68 / 79
67. 消えていく不安
しおりを挟む噛み合っていない理由は、話を終えるとすぐにわかった。結論から言うと、叔父様の言う通りほとんど確定していたのだ。
この5日間、後処理を任されたウィルは色々と画策されたようで何とか私を高位貴族にしようと動いていたらしい。それも上手く行かず苦しい日々を過ごしたという。
魔神という存在は民の安寧を脅かすために公表できず、そうなると今回の功労者としてだけでは高い爵位を与える話は厳しいものとなった。それならば高位貴族の養女にしようかと悩み出した。だがそのタイミングである昨夜、叔父様によるカミングアウトが始まったらしい。
自身が王弟であり私の叔父であることなどを踏まえて、どうか離れ離れにしないでほしいと頼みに来たそうだ。その話を聞き入れたウィルは、エルフィールド国の生き残りとして爵位を受けてくれないかと提案をしたようだ。今となっては稀少な存在である魔法使いに加えて王家の血まで引いているとなれば、公爵として迎え入れるのは十分な待遇だ。
この形で話が進めることにしたウィルは、急いで国内の貴族用へ伝える話を作り上げた。
内容としては、こうなる。
まず、生き残っていたエルフィールドの姫と王弟は静かに暮らしていたが自分達以外の生き残りの存在を知り接触を試みた。すると、ラベーヌ公爵により同族である生き残りの魔法使いが国家反逆罪へ悪用されていることを知った。それを止めようと動き、ラベーヌ公爵の行いを最終的には暴いた。これにより大公を始めとするデューハイトン王家の損失は防がれることになった。
ということで、私と叔父様はこのシナリオのお陰で国内の貴族に反感を買うことなく、新たにデューハイトン帝国の公爵として迎え入れてもらえるようだ。叔父様からの提案で、今回の件で解体となるラベーヌ公爵家の後釜を勤めることになったようだ。
表向きがこうなっているが、裏ではこれが正統で相応の報酬だとウィルは言う。
私が眠っている間にここまで話が進んでいたようだ。そこには叔父様の配慮を感じた。これからは2人でそれぞれ新たな道を歩いていけるようにと。それでもどこかで繋がっていられるようにという思いを感じられた。
「……そんなに話が進んでいただなんて」
「残っていた問題はヴィーの気持ちだったから。兄上から、巡りあったとはいえこの数年で心変わりされてたら潔く諦めろと言われていたしね」
「へ、陛下から……」
驚くべき裏話だ。
「だからヴィーから返事がもらえなかったらその時点で、僕は玉砕というわけだ」
「……初めて知った」
「これでも酷く緊張していたんだよ?」
「さすがね、見えなかったわ」
優しく暖かな笑みからは、緊張の様子はまるで伺えなかった。
話題は報酬である爵位について移る。
「ちなみにだけどヴィー。新たに名乗る家名を決めてもらおうと思ってね」
「家名を……」
「あぁ。ここからは是非彼にも同席願おう」
そう告げると外で待機する者に叔父様を呼びに向かわせた。
「……ウィル」
「ん?」
「私の不安要素は……まだ消えてないわ」
「……それはもしかして」
「えぇ。お嬢様……フローラ様のことよ」
「あぁ、もしかして彼女の縁談を潰したと思っているのか」
「当たり前でしょう……お嬢様にとってこれ以上ない最良な相手だったのに」
「……それは国内の話だね。安心して、リフェイン嬢には本人が望む幸せを斡旋させてもらうから」
「だからそれが」
「僕じゃないよ、彼女にとっての最善は」
「え……?」
「リフェイン嬢の好みじゃないだろう。本人もこの話は承諾してる。むしろ感激されたくらいだから」
「……な、何故?」
「本人から聞いた方が説得力がますだろうから……この後彼女達も呼ぼうか」
「えぇ……」
お嬢様がウィルのことを好みでない話は聞いていたものの、まさか縁談が駄目になって感激するとはどう言った用件なのだろうか。
「失礼します」
叔父様が部屋へと到着した。
「お待ちしていましたよ」
ウィルと共に叔父様を出迎え、もう一度ウィルとは向かえに座る。隣は叔父様である。
「家名ですよね。ふむ……」
「家名……」
「自由に決めていいと、陛下から言われています」
叔父様には事前に伝えていたのだろうが、私からすれば唐突な投げ掛けなのでどうしていいか戸惑ってしまう。
「……叔父様、何か案はございますか」
「いや、少しの間考えたが何も浮かばない」
とは言え叔父様も1日もたっておらず、思い浮かばないのは仕方のないことであった。
「私は1つだけなら思い付きました」
「ならそれにしよう」
「何を考えたの?」
家名はこれから残る大切なもので、特に叔父様にとっては一生の名前となる。それをしっかりと踏まえた上でつけてほしい名前だった。
「フィーディリアです、叔父様」
「……!!」
「私はロゼルヴィア・フィーディリアとして、叔父様はライオネル・フィーディリアとして」
あの日のもう1つの功労者である花を称えたくて取ってみた。
「なるほど」
私の案に思わず感心して頷くウィル。
「……いいな、そうしよう」
「え、ほ、本当ですか」
「あぁ。これ以上のものはないと思う」
「こちらとしても、とても良い名前だと感じますね」
「……それなら」
思ったよりも簡潔に家名は決まったことに驚きながらも、大切にしていこうと暖かな気持ちが生まれるのであった。
