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第一部 お母様の闇落ちを防ぎます!

幕間 暗躍する義弟

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 ジョシュア・ルイス。

 元々はルイスという名前ではなかったが、養子となったためにこの名前を名乗ることになった。

 自分の持つオッドアイの目は嫌いで、いつも前髪で隠していた。周囲も気持ち悪がる人がほとんどで。それなのに、義姉になったイヴェットはこの瞳をこちらが引くぐらい好いている。

「ジョシュア、貴方の瞳は唯一無二よ! 世界のどこを探してもない宝石だわ!!」

 ある時はその素晴らしさを延々と語り、ある時は嬉しそうに瞳を見つめる。そんな変な義姉……姉だが、僕にとっては掛け替えのない人になった。

(……こんな良いものまでくれて)

 オッドアイなのを気にしないようにはしていた。姉様が褒めてくれた瞳だから。自信を持とうとしても、やはり人に見せるのにはまだまだ抵抗感があった。それでも外部講師が決まってしまい、屋敷の外の人間に関わらなくてはいけなくなった。

 そんな中での最高のプレゼントだ。

 褒めていた瞳を隠すだなんて驚いたが、姉様は何よりも僕の意思を尊重してくれた。それが嬉しくて、自室に戻ってはずっと眼帯を眺めていた。もちろん装着の練習も欠かさずに。

 眼帯をもらった翌日のこと。トーマスの授業は一通り終わったが、僕の希望でトーマスの知識をさらに教えてもらうことにした。

「おや、坊ちゃま。目は怪我をされましたか?」
「トーマス。心配しないで、怪我じゃないから」
「怪我ではない?」
「うん。僕が瞳を気にしているのを知って、姉様が隠せるように作ってくださったんだ」
「お嬢様が! 何とも精巧な作りですね。とてもお似合いです」
「ありがとう」

 そっと眼帯に触れながら、微笑むのだった。

「あ……そうだ、トーマス。例の件は調べてくれた?」
「はい。結果から申し上げますと、今後のお付き合いは控えた方がよろしいですね」

 例の件、というのはお母様が最近まで頻繁に利用していたドレス専門店のことだった。実はこの前、姉様が「あのお店……何か引っかかるのだけど、何かがわからない」と呟いていたのを偶然にも耳にし、何か役に立てないかと行動していたのだ。

 と言っても八歳で屋敷にしかいない子どもにできることは限られていたので、トーマスという心強い味方に助けてもらっていた。

「詳細についてですが、どうやら奥様は売れ残ったドレスを押し付けられる形で購入されているみたいで。その上相場の倍以上の値段で」
「……ふざけているね」
「さすがに度が過ぎていると思いましたので、今回はこちらで処理させていただきます」
「ありがとう、トーマス」

 処理については結果が出次第教えてもらえることになった。

「当然のことにございます。それにしてもお嬢様はよくお気づきになられましたね」
「僕にはよくわからなかったんだけど、仕立ててないならおかしいって言っていたよ」
「まさにその通りにございました。素晴らしい観察眼にございます」
「……僕も姉様のように見抜けるようにならないと」
「お坊ちゃまも十分聡明ですよ。ですが向上心を持つことは非常に良いことです。では、授業を始めましょうか」
「うん」

 これは自分のわがままだが、できることなら姉様よりも優秀になって何でも助けたいというのが本音だった。

(でもきっと、敵わない部分は一生敵わないだろうなぁ)

 それでもいいとさえ思ってしまうほど、姉様の太陽のような優しさにはすっかり心を許していたのだった。



 授業が終わると、姉様に頼まれていた件の調査を始めた。

「ねぇトーマス」
「はい、坊ちゃま」
「……お父様って、お母様のことどう思っているの?」

 姉様が知りたがっていたのは、お父様に関する調査だった。曰く、自分よりも教育面で関わりが多い僕の方が詳しく調べられるからという理由でお願いされたのだった。

「旦那様ですか……」
「うん」

 ここは純粋な子どもの質問としてなら、トーマスは答えてくれるかもしれないと思いながら尋ねた。

「申し訳ございません、坊ちゃま。旦那様は生まれてから今までお仕えをしておりますが、未だに私でも旦那様の御心を理解しきることは難しく……断定することはできないのですが」
(……確かにお父様は少し、いやかなり無表情な人だよな)

 姉であるイヴェットと比べると本当に親子かと思うくらい、お父様は表情筋が動かない。その上淡々としているので、感情がかなり見えにくいのは僕でさえわかる。

「……最近聞いた言葉ですと“静かだな”と」
「静かだな……」
「はい。ここのところ、奥様が旦那様のお部屋を訪問されなくなったことが関係あるのかもしれませんし……ないのかもしれません」
「そうか……あ。そのお母様が部屋に訪問する光景、僕は見たことがないのだけどどんな雰囲気なの?」
「そうですね……あくまでも奥様が一方的に話されているだけで。場所が書斎でもありますから、旦那様は仕事をしながら時々相槌を打つ程度の反応でしたね」
「追い出したりは?」
「全くされておりませんでした。というのも、奥様もそこまで長居はせずにいましたから」
「そっか……」

 そこまで聞いても、お父様が何を考えているかはわからなかったが、あと少し調べてから姉様には報告をしようと思うのだった。
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