神殿に蔑ろにされてとても止める気分にはなれないんだ」
(……ということは!)

 細めていた目を一気に開けた。

「……行ってきなさい、ルミエーラ。外を見て帰ってきたくなくなったら、私はそれでも良いと思うんだ」
(……家出はしませんよ)
「だがな。心配になるから、帰ってこないなら一報いれなさい」
(家出しないですよ。戻ってきますから)

 でも、送り出す側の気持ちとしてバートンの言いたいことはわかった。その言葉ではなく想いを受け取ったという合図で、こくりと力強く頷いた。

「……さてと。私は仕事でも再開するかね。今日、ルミエーラ達とは会ってないことにするとしよう。……大神官様が到着する前に、さっさと行きなさい」

 すとんとバートンが席に着くと、私は深々とお辞儀をしてから部屋を後にするのだった。


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