子持ちオメガはもう恋なんてしないのに~一途な年下アルファと幸せ紡ぐ日々~

有村千代

文字の大きさ
52 / 78

第8話 恋する二人は××したい(1)


 虫の合唱が聞こえるほどの静かな夜。
 静寂を破るかのように、脱衣所から小さな身体が飛び出していった。

「あっ、優! パジャマ着てってば!」

 春陽はバスタオルを腰に巻いて、慌てて後を追いかける。
 直後、リビングの方から聞き慣れた声がした。

「つっかまえた~!」

 迎え撃つように立っていたのは湊だった。まるで動きを読んでいたかのように、優の身体を抱き止める。

「優、パジャマ着ないの?」

 顔を覗き込みながら、湊が優しく問いかけた。すると、優はぷくっと頬を膨らませる。

「だって、あちゅいんだもん!」

「あははっ、俺もよくやる! 暑いと、服着るの嫌になっちゃうよね?」

 湊の共感を受け、優は「でしょー?」と言わんばかりにうんうんと頷く。
 ただ、湊はそのままでは終わらなかった。

「だーけーどーっ」

 わざとらしく語尾を伸ばす湊に、優は首をかしげてきょとんとする。

「『にゃんにゃんマン』のパジャマ……優が着てるの、見たかったなあ」

 ――うまい。危うく、イヤイヤとなってしまうところだった。
 途端、優の表情がパッと明るくなる。

「み、みたい? みーくん、ゆうがパジャマきてるとこ、みたいっ!?」

「うん、見たい! めっちゃ見たい!」

 湊が大きく頷けば、優は嬉しそうに笑って、「じゃあ、みせたげる!」と湊の腕の中からスルリと抜け出た。
 小さな背中が、脱衣所へと消えていくのを見届けると、春陽はふうっと胸を撫で下ろす。

 そうして、何気なく顔を上げたそのとき。

「………………」

 湊が、こちらを見ていた――ような。
 ほんの一瞬のことで、春陽が気づいたときには、もうそっぽを向いていた。

「春陽さんも。暑いからって、湯冷めしちゃうよ?」

「あっ……うん」

 少しだけ、言葉に戸惑いが混じった気がした。が、気のせいかもしれない。
 春陽は苦笑まじりに頷くと、濡れた前髪を指先でかき上げる。

「俺も着替えてくるよ。優のこと、いつもありがとね」

 そう返してから、脱衣所の方へと歩いていった。
 ドアを開けると、お気に入りの『にゃんにゃんマン』パジャマに着替えた優が、洗面台の前でポーズを取っていた。

「どう? かっこいい?」

 胸を張るようにして尋ねてくる様子に、春陽はクスッと笑う。

「うん、すっごくかっこいい! 湊くん、きっと大喜びだよ」

「へへっ! みーくんに、はやくみせてくるー!」

「急いで転ばないようにねー……って、聞いてないか」

 まあ、湊が見てくれるだろう。バスタオルを外して、パジャマに着替えつつ――春陽はふと、湊とのことを思う。

(――湊くんと付き合いはじめて、少しだけ経った)

 ざっと二週間ほどだろうか。
 とはいえ、特に何かが大きく変わったわけではなかった。

 こうして湊が、優のよき遊び相手になってくれるのは相変わらず。メッセージのやり取りや、通話をすることは以前より増えたけれど、劇的に距離感が縮まった感覚もない。

 ただ、ふとしたときに感じる空気感が、堪らなく愛おしく思えることがあって、確かに春陽の心をくすぐっていた。

(恋人ってだけで、胸がドキドキして……なんだか楽しい)

 まるで、思春期の頃に戻ってしまったかのように。
 大人げなくも初めての恋愛。付き合いたての雰囲気に浮かれているのは、間違いなかった。
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。

きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。 自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。 食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

後宮に咲く美しき寵后

不来方しい
BL
フィリの故郷であるルロ国では、真っ白な肌に金色の髪を持つ人間は魔女の生まれ変わりだと伝えられていた。生まれた者は民衆の前で焚刑に処し、こうして人々の安心を得る一方、犠牲を当たり前のように受け入れている国だった。 フィリもまた雪のような肌と金髪を持って生まれ、来るべきときに備え、地下の部屋で閉じ込められて生活をしていた。第四王子として生まれても、処刑への道は免れられなかった。 そんなフィリの元に、縁談の話が舞い込んでくる。 縁談の相手はファルーハ王国の第三王子であるヴァシリス。顔も名前も知らない王子との結婚の話は、同性婚に偏見があるルロ国にとって、フィリはさらに肩身の狭い思いをする。 ファルーハ王国は砂漠地帯にある王国であり、雪国であるルロ国とは真逆だ。縁談などフィリ信じず、ついにそのときが来たと諦めの境地に至った。 情報がほとんどないファルーハ王国へ向かうと、国を上げて祝福する民衆に触れ、処刑場へ向かうものだとばかり思っていたフィリは困惑する。 狼狽するフィリの元へ現れたのは、浅黒い肌と黒髪、サファイア色の瞳を持つヴァシリスだった。彼はまだ成人にはあと二年早い子供であり、未成年と婚姻の儀を行うのかと不意を突かれた。 縁談の持ち込みから婚儀までが早く、しかも相手は未成年。そこには第二王子であるジャミルの思惑が隠されていて──。

