神嫌い聖女と溺愛騎士の攻防録~神様に欠陥チートを付与されました~

咲宮

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70.騎士を探して

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 更新できずに大変申し訳ございません。本日夜にもう一度更新予定です。よろしくお願いいたします。

▽▼▽▼


 慣れないことをすると疲れるもので、本日二回も声を出したことが大きな反動として自分の肩に乗っかっていた。

(……何回回帰しても、やっぱりこの欠陥チートを使うのは怖いな)

 無事思うように発動してくれたから良かったものの、失敗する可能性も大いにあったのだ。現実に向き合うと、胸がきつく締め付けられた。

(……適当に走ってきたけど、ここはーー)

 立ち止まって呼吸を整えると、改めて周囲を見渡した。すると、前方には大きなお屋敷のほんの一部がわずかに見えた。他の貴族の家ではないかと、地図を広げながら何度も確認した。
 
(見たらわかる侯爵邸……あった)

 周囲の情報と合わせると、目の前に見えるお屋敷はディートリヒ侯爵邸で間違いなかった。確信を得ると感じていた疲労も小さくなり、足早に向かい始めた。

(……ここだ)

 商店街を通り抜けて少し歩くと、そこには立派なお屋敷があった。

(わぁ……教会が小さく感じる)

 改めて近くで見ると、その大きさに思わず感嘆した。一通り眺めると、今度は出入り口を見つけようと動く。

(我ながら見切り発車で来てしまった。聖女だと明かせば、中にいれてもらえる……といいのだけど)

 そんな期待を抱きながら、侯爵邸の門へと急いだ。

(……あれ? もしかして誰もいない?)

 貴族のお屋敷ともあれば、入り口の門に警備がいるものだと思っていた私は、誰もいない事実に困惑を隠せなかった。

 少しの間どうしようかとうろうろしていると、後ろから突然声をかけられた。

「あの、ディートリヒ侯爵邸に何か用ですか?」
(!!)

 驚きながら振り向けば、そこには騎士らしき青年がめんどくさそうな表情でこちらを見ていた。

「女性……」
(ど、どうしよう。どこから話せば)

 心の準備が足りていなかったこともあって、慌てながらバックに手を入れてスケッチブックを探す。
 
「お客様ですか?」
「副団長」
「……黙ってるということは違いそうですね」
(違います、喋れないんです)

 副団長と呼ばれる男性も、青年と同じく騎士の格好をしていた。物腰柔らかそうな見た目と声色だったが、私が何も答えないのを見ると一瞬で冷ややかな雰囲気をまとい始めた。

「副団長、またあれではないですか」
「恐らくそうでしょうね。……お嬢さん、お嬢さんもまた、団長を訪ねて来たんですか?」
(だ、団長って誰……?)
「沈黙は肯定とみなしますよ」
(え、ま、待って)

 私が慌てている間に彼らは「あれ」について話し始めた。

「困ります。団長の追っかけをするのは構いませんが、このように家まで押し掛けるのは。しっかりと秩序とマナーを守っていただきたい」
(追っかけ……過激なファンってことか)

 どうにか理解しようと、言葉の端々を拾って整理していた。その様子は、彼らにとっては沈黙を続ける者に見えたのか、副団長と呼ばれた男性はため息をつきながら、諭すように告げた。

「残念ながら団長……アルフォンス様は今こちらにいませんよ。ですのでお帰りください」
(団長ってアルフォンスのことか……! なるほど、今日はいないのね)

 一番知りたかった情報を手に入れると、ペコリとお辞儀をしてその場を後にした。

(また明日来よう。アルフォンスがいないなら意味がないわ) 

 偶然にも、男性が発してくれた言葉からは、大きな情報を得ることができた。

(良かった……アルフォンスはディートリヒ侯爵邸にいるのね)

 安堵しながら教会へと来た道を戻り始めた。

(一歩前進ね……それにしても、追っかけか。今回のアルフォンスは女性に人気のある騎士団長みたいね)

 聞いた限りの事実を整理すると、少し胸がもやもやしてきた。

(人気があるのか……それも女性に)

 別に悪いことではない。そう頭では理解できるのに、感情は複雑だった。その思考を振り払うように頭をふるふると動かすと、どうにか切り替えることにした。

(アルフォンスは生粋の騎士みたいね)

 この前までは神殿に属する騎士だった。でも今は、自分の家で騎士をやっている。サミュエルによって変えられてしまった運命だとしても、根本までは変わることがない、そんな気がして嬉しかった。

(それにしても侯爵家の騎士か……王都でも守ってるのかな)
 
 ディートリヒ侯爵邸自体が王都にあるため、可能性は十分に考えられそうだった。
 そんなことを考えながら歩いていると、物凄い早さで走る男に突き飛ばされた。

「どけっ!!」
(!!)

 あまりに突然のことで、驚く暇もないまま体が宙に浮いた。地面にぶつかる、そう思ってぎゅっと目を閉じた。

 しかしぶつかることはなく、代わりにふわりと誰かによって抱き止められた。

「大丈夫ですか?」

 それは、何度も聞いた懐かしい声。その声がずっと恋しくて、探し続けていた。

(アルフォンス)

 そっと目を開けて振り替えれば、会いたかった人がそこにいた。奇跡のような再会に、思わず笑みをこぼすのだった。
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