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104.改善された関係

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 翌日、神殿は慌ただしい朝を迎えた。

 祝祭当日。今日はレビノレアの誕生日であり、それを祝う儀式が行われる。

(王族が来るとは……)

 神殿の入り口には、王家の騎士団も厳重な警備のために配置についていた。

 その光景を眺めながら小さくため息をつくと、部屋の中に視線を戻してアルフォンスに話しかけた。 

「王族が反対派の目論見でここに来たとしたら厄介ね」
「そうですね。強固な後ろ楯を手に入れたということになりますから」
「……私が用意した後ろ楯とどちらが強固か勝負ね」

 そう言うものの、王家という絶対的権威の存在は不安を増幅させた。

「王家の力は確かに強大なものですが……ここは神殿ですので、はっきり言って勝負にならないかと」
「……ありがとう、アルフォンス。後は私次第ね」
「ルミエーラ様……その、決してルミエーラ様のお力を疑うわけではないのですが」
「えぇ」

 アルフォンスは心配そうな眼差しでこちらを見つめた。

「反対派の用意した聖女がもし、力を使えたとしたら」
「……大丈夫よ。声が出せているのもそうだけど、もう一つ理由があってーーーー」
「!!」
「ね?」
「……問題なさそうですね」

 アルフォンスを安心させていたところで、ルキウスが部屋に訪れた。

「ルミエーラ!! 一体どういうことなんだ!!」

 大きな声で扉を開けたルキウスは、ひたすら動揺しながらこちらにずかずかと歩いてきた。あまりの勢いに、アルフォンスが前に出て私を隠す。

「どきなさい、ディートリヒ卿。私はルミエーラに話がある」
「ここからでも聞こえますよ」

 ひょこっとアルフォンスの右側から顔を出してルキウスに目を合わせる。

「ルミエーラ、どういうことなんだ、一体どうなってるんだ……!!」
「どうですか、私の用意した後ろ楯は」
「どうもなにも……訳がわからない!」

 ルキウスが困惑気味に発狂する背後から、後ろ楯がつかつかと歩いてきた。

「取り敢えず、反対派に流れかけた容認派の重鎮はこちら側に留めておいた」
「ありがとうございます、サミュエル」
「……貴女に呼び出されれば参らないわけにはいきませんから」

 私の後ろ楯は、ついこの前まで対立関係であった男、前大神官のサミュエル・ライノックである。

「だ、大神官様! なぜいるのですか!」
「大神官は君だろう、ルキウス。落ち着きなさい。私は聖女に呼ばれて来ただけだ」
「それがもう意味不明なんです……!」

 ルキウスからすれば、失踪したはずの大神官が突然姿を現した故に混乱が収まらない。
 私としては、サミュエルが姿を消してから時間が経っていたので説得できるかは不安だったが、長い時間関係を構築した仲である故にどうにかなったようだった。

「大神官様、これに関しては後できっちりと説明しますので」
「………………わかった」
「ありがとうございます」

 未だに整理もままならないルキウスだが、事細かに説明するとなると時間が足りない。

「……サミュエル。王家の者が来ているようですが」
「あぁ……反対派のことですね。気になったので様子を見てきたのですが」
「見てきたんですか」
「い、いつの間に……」

 まさかの行動力に驚いたが、それ以上にルキウスの方が恐怖を抱くレベルで驚いていた。口ぶりから、二人は共に行動をしていたようだ。

 ここからはあまりルキウスに聞かせない方がよい話なのか、サミュエルから私とアルフォンスに目配せをした。
 
「大神官様、お疲れでしょう。お茶をおいれしますのでこちらへ」
「え? あ、あぁ。そうしよう……少し休みたい」

 ルキウスにとっては怒涛の出来事だったこともあり、すんなりと動いてくれた。空気を呼んでくれたのもあるが、言葉通り疲労も見えた。
 私とサミュエルは、机を隔てた上で向かい合って座る。

「……見届けることはできましたか」
「……はい。幸せそうな笑顔でした」

 一言だけ、そう交わして本題に入った。

「王家の人間、といっても招待に応じたのは第二王子マティアス殿下でした」
「…………」
「私もあの方には縁がありましたのでわかるのですが……彼も記憶保持者です」
「やっぱり…………それは今もでしょうか」
「間違いないかと」

 マティアス・オルローテ。彼もまた、回帰に巻き込まれてしまった一人。

「……何故記憶が?」
「マティアス殿下の場合、クロエの状況に類似しています。それが変化に気付いてしまうということ。それ以降は以前と違う出来事を、記憶に強く残すため覚えているのかと」
「変化に気付く……一体どうして」

 クロエさんは死という、想像も絶する痛みだった。ならばマティアスは。

「これは私の推測ですが、彼は抱いている想いが強すぎるのかと」
「想い、ですか?」
「えぇ。聖女様に対しての」
「私に……」

 どこかそんな素振りを感じてはいた。けれども、まさかそこまで強い想いだったとは考えもしなかった。

「聖女様が考えていられるより、マティアス殿下の想いは相当強く厄介ですよ。先程気配を消して盗み聞きをしてきましたが」
「何でもできますね……」
「神殿の構造は誰よりも熟知していますから」
「なるほど……?」

 ここまでサミュエルが進んで行動をしてくれるとは思わなかったので、少し驚くものの内心は嬉しかった。

「反対派とマティアス殿下が交わしていた話は、やはり聖女様を巡る話でした。今日聖女でくなっり大神官を引きずり落とせたら、聖女の身柄は第二王子に秘密裏に渡すと」
「!!」
「これは達成されないでしょうから、不発になるとは思います」
「…………必ず不発にさせます」
「ご武運を祈ります」

 助けるだけでなく、温かい言葉までかけてくれるサミュエルに気になることを聞いた。

「……何故そこまで動いてくださったのですか」

 元々頼んだのは、ルキウスを助けてほしいという一言だけだった。

「クロエが……貴女に恩があると」
「クロエさんが……」
「それに私の贖罪でもあります」
「……ありがとうございます」
「それと」
「…………それと?」

 改心した、というには軽い言葉かもしれないがサミュエルには淀んだ空気は一切見られなかった。

「単純に好きではないので。反対派が」
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