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114.その後の神殿

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 三人称視点です。

▽▼▽▼

 結婚式から二年後。

 今日も神殿は慌ただしい一日を過ごしていた。あれからというもの、膿を出すだけ出し切った神殿は改革を行い一新した。大神官ルキウスが宣言したのは、血統主義ではなく実力主義にするということだった。同じ過ちを繰り返さないように下した決断だった。とはいえ、血統を無視するわけではなく、今までのように完全に重視するというやり方ではなくなったということだ。

大神官曰く、
「神への信仰心がある者まで切り捨てたりしない。だが家柄だけで考慮される時代は終わったというだけで、比重を変えるだけだ」とのことだった。

 かつての聖女反対派は神官という名を剥奪され、神殿に足を踏み入れることも許されなくなった。しかし、地方の教会に入ることは許されている。かつてサミュエルが懺悔をしたように、彼らもその資格があるからだ。

 一人の神官が、ルキウスに報告をしに来た。

「大神官様!! 見習い神官候補、全員集まりました!」
「わかった。すまない、ルミエーラ……聖女様を知らないか? 探してるんだが見当たらなくて」
「聖女様でしたら見習い神官選定の会場に」
「あのバカ大人しくしていろと言ったのに……! わかった、ありがとう」

 今日は五年ぶりに神殿で見習い神官を選定する日だった。

 ルキウスは足早に会場へと向かう。すれ違う神官たちから挨拶をされるが、全て軽く返していく。大神官という神殿のトップに立っていながらも、彼は動き回って常に仕事に追われていた。

「おや、ルキウス様。お急ぎですか?」
「アルフォンス! お前の妻が話を無視して仕事をしてる。あいつは身重だろう、止めてくれ」
「それは危ないですね。すぐに向かいます」

 大神官に声をかけたのは、聖女と結婚をした騎士アルフォンスだった。彼はあの後護衛騎士という任を解かれて、神殿の騎士団の団長を務めることになっていた。聖女として力が証明され、聖女自身が誰もかなわないほど最強になったので、護衛をつける意味があまりなくなったことが解任理由の一つだ。
 と言っても、護衛の仕事が発生しないのは神殿の中だけで、外出するときは常に一緒であった。

 アルフォンスはルキウスと共に会場へ急ぐのだった。



 場面は変わって選定会場。
 三十人の見習い神官候補が、席に着いている。彼らの視線の先には神殿の聖女が穏やかな微笑みをして立っていた。

「ようこそ神殿へ。神官を志す皆様を、神殿は歓迎いたします」

 落ち着いた口調と声色は柔らかな印象を持たせ、聖女としての品格を上手く演出していた。

「では早速、選定についてご説明いたしますね」

 この選定自体は一年前から決まっていたことで、その担当もルミエーラがするということまでが決定事項だった。それゆえ本人は動いているのだが、何せ身重になったので本来ならば大人しくしていないといけないのだ。

 説明を終えたところで、扉が勢いよく開かれルキウスが現れた。

「ルミエーラ!」
「あ、ルキウス様」

 つかつかとこちらに勢いよく歩いてくるが、その雰囲気は怒りをまとっていた。そんなことには少しも気が付かないルミエーラだったが、隣に来るや否や小さな声でお説教が開始された。

「お前は担当から外しただろう、何をやっているんだ。
「ですが私の担当ですから」
「臨機応変という言葉を知らないのか。いいか、体を大切にしろ」
「大丈夫ーーーーきゃっ」

 まだまだ反論するつもりのルミエーラだったが、アルフォンスに抱き上げられてしまい身動きが取れなくなってしまった。

「ではルキウス様、後はよろしくお願いいたします」
「もちろんだ。ルミエーラ、安静にな」
「わ、私の仕事……」

 ルミエーラの声はむなしく消えてゆき、アルフォンスによって会場を退場させられるのだった。

「ルミエーラ様、お気持ちはわかりますが無理をなさらないでください」
「でも本当に大丈夫なのよ?」
「限界が来た時にはもう手遅れですから。そうならないためにも、安静にしておきましょう」

 アルフォンスはルミエーラを説得するようにじっと見つめた。

「うっ」

 ルミエーラはこの視線に弱いようで、一分も経たないうちに降参した。

「わかった、仕事は控えるから。そんな目で見ないで」
「わかりました。では今日はもう帰りましょうか」
「帰れるの?」
「はい。本日分の指導は終わりましたので」
「じゃあ帰りましょう。下ろして、アルフォンス」
「さ、行きましょう」
「アルフォンス!」

 アルフォンスは家まで抱えたまま帰り、ルミエーラの要望が叶うことはなかったようだ。

 

 少し時間が経って、二人の元には可愛らしい双子の男の子と女の子が生まれた。
 ディートリヒ家は年々賑やかになり、ルミエーラとアルフォンスは最期まで幸せだったと神レビノレアは語る。
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