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第8話 恋する二人は××したい(1)
虫の合唱が聞こえるほどの静かな夜。
静寂を破るかのように、脱衣所から小さな身体が飛び出していった。
「あっ、優! パジャマ着てってば!」
春陽はバスタオルを腰に巻いて、慌てて後を追いかける。
直後、リビングの方から聞き慣れた声がした。
「つっかまえた~!」
迎え撃つように立っていたのは湊だった。まるで動きを読んでいたかのように、優の身体を抱き止める。
「優、パジャマ着ないの?」
顔を覗き込みながら、湊が優しく問いかけた。すると、優はぷくっと頬を膨らませる。
「だって、あちゅいんだもん!」
「あははっ、俺もよくやる! 暑いと、服着るの嫌になっちゃうよね?」
湊の共感を受け、優は「でしょー?」と言わんばかりにうんうんと頷く。
ただ、湊はそのままでは終わらなかった。
「だーけーどーっ」
わざとらしく語尾を伸ばす湊に、優は首をかしげてきょとんとする。
「『にゃんにゃんマン』のパジャマ……優が着てるの、見たかったなあ」
――巧い。危うく、イヤイヤとなってしまうところだった。
途端、優の表情がパッと明るくなる。
「み、みたい? みーくん、ゆうがパジャマきてるとこ、みたいっ!?」
「うん、見たい! めっちゃ見たい!」
湊が大きく頷けば、優は嬉しそうに笑って、「じゃあ、みせたげる!」と湊の腕の中からスルリと抜け出た。
小さな背中が、脱衣所へと消えていくのを見届けると、春陽はふうっと胸を撫で下ろす。
そうして、何気なく顔を上げたそのとき。
「………………」
湊が、こちらを見ていた――ような。
ほんの一瞬のことで、春陽が気づいたときには、もうそっぽを向いていた。
「春陽さんも。暑いからって、湯冷めしちゃうよ?」
「あっ……うん」
少しだけ、言葉に戸惑いが混じった気がした。が、気のせいかもしれない。
春陽は苦笑まじりに頷くと、濡れた前髪を指先でかき上げる。
「俺も着替えてくるよ。優のこと、いつもありがとね」
そう返してから、脱衣所の方へと歩いていった。
ドアを開けると、お気に入りの『にゃんにゃんマン』パジャマに着替えた優が、洗面台の前でポーズを取っていた。
「どう? かっこいい?」
胸を張るようにして尋ねてくる様子に、春陽はクスッと笑う。
「うん、すっごくかっこいい! 湊くん、きっと大喜びだよ」
「へへっ! みーくんに、はやくみせてくるー!」
「急いで転ばないようにねー……って、聞いてないか」
まあ、湊が見てくれるだろう。バスタオルを外して、パジャマに着替えつつ――春陽はふと、湊とのことを思う。
(――湊くんと付き合いはじめて、少しだけ経った)
ざっと二週間ほどだろうか。
とはいえ、特に何かが大きく変わったわけではなかった。
こうして湊が、優のよき遊び相手になってくれるのは相変わらず。メッセージのやり取りや、通話をすることは以前より増えたけれど、劇的に距離感が縮まった感覚もない。
ただ、ふとしたときに感じる空気感が、堪らなく愛おしく思えることがあって、確かに春陽の心をくすぐっていた。
(恋人ってだけで、胸がドキドキして……なんだか楽しい)
まるで、思春期の頃に戻ってしまったかのように。
大人げなくも初めての恋愛。付き合いたての雰囲気に浮かれているのは、間違いなかった。
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