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113.花開く結婚式
しおりを挟む神殿に咲いた花は一か月経った今でも枯れることはなく、綺麗に咲き誇っている。今日はその花々に歓迎される日となることだろう。祝祭の祭壇が用意された会場。それが結婚式の会場となった。
(うわぁ……扉が閉まっているのにつたがはみ出てる)
あの会場に咲いた花を守るように、所々につたも存在していた。それが外にまで侵食しているとは思わなかったが。
「ル、ルミエーラ。私は右か? それとも左か?」
バートンは先程からずっと緊張しており、震えが止まっていない様子だった。
「右ですね」
「こっちか」
「そこは左かと」
「はっ!」
緊張して当然だとは思う。会場には大神官から重鎮まで、神殿の人から国王陛下まで参列されているのだから。
「ルミエーラ」
「はい」
「……辛かったらいつでも戻って来るんだぞ」
「……ありがとうございます」
あの教会はいつまでも私の居場所だから。そう思えるような言葉は胸にそっと染みこんでいった。前を向くと、それが合図のようなタイミングで会場の扉が開いた。
「行きましょう」
「あぁ」
大きな拍手が聞こえる会場へ、二人揃って歩き出した。
歩きながら周囲を見渡した。
後方には重鎮達が静かに座っていた。
(ガドル様、国王陛下……)
聖女である証明を見届け、聖女として認めてくれた方々。
右側の前方には、非常にお世話になった人がこちらを静かに微笑みながら見つめていた。
(サミュエル)
自分の愛を抑えきれず、苦しみ苦しめられたけど、現実を受け止めて再び歩き出すことを見つけた前大神官。
この会場にはいないが、もう一人思い馳せた。
(クロエさん)
愛した人がいて、愛したからこそ落ちた闇から光へ引き戻した強かな女性。
左側の前方には、ずっとそばにいてくれた人が涙を流していた。
(ソティカ…)
喋れないということに引け目を感じず、お飾りであっても一人の人間として向き合い続けてくれた世話係。
そして前方。奥には第二の保護者である人がいた。
(ルキウス)
私を聖女として良くも悪くも扱い続け、最後まで守ろうと動き続けてくれた大神官。
今日は神父の立場に立っていた。
触れている腕からは優しさが伝ってくる。
(バートン)
幼い頃から無下に扱わず、お飾りでも仕事を与えることで一人の人間としての成長を見守り続けてくれた神官長。
花びらが降って来た。
(……レビノレア)
この世界に連れてきた張本人で、人間のことが大切でしかたない。そんな性格は時には致命的になるけど、それが彼らしさでもある。とても神らしくは見えないけど、最初から最後までそして今も尚見守り続けてくれるこの世界の創造神。
多くの人に支えられてきて、今がある。その一つ一つを噛み締めて胸をいっぱいにしていく。
そしてもう一度前を向いた。
(アルフォンス)
どんな時があってもルミエーラという人を尊重して見つめ続けた。そして、最後まで共に戦い抜いたかけがえのない戦友。私の最高の騎士で、最愛の人
これから先はどうか、最期まで傍にいれますように。そう願いながら彼を見上げた。
「ルミエーラ様」
バートンからアルフォンスへと送り出される。バートンはこれ以上ないほどの優しい笑みで、涙を浮かべながら腕を下げた。その笑みに私も泣き出しそうな笑顔で応えた。そして、彼の方へと視線を向ける。
「アルフォンス」
私にとって唯一無二の、夫となる人。その人の手を微笑みながら取った。そして、前を向いてルキウスの言葉に答えた。
「新婦、ルミエーラ。貴女は健やかなる時も病める時も新郎アルフォンス・ディートリヒを夫として愛し 敬い 慈しむ事を誓いますか?」
「誓います」
「新郎、アルフォンス・ディートリヒ。貴方は健やかなる時も病める時も……何があっても、新婦ルミエーラを妻として愛し敬い慈しむ事を誓いますか?」
「……誓います」
その答えに、ルキウスは納得したように頷いた。
「では誓いの……」
そこまで言って、ルキウスは止まってしまった。
「?」
ちらりとルキウスを見れば、何故か凄く頑張った作り笑顔で微笑まれた。その笑顔がどこか面白くて、思わず声を殺して笑ってしまった。
「……失礼。誓いのキスを」
そう言われて、私とアルフォンスはもう一度向き合って見つめ合い直した。アルフォンスはそっとベールを取ると、今までに見たことないほどの眩しい笑顔で微笑んだ。その笑みを最後に、私はそっと瞼を閉じた。
アルフォンスは優しく大切そうに、口づけをするのだった。
(どうか、いつまでも幸せでいられますように)
そう願いながら、微笑むのだった。
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