胎児の頃から執着されていたらしい

夜鳥すぱり
BL
好きでも嫌いでもない幼馴染みの鉄堅(てっけん)は、葉月(はづき)と結婚してツガイになりたいらしい。しかし、どうしても鉄堅のねばつくような想いを受け入れられない葉月は、しつこく求愛してくる鉄堅から逃げる事にした。オメガバース執着です。 ◆完結済みです。いつもながら読んで下さった皆様に感謝です。 ◆表紙絵を、花々緒さんが描いて下さいました(*^^*)。葉月を常に守りたい一途な鉄堅と、ひたすら逃げたい意地っぱりな葉月。

釣った魚、逃した魚

円玉
BL
瘴気や魔獣の発生に対応するため定期的に行われる召喚の儀で、浄化と治癒の力を持つ神子として召喚された三倉貴史。 王の寵愛を受け後宮に迎え入れられたかに見えたが、後宮入りした後は「釣った魚」状態。 王には放置され、妃達には嫌がらせを受け、使用人達にも蔑ろにされる中、何とか穏便に後宮を去ろうとするが放置していながら縛り付けようとする王。 護衛騎士マクミランと共に逃亡計画を練る。 騎士×神子  攻目線 一見、神子が腹黒そうにみえるかもだけど、実際には全く悪くないです。 どうしても文字数が多くなってしまう癖が有るので『一話2500文字以下!』を目標にした練習作として書いてきたもの。 ムーンライト様でもアップしています。

召喚された世界でも役立たずな僕の恋の話

椎名サクラ
BL
――こんなにも好きになるのだろうか、あれほど憎んでいた相手を。 騎士団副団長であるアーフェンは、召喚された聖者の真柴に敵意を剥き出しにしていた。 『魔獣』と対抗する存在である聖者は、騎士団存続の脅威でしかないからだ。 しかも真柴のひ弱で頼りない上に作った笑いばかり浮かべるのを見て嫌悪感を増していった。 だが最初の討伐の時に発動した『聖者の力』は、怪我の回復と『魔獣』が持つ属性の無効化だった。 アーフェンは騎士団のために真柴を最大限利用しようと考えた。 真柴も困っていた。聖者は『魔獣』を倒す力があると大司教に言われたが、そんな力なんて自分にあると思えない。 またかつてのように失敗しては人々から罵声を浴びるのではないかと。 日本に大勢いるサラリーマンの一人でしかなかった真柴に、恐ろしい魔獣を倒す力があるはずもないのに、期待が一身に寄せられ戸惑うしかなかった。 しかも度重なる討伐に身体は重くなり、記憶が曖昧になるくらい眠くなっては起き上がれなくなっていく。 どんなに食べても身体は痩せ細りと、ままならない状況となる。 自分が聖者の力を使っているのを知らないまま、真柴は衰弱しようとしていた。 その頃アーフェンは知るのだ、聖者の力は命と引き換えに出されるのだと。 そうなって初めて、自分がどれほどひどいことを真柴にしたかを思い知らされた。 同時にあれほど苛立ち蔑んだ真柴に、今まで誰にも感じたことのない感情を抱いていることにも。 騎士団を誰よりも大事にしていた副団長は、ある決意をするのだった……。 騎士団副団長×召喚された聖者の不器用な恋の話です。

【完結】おじさんはΩである

藤吉とわ
BL
隠れ執着嫉妬激強年下α×αと誤診を受けていたおじさんΩ 門村雄大(かどむらゆうだい)34歳。とある朝母親から「小学生の頃バース検査をした病院があんたと連絡を取りたがっている」という電話を貰う。 何の用件か分からぬまま、折り返しの連絡をしてみると「至急お知らせしたいことがある。自宅に伺いたい」と言われ、招いたところ三人の男がやってきて部屋の中で突然土下座をされた。よくよく話を聞けば23年前のバース検査で告知ミスをしていたと告げられる。 今更Ωと言われても――と戸惑うものの、αだと思い込んでいた期間も自分のバース性にしっくり来ていなかった雄大は悩みながらも正しいバース性を受け入れていく。 治療のため、まずはΩ性の発情期であるヒートを起こさなければならず、謝罪に来た三人の男の内の一人・研修医でαの戸賀井 圭(とがいけい)と同居を開始することにーー。

【完結済】極上アルファを嵌めた俺の話

降魔 鬼灯
BL
 ピアニスト志望の悠理は子供の頃、仲の良かったアルファの東郷司にコンクールで敗北した。  両親を早くに亡くしその借金の返済が迫っている悠理にとって未成年最後のこのコンクールの賞金を得る事がラストチャンスだった。  しかし、司に敗北した悠理ははオメガ専用の娼館にいくより他なくなってしまう。  コンサート入賞者を招いたパーティーで司に想い人がいることを知った悠理は地味な自分がオメガだとバレていない事を利用して司を嵌めて慰謝料を奪おうと計画するが……。