「まぁ、ヴィーはすぐにデューベルンになるのだけど」
ウィルの小さな呟きはこちら側に届くことなく消えていった。
「そうだ、叔父様」
「どうした、ロゼ?」
フィーディリアと名乗り始めれば、私たちは親子になる。
「これからはお父様と呼んでも?」
「!!」
私にとっての本当の父はあの人に違いはない。だけれど、これから新しく始める人生には亡き人となる。淡白や冷たい人間かもしれないが、これからは隣に座るこの人のことを父と呼びたいと思うのだ。
「……いい、のか?」
「……是非、呼ばせてください。お父様」
「……あぁ、ロゼ」
暖かな視線が交差しながら、互いに笑みを溢した。少しの間沈黙が流れると、ウィルが気を取り直して告げた。
「……さて、フィーディリア嬢の最後の不安を取り除くとしようか?」
そう微笑むと、ウィルはフローラ様とリフェイン公爵をここへ呼びに向かわせたのであった。
35
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。
ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。
ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。
対面した婚約者は、
「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」
……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。
「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」
今の私はあなたを愛していません。
気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。
☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。
☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)
【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。
【完結】ご期待に、お応えいたします
楽歩
恋愛
王太子妃教育を予定より早く修了した公爵令嬢フェリシアは、残りの学園生活を友人のオリヴィア、ライラと穏やかに過ごせると喜んでいた。ところが、その友人から思いもよらぬ噂を耳にする。
ーー私たちは、学院内で“悪役令嬢”と呼ばれているらしいーー
ヒロインをいじめる高慢で意地悪な令嬢。オリヴィアは婚約者に近づく男爵令嬢を、ライラは突然侯爵家に迎えられた庶子の妹を、そしてフェリシアは平民出身の“精霊姫”をそれぞれ思い浮かべる。
小説の筋書きのような、婚約破棄や破滅の結末を思い浮かべながらも、三人は皮肉を交えて笑い合う。
そんな役どころに仕立て上げられていたなんて。しかも、当の“ヒロイン”たちはそれを承知のうえで、あくまで“純真”に振る舞っているというのだから、たちが悪い。
けれど、そう望むのなら――さあ、ご期待にお応えして、見事に演じきって見せますわ。
【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。
るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」
色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。
……ほんとに屑だわ。
結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。
彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。
彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。
死に戻りの元王妃なので婚約破棄して穏やかな生活を――って、なぜか帝国の第二王子に求愛されています!?
神崎 ルナ
恋愛
アレクシアはこの一国の王妃である。だが伴侶であるはずの王には執務を全て押し付けられ、王妃としてのパーティ参加もほとんど側妃のオリビアに任されていた。
(私って一体何なの)
朝から食事を摂っていないアレクシアが厨房へ向かおうとした昼下がり、その日の内に起きた革命に巻き込まれ、『王政を傾けた怠け者の王妃』として処刑されてしまう。
そして――
「ここにいたのか」
目の前には記憶より若い伴侶の姿。
(……もしかして巻き戻った?)
今度こそ間違えません!! 私は王妃にはなりませんからっ!!
だが二度目の生では不可思議なことばかりが起きる。
学生時代に戻ったが、そこにはまだ会うはずのないオリビアが生徒として在籍していた。
そして居るはずのない人物がもう一人。
……帝国の第二王子殿下?
彼とは外交で数回顔を会わせたくらいなのになぜか親し気に話しかけて来る。
一体何が起こっているの!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる