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第一部 お母様の闇落ちを防ぎます!

23.頼れる伯父様の登場です

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 紅茶店からはそこまで時間がかからずに到着した。

 馬車から下りるとお母様は御者の人に、先に帰ってフォルノンテ公爵邸にいることをお父様に伝えるように指示した。
 そして二人で手をつなぎながら屋敷の中へと入るのだった。

「オフィーリア様、本日はいかがなさいましたか?」
「久しぶり、ジェームス。突然訪問してごめんなさい。お兄様はいらっしゃる?」
「はい、書斎の方に」
「お兄様とお話したいのだけれど、夜ならお時間空いていらっしゃるかしら?」
「確認して参りますので、応接室にてお待ちください」
「ありがとう」

 フォルノンテ公爵邸の執事長であるジェームスは、トーマスより年齢が上になる。それでも健康体そのもので、動きも俊敏なので足早に伯父様の元へ向かってくれた。

「さぁイヴちゃん、応接室に行きましょう」
「はい、お母様」

 大きすぎる屋敷は、いつか探検したいと思うほどだった。迷わないようにお母様の手をぎゅっと掴みながら、応接室へと向かった。すれ違った侍女にお茶をお願いして中へと入る。

「ささ、座ってイヴちゃん」
「隣でいいですか?」
「もちろんよ」

 伯父様を待つ時間になったが、私はお母様に公爵邸に来た理由を尋ねることにした。

「お母様……ちなみにフォルノンテ公爵邸に来て何をなさるおつもりですか?」
「……少しだけ、権力を貸してもらおうと思って」
「それは……」
(お父様に頼らなくて良いのかしら)

 心の中で留めた疑問だったが、お母様には届いていたようだった。

「ユーグリット様には……頼れないわ。事情を説明するのに、言い訳だと思われるのもあきれられるのも怖くてできないの」
「あ……」

 お母様の気持ちはただ一つ、お父様にこれ以上嫌われたくないというものだった。確かに、散々迷惑をかけるような行為をしてきた想い人に、困っているから助けてくれとはなかなか言いにくい。

「それに、今度お茶会を開くと皆様に約束したでしょう?」
「そうですね」
「その時に、少しご迷惑をかけることにもなると思うから。ユーグリット様には、その時に頼るつもりよ」

 全く頼らないわけではないということを聞くと、安堵するとともに自然と応援する気持ちが強くなるのだった。

「もちろん、イヴちゃんにも」
「お母様」
「困った時はすぐに頼るわ」
「任せてください……!」

 ここまで来てしまえば、大人の世界になって来るが、お母様はそれでも私も頼ると明言した。その気持ちが嬉しくて、思わず笑顔になった瞬間、勢いよく扉が開かれた。

 バンッ!!

 突然の大きな音に驚いて体が縮こまってしまう。

「オフィーリア! 何かあったのか⁉」
「お兄様、部屋に入ると時はノックですよ。それと、大きな音で入って来てはいけません。イヴちゃんがびっくりしてしまったじゃないですか」

 扉の方を見れば、お母様に雰囲気の似た美丈夫であるアルフレート・フォルノンテ公爵がこちらを見ていた。
 お母様の言葉に納得すると、すぐにこちらに駆け寄りながら謝罪をした。

「これは失礼。侯爵家の小さな姫までお越しとは」
「ご無沙汰しております、伯父様」
「相変わらずイヴェットは賢いな。礼儀作法も完璧だ」
(一言しか喋っておりませんよ)

 ぺこりと頭を下げて挨拶をしただけで完璧扱いしてくる伯父様には苦笑してしまう。
 
 私の伯父様に対する印象は、とても明るく優しい人。そして、凄くシスコンだということがある。
 妹思いの素晴らしい兄ではあると思うが、大切に育てた結果、世間知らずになっているので、過保護にし過ぎた責任の一端は彼にある。

 そして、伯父様には息子が一人いるものの、娘がいないため、私を凄く可愛がってくれている。その証拠が、先程の完璧発言だ。

 私達の向かい側に座る伯父様は、心配そうな面持ちで再びお母様に尋ねた。

「それにしてもどうしたんだオフィーリア。まさかユーグリットと喧嘩でもしたのか?」
「いいえ。今回ユーグリット様は関係ありません」
「そうか。いつでも公爵家に帰ってきていいと言うつもりだったんだが、違うなら仕方ないな」
「お気持ちだけ受け取りますね」

 にこりと微笑むお母様は、早速本題に入った。

「実は少し、フォルノンテ公爵家のお力をお貸しして欲しくて」
「どうした、ルイス侯爵家になにかあったのか」
「ですから、ユーグリット様は関係ありません」

 少しむすっとしながらお母様が返答すると、伯父様は綺麗な笑顔で「すまない」と返していた。お父様を少し悪く言ってはいるものの、伯父様はしっかりとお父様を認めていることを私は知っている。

「……長年に渡り、友人に騙されていたんです。なので、いただいた借りをしっかりとお返ししたくて」
「ほう、珍しいな。オフィーリアがそんなことを言い出すとは」
「……私もそう思いますわ」
「……何か心境の変化があったのか?」

 伯父様からしても、お母様の成長という名の変化には目を見張るものがあるよう。

「変、でしょうか?」
「いや、驚いたんだよ。……今まで“やり返す”なんて言葉出てこなかっただろう。そんな言葉とは無縁になるように安全に育てたというのもあるが」

 伯父様、それを過保護と言います。

「それに、確かに雰囲気が変わった気がするな。何だか強くなった母のようだ」
「それは嬉しいですね」
「にしても本当に急だな。何かあったのか?」
「……イヴちゃんのおかげです」

 そっと私の方を見つめるお母様。それを言ってもらえるのは嬉しかったが、伯父様が納得してくれるのか不安がよぎった。しかし、沈黙を破ったのは相変わらずの甘い発言だった。

「やはりイヴェットは天才だったか」
「そうなんです、イヴちゃんは天才なんです」
(……そうだった、親バカならぬ姪バカだった)

 本来ならどうやって変えたのか等の具体的な話を求められるところだが、自分から詮索しないのが伯父様の気遣いだと思った。そこもシスコンかもしれないが。

「その心境の変化は良いことだな。……それで」

 伯父様は心境の変化を喜ぶと、次の瞬間部屋の中の室温が一気に下がった。

「誰なんだ? オフィーリアを騙したという、命知らずは」
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