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第4話 女の子だったら…よかったのかな(3)

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 その後、不破が自宅まで送ってくれると言うので、犬塚は素直に甘えることにした。
 道すがら他愛のない話をして、いつものように笑い合う。けれども、会話の内容は半分くらいしか頭に入ってこなくて、漠然とした不安が渦巻くばかりだった。
「先輩、送ってくれてありがとうございましたっ。今日、とっても楽しかったです!」
「俺もすげー楽しかった。またどっか行こうな」
 自宅の前に到着し、別れを惜しみながら言葉を交わす。
 本当はまだ一緒にいたい。もっと話がしたい。だが、そんなワガママを言うわけにもいかず、犬塚は挨拶もそこそこに家に入ろうとしたのだが、
「待て待てっ、犬塚」
「はい?」
 呼び止められて振り向けば、不破はどこか照れくさそうな表情を浮かべていた。
「犬塚、手ェだして」
「へっ? あ、はい」
「あー、あと目もつぶってくんね?」
「……?」
 犬塚は言われるがままに手を差し出す。
 目をつぶっていると、手首に何かが触れてパチンッという音が聞こえた。
「目、もう開けていいぞ」
 不破の言葉にドキドキしながら瞼を開き、そして自分の手首に視線を落としてみる。そこには、ホワイトカラーのレザーブレスレットがあった。
「あああのっ、これって!」
「なんつーか、初デートの記念的な? で、俺のも――」
 と、水族館のロゴが入った紙袋の中から、同じデザインのブレスレットを取り出し、気恥ずかしげに装着してみせる。
 犬塚はホワイト、不破はネイビー。色違いのお揃いである。
「あっ、あ、ありがとうございます! すみません、俺そんなの全然考えつかなくてっ」
「俺がお前に贈りたかっただけだからいーの。よかった、喜んでもらえたみてェで」
「はいっ! すごく、ものすっごく嬉しい。先輩から、初めてのプレゼント……」
 そっとブレスレットに手をやり、そのまま包み込むように胸元へと抱き寄せる。
 ほかでもない不破からの贈り物――恋人同士になってから初めての。それも、お揃いのものだなんて。こんなの嬉しくないはずがない。
(だめ……先輩、俺やっぱり先輩のことが大好きです――)
 だからこそ、ふと生まれた不安が重くのしかかってくる。
 相手の気持ちを疑うなんてしてはいけないとわかっていても、どうしたって心の奥底ではくすぶってしまうのだ。この夢のような幸せはそう長くは続かないかもしれない、と。
 人と人との縁は案外脆いものだと、幼い頃に両親から学んでいる。今はまだいいとしても、いずれ別れることになってしまったら――想像するだけで怖くて堪らない。
「っ、う……」
 気がついたときには視界がぼやけていた。耐えきれずに涙がぽろぽろとこぼれて、頬を伝っていく。
「なんで泣く!?」
「す、すびばぜっ……やなこと、たくさん考えちゃって」
 慌てて涙を拭う。だが、一度溢れ出したものはなかなか止まらず、結局泣きじゃくることになってしまった。
 不破はぎょっとしていたものの、やがて意を決したかのように犬塚の手を取ってきた。
 ぐいと引き寄せられたかと思うと、強い力で抱きしめられて身動きが取れなくなる。驚きのあまり、手にしていた荷物が地面にどさりと落ちた。
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