滅びた国の姫は元婚約者の幸せを願う

咲宮

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71. 7年越しの大役

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 迎えたお披露目パーティー当日。

 開催場所は王城で、高位貴族をはじめとした国内の貴族が招待された。予想以上に人が集まったことにより、私の緊張は最高潮を達していた。同じくお父様も緊張していたものの、全く表に出ないところは見習いたいと感じる。

 王城の控え室でそれぞれ支度を済ませる。

 最終的に私が本日着るドレスは群青色がベースのものとなった。装飾は全て銀色で行われており、とても華やかなものとなった。フィーディリアの花をイメージしたドレスになっている。髪はウィルがくれた飾りを着けるために、ハーフアップで後ろをまとめた。

 準備を無事済ませるが、思ったよりも時間が余ってしまい一人静かに待つことにした。それも一瞬で、準備を終えたことを耳にしたウィルが部屋を訪ねてくれた。

「失礼するよ。……ヴィー、よく似合ってる。本当に綺麗だ」

「ありがとう。ウィルも似合ってる」

 ウィルの服装は、宣言通り私と対になった色となった。銀色ベースで上から付けられた装飾は群青色となっている。

「思ったよりも早く支度が済んでしまって」

「準備が万端で悪いことはないからね」

「えぇ……」

 緊張のせいか、あまり綺麗な笑みができない。

「緊張してる?」

「えぇ。笑えるでしょう。この年齢で、初めて社交界に入るのですから」

「僕としては嬉しい限りだけれどね」

「え?」

「あの日の誓いと約束が果たせる」

「あ……」

 それは昔に交わして、叶えることができなかったもの。

「……待って」

「どうしたの」

「もしかしてまだ守ってくれてたりなんてしないわよね」

「そのもしかしてだけど」

「それってつまり、あれからも誰とも踊ってないってこと……?」

「そうだよ。僕のファーストダンスはヴィーだと決まっているからね」

「だから……フローラ様ともリズベットとも踊らなかったのね」

「そうだよ。彼女たちに関わらず、誰一人として僕は手を取らなかった」

 何だか二人に悪いことをしてしまった気分になった。選考会真っ只中のあの時でも、ウィルには確固たる想いがあったのだから二人が踊れることはなかったのである。ここから誘拐やらすれ違いやらに発展したが、結果的にこれは私の身にふりかかっていたので静かに相殺させてもらおう。

「これから先も踊ることはないと思っていたから……ヴィーの手を取れて本当に嬉しいよ」

「たくさん練習はしたから大丈夫だとは思うのだけれど……大役を務めるのはやはり不安だわ」

「そこはしっかりとリードするから」

「長い間踊ってないのに大丈夫?」

「少しは練習したから安心して」

「……知らなかった」

 ここ数日、淑女としての再教育を行っていたが裏ではウィルも練習をしていたようだ。私の練習時のパートナーはお父様が務めてくれた為に、ウィル一緒に練習することはなかった。お父様は初めて学ぶ割に上達がとても早く、リードもできるようになっていた。だが、それでも相手が完璧淑女のフローラ様ということもあり目指す場所は高かった。私も私でダンスはかなり詰め込んで練習をしていた。

「ヴィーはたくさん練習していただろう。だから大丈夫だと思うけれど」

「そうであってほしいと思ってる……」

「そんなに重荷に感じる必要はないよ」

「でも……今日こそウィルと踊らないと」

「ヴィー……」

「そうでないと、ウィルは一生誰とも踊れなくなってしまうわ。デューハイトン帝国のしきたりに従えば、私と踊ればこれからはお誘いを断らなくてよくなるでしょう。今まではメインであるダンスを楽しめなかったけれど、これからは大丈夫よ」

「…………はぁ」

 ウィルを気遣って言った言葉はどうやら的外れだったようで。

「何だか昔もこんな話をした気がするけど……ヴィー、いいかい?」

「な、なに?」

「ダンスは確かにパーティーのメインだ。それを楽しみに参加する貴族だって少なくない。けれどね、それを面倒に感じている人間もいるということをまずは理解してほしいな」

「そんな……踊るのが面倒なのに、付き合わせるのは申し訳ないわ」

「……違うよ。僕の場合は余計な人間とは踊りたくないんだ。ヴィー以外とは踊る気はない。基本的には親族以外の誘いを受けてる人は理解できないからね。愛する人とだけ踊ればいいものを」

「…………」

「ヴィー、たくさん踊りたいのならば僕が付き合うから。親族以外の男の誘いは受け付けないようにね?」

「わ、わかった」

 物凄い圧を帯びた笑みを浮かべるウィル。

「あと、できるだけ僕の傍を離れないように」

「それは絶対離れないわ、私一人じゃ貴族の方々の相手ができない気がして。むしろウィルこそ勝手に置いていかないでね。傍にいてね?」

 たくさん頭に叩き込んだとはいえ、フローラ様の域にたどり着くまではまだまだ時間がかかる。だから一人で行動するのは不安そのものなのだ。ウィルは時々気まぐれな所もあるから、念のため釘を指しておいた。隣に座っているもののウィルの顔の位置が高いため、少し目線が上がる。だがこちらは切実なので、瞳を見つめて訴えかけた。

「…………うん、もちろん」

 少し間を開けて頷いたが、何故か顔を反らされた。不思議に思いながらもすぐに戻ってきたので気にしないことにした。

「……はぁ、可愛すぎる」

 こんなことを呟いていたとも知らずに。
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